「会社が別であり,市場環境も違うから」。NTT東西の類似のサービスで,名称やスペックに差異が生じた最大の理由を,NTT東日本の尾崎秀彦経営企画部営業企画部門長はこう説明する。

 「NTT再編当初,『NTT東西は互いに競争しろ』と言われていた。会社が異なり,二人の社長がそれぞれの市場のことを優先的に考えれば,名称はともかく,東西で仕様が異なるサービスが出てくるのは当然。加入電話は仕様や名称を統一しておくが,新しいIP系のサービスは東西で別々に作ってもいいだろうという合意があった」(NTT東日本の尾崎部門長)。

 Bフレッツで当初は統一されていたFTTHサービスの名称が東西で異なってきたのも,市場環境の違いが大きいから。NTT西日本はケイ・オプティコムをはじめとする電力系通信事業者と,激しい局地戦をくり広げている。そのため,IPv6網を使ったセキュリティ機能をアピールできるフレッツ光プレミアムをNTT西日本独自で投入することになったのだ。「光プレミアムを出したのは,競合への対抗手段。市場が変われば競争相手も違うので,サービスを出すタイミングや商品開発の重点の置き方も異なる」(NTT西日本の辻上広志経営企画部企画部門長)。

 またNTT東西が個別にIPネットワークの構築やサービス開発を進める中で,それぞれが別々のベンダーの機器を採用したことが仕様の違いの大きな原因になった。通信機器のベンダーが異なれば,実現できるサービス仕様も違ってくるからだ。

 だが,こうした不便な環境はNGNの商用化を契機に改善されていきそうだ。NTT東西が構築するNGNは,それぞれ別の網になるとはいえ,採用するベンダーや仕様は統一し,名称も東西で合わせていく予定である(図1)。これは1999年のNTT再編でNTT東西が誕生して以来の,極めて大きな方針転換だ。

図1●NTT東西は今後の新サービスについて,企業ユーザーの利便性を向上させるため名称や仕様などを東西で統一する方針
図1●NTT東西は今後の新サービスについて,企業ユーザーの利便性を向上させるため名称や仕様などを東西で統一する方針
活用業務認可制度を使いNGNで展開する新サービスも,東西で名称や仕様を同じにしていく。
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 NTT東西も,東西分断の弊害を訴える企業ユーザーの声は当然意識していた。NTT東日本の高部豊彦社長は,「東西のサービスの違いが,ユーザーだけでなく工事会社など,あらゆる関係者に迷惑をかけてきた。こうした状況はできる限り改善する」と明言。NTT西日本の森下俊三社長も「ユーザーの利便性を第一に考えて,東西で名称や仕様をできるだけ合わせていく」と,NTT東日本と歩調を合わせる姿勢を強調する。

活用業務を使いフレッツからNGNへ移行

 NTT東西は詳細を明かさないものの,現状のフレッツ網のサービスから,NGNを使ったサービスへの移行シナリオを着々と固めている。

 今回の取材では,あるNTTグループ幹部がNGNへの移行について,初めて踏み込んだ発言をした。「NGNを商用化するタイミングで,現状のフレッツ網への投資はストップする予定だ」──。商用化と同時に,軸足を完全にNGNへと移し,ユーザーの積極的な移行を促すようだ。

 現状のFTTHサービスと,NGNのサービスの違いの見せ方も議論が詰まってきたという。「例えば『Bフレッツ1(フレッツ網用)』,『Bフレッツ2 (NGN用)』のように,メニューを分けて選択できるようにするか,現状のBフレッツに,オプション料金を追加すればNGNに切り替えて,NGNのサービスを利用できるようにする,などの案を考えている」(NTTグループ幹部)。既存のBフレッツや光プレミアムといったFTTHサービスのアクセス回線は,局舎側で収容替えの工事が一時的に発生するが,NGNでもそのまま使えるようにする。

 今後,NTT東西が仕様もサービス名も統一してNGN上で展開するサービスは,そのほとんどが活用業務となる見込み。そのため,「NGNで提供するサービスごとに認可を必要とするのではなく,NGN関連のサービスなら包括的に認可を出してほしい。NGNの新サービスや機能追加ごとに認可を受けていては時間がかかるし,結果的にユーザーの利便性も損なう」と,NTT東日本の尾崎部門長は活用業務認可制度のガイドラインの改善を要求している。

 だが,活用業務認可制度を利用したNTT東西のNGNサービスの積極展開に対して,黙っていないのが競合事業者である(表1)。加えてNTT東西のサービス名や仕様の統一が現実になれば,東西の連携強化への反発はいっそう大きくなるはずだ。

表1●活用業務のガイドライン改定のパブリック・コメントに寄せられた主な主張
表1●活用業務のガイドライン改定のパブリック・コメントに寄せられた主な主張
NTTの一体化を支持する企業ユーザーへの意見も各社に聞いた。
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