ITサービス業界は、元請けとなる大手が主導する業績回復局面に入った。特に、案件の採算管理の徹底と顧客選別により、売り上げより利益の伸びが著しい。ただ構造改革に出遅れた不振企業も残っており、優勝劣敗が鮮明になっている。


図●売上高伸び率と営業利益伸び率で見た売上高上位企業の分布
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表1●株式を上場している主要ソリューションプロバイダ114社の2006年9月期中間決算(売上高順)
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 2007年3月期の中間期(2006年9月中間期)決算を発表した、主要な上場ソリューションプロバイダ114社の業績を本誌がまとめた(表1)。

 前年同期と比較できる108社のうち、増収増益(営業ベース、黒字転換や赤字縮小を含む)の企業は57社で、全体の52.8%に達した。45.0%だった2005年9月中間期から8ポイント近くのアップである。108社の決算値を単純合計すると、売上高は前年同期比7.2%増、営業利益は実に28.0%もの増益を達成した。

 今中間期の特徴は、利益をしっかり伴った業績回復であること。各社が採算管理を強化した局面でSI案件が急増し、顧客選別を優位に進めることができた。大和総研企業調査第三部の上野真シニアアナリストは、「増益分のうち増収による寄与は3分の1にすぎず、採算性を向上させた効果が大きかった」と説明する。収益力(売上高営業利益率)が改善した企業は全体の57.4%(108社中62社)に達した。

 今中間期は、出遅れていた大手のITサービス企業が軒並み業績を回復させたこともトピックだ。売上高上位30社のうち増収増益は19社と、前回の8社から大幅に増加。減収減益は3社にすぎない。金融機関や中央官庁で大規模案件が相次ぐなど、大手法人のIT投資の復調が元請け企業を潤した。

 NTTデータの浜口友一社長は「地方自治体を除き、全業種で受注が好調だった。下期に見込んだ受注案件の上期への繰り上がりも相次いだ」と説明。中央官庁向けは、政府による基幹系システムの全体最適化計画が特需を生んだ。

ハード依存型は依然苦しい

 ただし、業界が右肩上がりだった時代とは異なり、今回は好況下でも優勝劣敗が鮮明になっている。108社のうち減収減益だった企業は14.8%(16社)と、15.6%だった前年並み。大手ではNTTデータやCSKホールディングス、伊藤忠テクノサイエンス(CTC、現伊藤忠テクノソリューションズ)などが業績を回復させた一方で、NECフィールディングや富士ソフトなどの不振が目立った。

 NTTデータは、成長分野への投資額を積み前年同期まで利益が低迷した分、業績回復が際立った。低迷が続いていたCSKとCTCの業績回復は、リストラや構造改革・業態転換をほぼ終結させた結果だ。CSKはネクストコムなどの子会社離脱の影響がほぼなくなった一方で、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)や証券業向けサービス事業が好調に拡大。買収したコスモ証券の好業績も寄与した。一方、CTCはハード販売依存から開発も手掛けるSI型事業への転換が、軌道に乗り始めた。

 一方、不振企業の原因は「ハード価格下落の影響を被った」か「SIの改革途上」かに大別できる。

 前者の代表がNECフィールディング。ハード販売が主力ではないが、ハード価格で決まる保守料金がオープンシステムへの移行で下げ止まらない。データセンターなどの新規事業も落ち込みをカバーするには至らなかった。

 ネットワーク機器の価格下落で、通信系SIerも“総崩れ”。ネットワンシステムズは1.8%の増収を確保するも利益が半減。ネットマークスは減収で赤字幅が拡大、ネクストコムは減収減益に陥った。通信事業者が投資の谷間にあることも影響した。

 一方、後者の「改革途上組」は、富士ソフトに加え利益が横ばいのTIS、赤字だった電通国際情報サービス(ISID)など。富士ソフトは、パッケージをベースにしたSIの育成を急ぐほか、10月には営業力強化を狙った組織改正を行うなど、矢継ぎ早に手を打っている。

中堅以下で、SE稼働率が飽和に

 業績回復が鮮明だった大手に対し、2005年9月中間期に気を吐いた中堅以下のITサービス企業は、相対的に緩やかな業績拡大だった。売上高31位以下で見ると、増収増益企業は48.7%(78社中38社)と過半数を割り、減益企業は39.7%、31社に上った。

 中堅以下の業績回復が先行したのは、昨年時点でSEの稼働率が高まったため。ところが今期については、「各社とも数%しか人を増員できず、稼働率がほぼ上限に達してしまったことで、業績の頭を押さえられた」と、クレディ・スイス証券株式調査部の福川勲アナリストは停滞の原因を分析する。大和総研の上野アナリストに至っては「中堅以下では『景気回復による転職』で人材流出の恐れすらある」といい、2007年度のリスクと見ている。

パッケージかサービスが強い

表2●売上高の伸び率が高い企業上位20社。売上高の単位は億円
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表3●売上高営業利益率が高い企業上位20社。売上高の単位は億円
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 また、優勝劣敗の傾向は中堅クラスにも共通している。今期は、流通再編を受けて既存顧客からの受注が減ったセゾン情報システムズ、ハード価格下落などの影響を受けたアルゴグラフィックスなどが不振だった。打開のために、M&A(企業の合併・買収)に踏み切った独立系企業も出始めた。日本電子計算は、証券分野のサービスに活路を見いだすべく日本証券代行と経営統合。ウッドランドは、フューチャーシステムコンサルティングによる買収を選択した。

 成長性(売上高伸び率)の上位は、首位のアイ・エックス・アイのほか、前年から引き続きSJホールディングスやテレウェイヴなどの新興企業が占めた(表2)。

 売上高100億円未満の成長株は、イーウェーヴ、ゼンテック・テクノロジー・ジャパン、シンプレクス・テクノロジーなど。イーウェーヴはSAPのERP商談が好調だったほか、信州名鉄運輸の情報システム子会社を買収したことが、成長に寄与した。

 ゼンテックは家電やモバイル機器の組み込みソフト開発で急成長している。家電ではデジタルテレビ関連、モバイル機器ではJava向け開発ツールなどが強みだ。シンプレクスはデリバティブ取引向けシステムなど、金融ハイテク分野での高いスキルを生かしたパッケージを強みに成長した。

 3社のうち、イーウェーヴとゼンテックは2007年度にも売上高100億円超えを達成する勢いだ。

 収益力では、1位を続けているオービックに、ピー・シー・エー(PCA)、シンプレクス、日本システムディベロップメント、CSKなどが続いた(表3)。注目は、サービス事業へのシフトを進めたCSKが利益面でも体質改善に成功したこと。野村総合研究所や松下電工インフォメーションシステムズなど、他のサービス系企業の強さも際立った。

 売上高100億円未満の企業では、会計パッケージのPCAのほかイーエムシステムズが健闘した。イーエムは、調剤や医科システムなど医療分野のソフト開発を強みにしている。