2007年4月6日に,放送法などの一部を改正する法律案が閣議決定され,衆議院に送付された。NHKに対しては外国人向け国際放送を義務付けたり,命令放送の義務化が話題に上ったりした。民放に対しては事実と異なった番組を放送した場合の是正措置を盛り込むなど,放送経営におけるガバナンスについての議論が中心になっている。
 しかし本稿ではこうした話題ではなく,放送法が改正されることで,具体的に視聴者がどのようなサービスを受けられるようになるのかを,2回にわたって整理してみたい。第1回は,携帯端末向け地上デジタル放送「ワンセグ」の独自番組の解禁問題を取り上げる。

 KDDIの携帯電話サービス「au」を中心に,今春の商戦でワンセグ対応機種が相次いで投入されたことにより,既に全国で500万件の契約者がいると言われているワンセグ。この夏には累積出荷台数が1000万台となり,来年の北京オリンピックの前には,契約件数が1000万台を突破するという予測もある。

 ワンセグの受信可能エリアは,地上デジタル放送が受信できるエリアとほぼ同等である。地上デジタル放送の視聴可能世帯は理論的には既に,4000世帯に達していると言われている。ある程度の人口密集地であれば全国でワンセグの視聴が可能であるため,携帯電話事業者はワンセグを標準装備にしようとしている。

 こうしたインフラ面での普及条件が整う来年度に向けて,今回の放送法改正案には,ワンセグの独自番組を実現可能な項目が盛り込まれていると,筆者は理解していた。そこで,改正案の条文などを実際に調べてみた。直接ワンセグの独自番組を可能とする条文は,第2条の「テレビジョン放送の定義」に関する事項といえよう。

第2条の改正でワンセグの独自番組を可能に

 改正案では,第2条の中のデジタル放送におけるデータ放送に関する「文字,図形,その他の撮像」という項目に,「音声その他の音響を伴うものを含む」という表現が付加された。既にBSデジタル放送では,データ放送の免許を用いて簡易動画を送る番組が放送されている。SDTV(標準画質テレビ)の番組より画質は落ちるが,視聴には耐え得るものだ。すなわち,現在のワンセグの番組に対して,グラフィックスや図形,文字,別音声といった拡張コンテンツが付加されるというのが,筆者の「独自番組」の理解である。もう一歩話を進めると,「ワンセグの画質は地上デジタル放送の本編に比べてかなり伝送レートが落ちており,簡易動画そのものである」という定義に基づけば,「テレビ放送の中身自体の定義を変更することになるのではないか」と考えている。

 このように,放送法改正案の条文は理解するのが難しい。関係者の中でさえ,改正法が成立した後は「放送免許の書き換えが必要になる」と理解している方がいるようだ。しかし,ワンセグの枠組みを規定している法律の定義自体を変え,今の放送免許のままでワンセグの独自番組を提供できるようにしようというのが,今回の改正案の意図といえる。