「えっ!」。携帯電話の画面転換に一瞬ついて行けず,どこを見てよいかが分からなくなった。そして目に入ってきたのは,「合格です」の文字。札幌空港の海鮮レストランで,私は心の底から「やったー」と,口には出さずに叫んでいた。

シスアドとの出会い

 シスアド(システムアドミニストレータ)との出会いは,4年前に遡る。2003年4月,私は約20年走り回ってきた営業の現場から,営業支援システムの企画担当となった。席はシステム部署の一席を間借りの状態。目の前を飛び交うのは四文字熟語ならぬ四文字英語。ADSL,HTML,RAIDなどなど,私にとっては子守唄にしか聞こえない状態であった。

 日々さまざまな質問で周りのシステム担当者の手を止めながら,やはり最低限の基礎知識は勉強しておこうと,初級シスアド講座に入学したのがその年のゴールデンウィークだった。

 その秋,5カ月間の講座習得を経て,10月に初級シスアド試験(初級システムアドミニストレータ試験)をひとまずクリアした。この間に学んだシステム知識やSQLの知識などは,既にRFP作成やプロトタイプ検討など,日々の業務でも大いに役立っていた。そのため,上級シスアド試験(上級システムアドミニストレータ試験)へのステップアップは,私にとっては当然の流れであった。

初めての不合格

 上級シスアド試験は毎年秋の1回のみであり,私は初級のときと同様の感覚で,4月から本格的な勉強をスタートさせた。当初,勉強の中心は,やはりシステム系の知識の学習であり,待ち行列やFTTPなど,午前試験対策が中心となっていた。逆に午後の試験については,長年現場で得た経験を基に書き上げることで,クリアできると感じていた。このことが,初受験の私を不合格にした理由であった。

 午後の問題について,当時の私の感覚は,自分の書いた答えと本来の解答の差を,単に「表現の違い」と思い込むありさまであった。その原因は実は2つあった。

 1つは,営業現場の感覚で考える私としては,問題文を読んだ時にまず考えるのは「過去の経験をどのように応用して課題を解決するか」であって,原因をしっかりと分析してから積み上げ的に解決策を考える習慣がなかったことである。

 つまり問題文を読んでも,ついつい現象面の記述ばかりが目に入り,背景や原因を読み飛ばしていた。そのために,全く意味不明な答えを書き連ねていることに気づいていなかった(たまたま解答と一致することもあったが)。

 もう1つは,マネジメント用語や戦略ツールに関して,「言葉は知っている」というレベルの中途半端な知識があったことが,逆にマイナスになっていたことである。知識として知ってはいたが,いざ応用編のケーススタディとして出されると,全くその活用方法が思い浮かばなかった。

 このように,過去の経験のみを最大の拠り所とした「瞬間的ヒラメキ」中心の発想と,応用の利かない知識が,初回試験が不合格になった最大の理由だった。

不合格再び

 普通,ここまで分析できていれば,翌年の試験は晴れて合格となるはずであったが,結果はまたもや不合格だった。午後I試験はクリアできていたが,今度は午後II試験が私にストップをかけた。不合格のショックはかなり大きかった。なぜなら,本番前の模擬試験で,合格可能性がA(合格ライン)だったからだ。

 実はこの瞬間から翌年7月まで,私は全く「シスアドのシの字」も考えなかった。「もう止めた」---これが私の正直な思いであった。その私に「せっかく勉強したのにもったいないから,もう一度受けてみたら」と言ったのは,翌年3月に高校受験を控えていた長男だった。子供の手前,最後までやりもせずに,あきらめてほったらかすわけにもいかず,ファイナルチャレンジを決めたのが2006年7月のことだった。

 それから私は,もう一度全体的な知識をおさらいするとともに,昨年の不合格の原因を分析した。一言でいえば「準備不足」なのだが,問題は準備の仕方にあった。

 不合格となった午後II試験は論文であり,自らの経験を素材として,与えられた課題について,作業した内容と背景となる考え方を述べてゆく。時間的には,2時間で最低2400文字以上を完成させなければならない。そのうえ論文の課題は,抽象的な一般論ではなく,具体的に絞り込んだ切り口での論述を求めている。

 前回の失敗の原因は,一つの切り口でしか,論文の準備していなかったことだった。それが,模擬試験では,たまたま課題とフィットしていたのだ。

 とはいえ,現実の業務では,そんなに様々なプロジェクトが経験できるわけではない。「ではなぜ出題者は,このように絞り込んだ切り口での論述を求めているのだろうか」と思ったとき,私の気持ちに日が差し込んだ。

 現実の業務は,様々な局面と目的を持っている。その中で各部門の意見調整をしたり,トライアル的な解決策を考えたり,いろいろな要素が絡み合っている。つまり,1つの業務経験であっても,目的としての切り口や手法としての切り口,活用する情報からの切り口など,そこから得られる経験は多面的なのだ。そこで私は過去の業務を様々な切り口から分析し,それぞれの切り口で整理していった。

プラスになった経験

 こうして2006年10月,3回目の受験当日,試験が終わったときの感想は「やるだけのことはやった。これでダメなら,情報処理技術者試験とはオサラバだ」であった。

 そして,合格発表日。冒頭で述べたように,なんとか「合格です」の表示を見ることができた。今から考えれば,この経験は,単に資格試験合格だけではなく,“非日常的な楽しさ”であったと同時に,私自身のものの見かた,考え方を少し広く,少し深くしてくれたように感じている。

試験概要:上級システムアドミニストレータ試験
経済産業省の情報処理技術者試験の1区分。利用者側において,業務の中でどのように情報技術を活用すべきかを判断しながら,業務改革・改善を推進する能力を認定する。試験科目は,午前(選択式),午後I(記述式),午後II(小論文)の3部構成。合格率は8~10%程度。

篠原 忠義(しのはら ただよし)
製薬会社の医療機器販売部門で,10年の現場営業と10年の営業マネージャー経験を経て,システム企画担当に異動。社内の営業支援システムの企画・推進を担当。上級システムアドミニストレータ連絡会正会員。