米Yahoo!が決算を発表した4月17日,同社株は急落した。同日のYahoo!株価は,場中前日比0.48ドル(1.5%)増と上昇したが,引け後の時間外取引で下がり続けた(図1)。同社が発表した2007年第1四半期業績は,純利益が1億4200万ドルで前年同期から11%の減益。売上高は前年同期比で7%増となったものの,前期からは減収(関連記事)。過去15四半期続いてきた売上高の記録更新は止まった。そうした成長鈍化を嫌気し,市場は大きく反応した。

図1●Yahoo! FINANCEの株価チャート   図1●Yahoo! FINANCEの株価チャート
4月17日のYahoo!株終値は32.09ドル。しかし時間外取引で終値から8%下落した。翌日,翌々日もさらに下がり,結局この週は27.46ドルにまで落ち込んだ。
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 翌日以降,米eBay,米Google,米Amazon.comも決算を発表し,主要ネット企業の第1四半期決算が出そろった。eBayは過去最高の売上高で52%増益(関連記事),Googleは63%増収,69%増益(関連記事),Amazon.comは純利益倍増(関連記事)と,いずれも大幅な増収増益を報告し,Yahoo!の不振ぶりが浮き彫りになった。

大きすぎた期待と落胆

 Yahoo!といえばかつて,ネット・バブル崩壊に泣いた企業。しかし,2002年から2003年にかけてようやくその影響から脱し,みごとなまでの「V字回復」を果たした(関連記事)。同社はその後も好業績を続け,ここ最近は新たな検索広告プラットフォーム「Panama」(関連記事)や,新聞社グループとの提携拡大(関連記事)など,矢継ぎ早に施策を発表。新たな局面に進もうとしている。今回の株価急落はその矢先の出来事だった。

 このことは業界にも動揺をもたらし,海外メディアでも大きく報じられた。たとえば,New York Timesでは,大きすぎたYahoo!への期待感と同社が抱える課題といった視点でレポートしている(New York Timesの記事)。同記事によると,投資家は「Panama」の成果について多大なる期待を寄せていたという。

 Panamaは,同社の新中核事業の一環として開発を進めてきた検索広告販売システムである。検索キーワードの入札価格に加え,広告品質も評価対象にし,表示順位を動的に決定するといった仕組みを持つ。しかしその開発は当初の計画より遅れ,今ようやく米国で導入が完了したばかり。今回の決算発表でYahoo!は,日本の主要な顧客にもPanamaの提供を始めたことを明らかにしたが,ほかの国への提供は今後数カ月先になるという(CNET News.comの記事)。

伸び悩む検索市場シェア

 決算発表の電話会見でCEOのTerry Semel氏らは,Panamaの出足が好調であることを強調した。顧客の反応が大変よいという。またPanamaの成果は第2四半期に顕著なものになり,海外で本格始動する今年後半には,業績にも大きく寄与すると自信を示した。

 確かに,Panamaの評判はよいようである。InfoWorldの記事では,Flagstuff.comという旗の販売業者の事例を紹介している。記事では,Panama導入後,初めて,Yahoo!経由で同社サイトを訪れるユーザーの数がGoogle経由のユーザー数を上回ったと報じている。Panama導入前は,45%がGoogle経由で,30%がYahoo!経由だった。Panamaは,キーワードのアップロードや追跡が容易になり使い勝手が向上したことで,広告主から高い評価を得ているという(InfoWorldの記事)。

 前述のNew York Timesの記事でLehman BrothersアナリストのDouglas Anmuth氏は,投資家が期待していたのは,即効性のある効果であって,多くは第1四半期における成果に期待していたと報じている。それはあまりにも大きく楽観的な期待。Yahoo!が示していた計画と,この数カ月間,投資家が予想していた進ちょくにずれがあり,それが大きな失望を招いたと分析している。

 このことだけを考えると,今回の株価急落は,単に投資家の大きすぎた期待がもたらしたように思える。しかし,New York Timesの記事では,それ以外にも要因があると指摘している。それはYahoo!が今抱えている課題でもある,検索サービス市場におけるシェア向上である。米国の調査会社comScoreによれば,2007年3月時点の検索エンジン・シェアはGoogleが48.1%,Yahoo!が28.1%,Microsoftは10.5%という数字だ(発表資料)。

 また昨年1年間,Yahoo!のシェアがほぼ横ばいで推移したのに対し,Googleのそれはじりじり伸び続けており,今後Yahoo!がいかにしてGoogleの市場に食い込めるかは未知数。Panamaによる効果を最大限に生かすためにはまず検索市場で優位に立つことが不可欠と投資家は考えるが,Yahoo!はPanamaによって検索市場のシェアを伸ばそうとしている。そんな考え方の違いが投資家をがっかりさせたようだ。

Googleに2倍も引き離された売上高

 検索市場のシェアに関してはこんな指摘もある。CNET News.comに掲載されている記事「Google rises at Yahoo's expense」によると,検索サービス市場において,今のGoogleとYahoo!には圧倒的な開きがあり,当面,その差は縮まることはないという。記事ではWired誌共同創刊者で,2005年から2006年にかけて話題になった「The Search」の著者でもあるJohn Battelle氏の言葉を引用している。

 それによると,「Yahoo!はここ何年ものあいだ,重要分野への施策を推進してこなかった。コンシューマや広告主のための,検索エクスペリエンス向上や,検索品質向上の成果が上っていない状態。一方でGoogleは,ペイ・パー・クリックの可能性について早くから認識しており,その検索/広告技術を着実に向上させてきた」(同氏/CNET News.comの記事)。

 なかなか厳しい意見である。しかし同氏のこの指摘は,両社の売上高推移をみると信ぴょう性を帯びてくる(図2)。2004年まではGoogleとYaoo!の売上高は拮抗しており,両社の規模はほぼ同じであった。しかし,2005年に入り,Googleの売上高はYahoo!のそれを上回り,その後も着々と伸びていった。実はYahoo!の業績回復が顕著になったのもこのころで,同社も決して不振という状態ではなかった。しかしGoogleの勢いには及ばない。

図2●米Googleと米Yahoo!の四半期ベース売上高推移
図2●米Googleと米Yahoo!の四半期ベース売上高推移

 また2006年の第1四半期あたりからYahoo!の売上高の伸びが鈍化しはじめた。直近の四半期売上高では,Yahoo!の売上高が16億7200万ドルだったのに対し,Googleのそれは36億6000万ドル。今やGoogleに2倍以上に引き離されてしまった。またYahoo!では開発にかかる費用など各種のコストもかさんでおり,ほぼ1年にわたって減益が続いている。今,こうしたことを要因とする失望感が市場に広がっているようである。