複数のルーティングプロトコルを使っているネットワークでは,異なるルーティングプロトコル間でルート情報をやりとりするために「再配布」と呼ばれる設定が必要となります。今回は,その再配布の設定を学びましょう。
再配布の設定の基礎
再配布で使われる用語に,「コアプロトコル」と「エッジプロトコル」があります。ネットワークで使われているルーティングプロトコルのうち,メインで使われるルーティングプロトコルが「コア」,もう一方が「エッジ」です。通常,コアプロトコルは新規に導入したプロトコル(移行によって今後メインで使われるプロトコル)で,エッジプロトコルは古いプロトコル(移行によって今後使われなくなる予定のプロトコル)になります。なお,再配布は同一のルーテッドプロトコルを使ったルーティングプロトコルでなければ行われません。例えば,IPX-RIPとOSPFでは使用するルーテッドプロトコルが異なる(IPXとIP)ため再配布はできません。また,EIGRPはIGRPのルート情報を自動的に再配布する機能がありますが,両ルーティングプロトコルが所属するAS番号が異なる場合は,手動で再配布の設定をする必要があります。
再配布を設定する際の手順を,以下に示します。
- 境界ルータを決めます。できれば境界ルータは1台だけの方が望ましい(フィードバックによるループが発生しにくくなる)
- ルーティングプロトコルのうち,コアプロトコルになる側を決めます
- エッジプロトコルを決定し,エッジプロトコルからコアプロトコルに再配布するルート情報を決めます
- エッジプロトコルからコアプロトコルへの再配布を設定します
- コアプロトコルからエッジプロトコルへの再配布を設定します
CiscoルータのIOSが再配布をサポートしているルーティングプロトコルを確認しましょう。redistributeコマンドのヘルプを実行すると,サポートしているルーティングプロトコルが表示されます(図1)。
図1 「redistribute ?」コマンドの出力結果
なお,IOS12.3以降のバージョンでは,IGRPは再配布をサポートしていませんので注意が必要です(図1はIOS12.4を使用)。
再配布の設定をする
再配布を設定するコマンドは,redistributeコマンドです。このコマンドは各ルーティングプロトコルのルーティング設定モードで実行します。実行すると,redistributeコマンドで指定したルーティングプロトコルのルート情報が,ルーティング設定モードのルーティングプロトコルで再配布されます。redistributeコマンドでは,どのルーティングプロトコルの情報を再配布するかで,コマンドで使えるパラメータが違ってきます。今回は,RIP,OSPF,EIGRP,IS-ISの4種類のコマンドについて解説します。
まず,RIP,OSPF,EIGRP,IS-ISのすべてに共通するredistributeコマンドのパラメータは以下です。
- (config-router)# redistribute [プロトコル] [プロセスID] {match [ルートタイプ]} {metric [シードメトリック]} {route-map [ルートマップタグ]}
- [プロトコル]
- 再配布されるルーティングプロトコル
- [プロセスID]
- 上記プロトコルの番号。OSPFの場合はプロセスID,EGIRPとBGPの場合はAS番号。IS-ISの場合は必要ない
- {match [ルートタイプ]}
- OSPFを再配布する際のタイプを設定。後述
- {metric [シードメトリック]}
- 再配布する際のシードメトリック。再配布されるルーティングプロトコルにより設定法が異なる
- {route-map [ルートマップタグ]}
- 再配布する際に使用するルートマップ。ルートマップについては先の回で説明します
- [プロトコル]
match [ルートタイプ]パラメータは,ルート情報をOSPFネットワークに再配布する場合と,OSPFのルート情報をそれ以外のルーティングプロトコルで再配布する場合とで異なります。
- ルート情報をOSPFネットワークに再配布する場合
- 再配布するルートを「外部タイプ1」か「外部タイプ2」どちらのタイプで再配布するかを決める。コマンドで1または2の数字を指定する。デフォルト(何も指定がないとき)は外部タイプ2が採用される。
- OSPFのルート情報をその他のルーティングプロトコルで再配布する場合
- OSPFのルート情報のうち,内部,外部タイプ1,外部タイプ2のどのルート情報を再配布するかを決める。内部(internal),外部タイプ1(external 1),外部タイプ2(external 2)のいずれか,もしくは複数を指定する(外部タイプ1/2のルート情報については,OSPF編第2回を参照して下さい)。
さらに,ルーティングプロトコル特有のパラメータを設定することもできます。ルーティングプロトコル別の設定例を見てみましょう。
RIPへの再配布
RIPへの再配布では,特に追加のパラメータはありません。metric [シードメトリック]パラメータは0~16のホップ数を指定します。デフォルトは無限大なので,設定しない限り再配布されません(図2)。
図2 RIPでのredistributeコマンド例
OSPFへの再配布
OSPFへの再配布では,次の追加パラメータを使用できます。
- {subnets}
- サブネットも再配布するコマンド。このコマンドがない場合,サブネットは再配布さず,クラスフルのルートだけが再配布される
- {tag [タグ]}
- ASBR(AS境界ルータ)間で外部ルートを識別するために使われる
metric [シードメトリック]パラメータにはOSPFコストを設定します。デフォルトは20です(図3)。
図3 OSPFでのredistributeコマンド例
EIGRPへの再配布
EIGRPへの再配布では,特に追加のパラメータはありません。EIGRPでは,metric [シードメトリック]パラメータの設定において,EIGRPのメトリックの要素となる5つの値を設定する必要があります(図4)。- metric [帯域幅] [遅延] [信頼性] [負荷] [MTU]
- EIGRPのmetricパラメータは特定の1つの値ではなく,5つの値を設定する
図4 EIGRPでのredistributeコマンド例
IS-ISへの再配布
IS-ISへの再配布では,次の追加のパラメータが使用できます。- {ISレベル}
- 再配布するISのレベルを指定します。デフォルトはレベル2(level-2)
metric [シードメトリック]パラメータを特に設定していない場合は,デフォルト値の0になります(図5)。
図5 IS-ISでのredistributeコマンド例
再配布の実際の設定例を見てみましょう。EIGRPとOSPFが稼働するネットワークにおいてルータに再配布の設定をしたときの,それぞれのルータのルーティングテーブルは次のようになります(図6,図7,図8)。
図6 再配布の設定例
図7 図6におけるルータBのルーティングテーブル
図8 図6におけるルータCのルーティングテーブル
ルータBのルーティングテーブルに「D EX」(EIGRPの外部ルート)が出現し,ルータCには「O E2」(OSPFの外部タイプ2の経路)が出現しました。それぞれ再配布されたルート情報を受け取っていることがわかります。