「地域力」への関心が高まっている。どんな「地域」にも歴史と文化はある。祭事、料理などの技能も伝承されている。これらすべてがあいまって地域は磁場を形成する。その中核に地域力がある。うまく発掘し再編集すれば街全体の活性化につながる。地域力は防災と安全の鍵でもある。阪神・淡路大震災で救助を必要とした人が3.5万人いた。うち2.7万人が近所の人に助けられたというデータがある。

祭りが高める地域力

 地域力を温存・継承する最良の手段は祭りである。唐津のおくんちや京都の祇園などではお囃子練習のためにひんぱんに近所が集まる。そこでしきたりも教わる。祭りの盛んな町では地域の連帯が強い。犯罪、災害時にも助けあう。祭りは楽しいだけでなく、非常時に向けた生活の知恵でもある。地域の活性化を考え、祭りを新しく作った例もある。札幌の「よさこいソーラン祭り」は北海道大学の学生達が始めた。岡山の桃太郎まつりは当時の市長の発案で始まった。新しい祭りの場合は転勤族やUターンで戻ってきた人たちの活躍の場も多い。祭りのほかに大イベントを新しくつくるというのも活性化のひとつの方法である。信州・飯田の人形劇(いいだ人形劇フェスタ)、夕張の映画祭(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭。2007年は中止となったが来年の復活に向けNPOが活動中)、昨年静岡・嬬恋で31年ぶりに開催された「つま恋コンサート」や、新潟のトリエンナーレ(越後妻有アートトリエンナーレ)がその例だ。

ふつうの住民が参加できる写真展――「私の町の物語」展

 さて祭りやイベントよりも手軽に多くの住民を巻き込んで「地域力」を発掘する手法がある。「私の町の物語」と題する写真展である。これまで、東京・港区などが実施している。昔の写真、例えば建設中の東京タワーをバックに工事現場で働く人の姿、東京タワーの下でおばさんがゆで卵を一つ30円で売っている姿などが次々に展示される。まさに映画「ALWAYS 3丁目の夕日」の世界である。この写真展が強い共感を呼ぶのは普通の住民が主人公になっていることだ。60年前の写真の主人公の少女が今、同じ場所に立つ。風景はすっかり変わったがよく見ると戦災を免れ、今に残る石壁や大木が見つかったりもする。なぜかほっとする。老人は孫に昔の暮らしを説明し息子たちは子供時代を懐かしむ。家族の会話が弾む。何気ない昔の日常の風景ばかりだ。だが長い歳月を経て、誰にとってもとてもいとおしい景色となる)

プロジェクトのプロセス自体がイベントであり地域おこし

 プロジェクト「私の町の物語」では若者たちが地域に住む中高年の人たちに話を聞いていく。聞かれる側は話すうちに昔のことを思い出す。やがて昔の写真を出して来てくれる。話を聞かれる側はうれしい。「私の町の物語」展では著名人ではなくふだんは観客側でしかない普通の人が主役になる。そのことがさらに人々の共感を呼び、ひいては地域に対する興味と愛着を呼び起こす。

 東京・港区の例にならい岩手県雫石町でも昨年、町の50周年記念の写真展を開催した。役場の職員が手伝い、町内会の協力を得て古い写真を集めた。会場のあちこちで歓声が沸く楽しい企画となった。

 「私の町の物語」の写真展は地域力発掘の導火線となる。開催に必要な予算はわずかでよい。昔の写真を持ち寄って手づくりで手分けしてやる。自分たちで準備することで若者と老人など世代を超えた新しい人間関係が生まれる。地域力づくりの初期投資として考える。さらに写真展は観光客向けの宣伝にもなる。地元広報誌や情報誌に名場面を連載するのもよい。旅館に1冊、「私の町の物語」の写真集を置いておけば、とてもセンスのよい小道具となる。各地がこうした取り組みをすることで日本全体の地域力も向上するはずである。

上山氏写真

上山信一(うえやま・しんいち)

慶應義塾大学教授(大学院 政策・メディア研究科)。運輸省、マッキンゼー(共同経 営者)、ジョージタウン大学研究教授を経て現職。専門は行政経営。行政経営フォーラム代表。『だから、改革は成功する』『新・行財政構造改革工程表』ほか編著書多数。