総務省は6月をメドに,現在の活用業務認可制度のガイドラインを改定する予定。その改定に当たって募集されたパブリック・コメントには,NTT東西が活用業務として事業範囲を広げていくことに,競合事業者の懸念や批判が集中した。

 とはいえ,これらの意見を踏まえてガイドラインを見直す総務省は,「(1)地域通信業務に支障がない,(2)公正競争上の問題がないという二つの条件を満たせば,NTT東西の活用業務を認可する点は今後も変わらない。ほかの事業者がNTT東西と同様の条件でサービスを提供できるなら,ガイドライン改定後でも NTT東西への認可が厳しくなるわけではない」(総合通信基盤局電気通信事業部事業政策課)と話す。特にNGNではNTTグループが先行するため,「NTT東西を始めから縛り過ぎると,新しいサービスが何も出てこなくなる」(事業政策課)。

 その代わり総務省は,NTT東西への事後的なチェックを強化していく方針(図1)具体的には,NTTグループへの様々な規制などの有効性を検証するための指針「競争セーフガード制度」を適用していく。競争セーフガード制度は,「電気通信事業法」や「NTT法」と呼ばれる法律により,公正競争を徹底するために課せられたNTTグループへの規制などを,定期的に検証して見直すための新たなルールだ。

図1●NTTのNGNの計画と総務省の規制の動き
図1●NTTのNGNの計画と総務省の規制の動き
総務省はNTTのNGN商用化の前に,活用業務認可制度のガイドライン改定や,NTT関連の規制状況を包括的にチェックする「競争セーフガード制度」のガイドライン策定を終える予定。
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 活用業務認可制度も,このセーフガード制度のスキームに含まれており,NTT東西が保有する光ファイバの開放義務にかかわる「指定電気通信設備」の見直しなどと共に毎年,有効性がチェックされることになっている。総務省は,硬軟とり混ぜて公正競争を進めていく。

サービスの東西分断の解決は遠い

 NTT東西は,ガイドライン改定後も基本的には活用業務の利用により,業務範囲の拡大を続けられる。ただし企業ユーザーが最も期待している「東西の壁を解消した通信サービスの実現」にはつながらないとNTT東西は主張する。「サービスの東西分断を完全に解決するなら,会社を一つにするしかない。とはいえ,東西を1社にするのは現状の制度では無理。NGNも,東日本と西日本のネットワークは一つではなく相互接続という形になるため,この限界の中での連携となる」(NTT東日本の尾崎部門長)。NTT西日本の辻上部門長も,「例えば,NTT西日本が東日本エリアでも設備を保有してサービスを提供するには,活用業務とは別の認可を総務省から受ける必要がある。グループの経済効率性から見ても,そういった事態は考えられない」と話す。

 NTTの組織論が持ち上がると有識者や競合事業者などから必ず出てくるのは,公正競争の確保や競争促進を狙ったNTTグループの資本分離アクセス部門の構造分離といった案。ところが,企業ユーザーの意見で最も多いのは,NTTグループを1社体制に戻した方が利便性が高いという声だった(図2)。独占を懸念してはいるがNTT1社体制を支持する企業は,ちょうど半数に達した。

図2●企業ユーザーが求めるNTTグループのサービス提供形態
図2●企業ユーザーが求めるNTTグループのサービス提供形態
資本分離による新たな競争状況を求める回答が34%あった一方で,NTT1社体制に戻すことを求める回答は半数に達した。

 こうした企業ユーザーの率直な意見に対して競合事業者は,一定の理解を示しつつもこう警告する。「NTTの一体化はワンストップ化が可能で一見便利かもしれないが,NTTの一人勝ちになれば,サービスの選択肢が狭まるなど中長期的にはユーザーのデメリットになる」(KDDIの山本雄次渉外・広報本部渉外部企画グループ課長)。KDDIが強調するのは,2004年にNTT東西が基本料金の値下げを発表したときの例だ。「ずっとNTT東西は『基本料金を下げる余裕がない』と主張してきたにもかかわらず,KDDIが基本料金の割安な直収電話サービスを始めたとたんに値下げを発表した。これが競争の効果。独占の怖さは値上げではなく,『本当は値下げできるのに,競争がないから値下げしない』という点。ここをよく理解してほしい」と,山本課長は念を押す(表1の右)。

表1●活用業務のガイドライン改定のパブリック・コメントに寄せられた主な主張
表1●活用業務のガイドライン改定のパブリック・コメントに寄せられた主な主張
NTTの一体化を支持する企業ユーザーへの意見も各社に聞いた。
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現NTTのサービス提供体制に「No」

 前半でも紹介したように,利便性という面からは1社体制を支持する企業ユーザーさえも,その弊害は十分に懸念している。

 こうした懸念が見えていても,NTT1社体制に多くの支持が集まったのは,現状のNTTグループのサービス提供体制の分かりにくさなどに辟易しているユーザーの不満の裏返しと言える。少なくともNTTグループが現在提供しているサービスがそのまま続くことには,「No」を突きつけた形だ。

 組織再編を巡るNTTと旧郵政省の攻防の末,「妥協の産物」と言われる形で誕生した現在のNTTグループの体制。結果的に,NTTグループ自身や競合事業者,ユーザーまでもが不便さを感じる不幸な状況に陥っている。

 ただ,現在のNTTグループを見て,このように指摘する企業ユーザーもいた。「NTTグループの業務区分は,『通信や情報技術の進歩に対応してはいけない』という規制のようにも見える。しかし1社体制時代に,自立的な内部改革をしようとしなかったNTTのツケが,今のような体制になる事態を招き,最終的にユーザーの不便につながったのではないか」──。

 今の組織の枠組みを理由にせず,企業ユーザーを困らせている“東西分断”を解消し,どうすればワンストップなサービス提供を実現できるのか,NTT東西だけでなくグループ全体で考えるべきなのだ。