13年ぶりに携帯電話へ新規参入した事業者「イー・モバイル」。3月31日に端末の販売およびサービスを開始してから1カ月が過ぎた。携帯電話のパソコン/PDA向けデータ通信料金としては初めて月額完全定額制の料金体系を導入し,市場に一石を投じた。イー・モバイルのサービス開始までの道のりとサービスの現状をニュースとともに振り返ってみよう。
唯一,ケータイ“新規参入”を計画通りに遂行
写真1●認定証を受け取る新規参入3社 イー・モバイルを含む3社は,当時の竹中総務大臣から認定証を受け取ったが,その後の歩みは三者三様だ。 |
3社のその後の道のりには,大きな隔たりができた。ソフトバンクは,2006年3月に旧ボーダフォンを買収し,新規参入の周波数帯を総務省に返上。新ソフトバンクモバイルとして携帯電話事業を行っている。アイピーモバイルは,当初計画通りの事業化ができず,この4月には新たな株主を迎え入れ事業化への道筋を探っている。1年半の間に環境は激変し,3社の新規参入組のうち,ほぼ計画通りにサービスの提供にこぎ着けたのは,イー・モバイルだけというわけだ。
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魅力は高速3.6Mビット/秒と5980円定額制,当面はデータ通信だけ
イー・モバイルが3月31日にサービスを開始したのは,「EMモバイルブロードバンド」と名付けたデータ通信サービス。第3.5世代の携帯電話方式と位置付けられるHSDPA(high speed downlink packet access)を採用したサービスで,基地局から端末への下りデータ通信速度は最大3.6Mビット/秒である。NTTドコモとソフトバンクモバイルも同様にHSDPAによるサービスを提供しているが,イー・モバイルは現時点で国内最速の携帯電話データ通信サービスを事業開始当初から提供する。
開業記念イベントで挨拶するイー・モバイルの千本倖生・代表取締役会長兼CEO |
サービスエリアはまだ限定的だ。サービス開始当初は,東京23区全域と,愛知,大阪,京都の各府県の一部がサービスエリアである。2007年6月末までに,関東地域では東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県の国道16号線圏内を,また関西地域では兵庫県の神戸市および大阪府の大阪市近郊都市の一部までエリアを拡大する計画である。一方で,開業直前には,基地局の開設時期を繰り下げることを発表しており,エリア整備には並々ならぬ努力が必要なことが見え隠れしている。
また,“携帯電話”事業とはいうものの,イー・モバイルは現時点では音声通話のサービスを提供していない。現時点でイー・モバイルの端末を使ってできる通信は,データ通信に限られ“電話”はできないのである。音声通話サービスは,2008年3月から始める計画だ。とは言え,その時点でも全国津々浦々までイー・モバイルのサービスエリアが拡充しているわけではない。そこで,イー・モバイルはNTTドコモとの間で3G(W-CDMA)方式のローミングを行い,サービスエリアを確保する。NTTドコモとのローミングは2010年10月までで,それまでにイー・モバイルが独自のエリアを拡充する必要がある。
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端末はスマートフォン型とカード型を提供
「EMモバイルブロードバンド」サービスを使うための端末は,まず2機種を提供した。一つは,シャープ製の「EM・ONE」(エムワン)で,“qwerty”配列のキーボードを備えたスマートフォン型の端末だ。ウィルコムのPHS端末「W-ZERO3」に似た形状で,Windows MobileをOSに採用している点も同様である。HSDPAによるパケット通信のほか,IEEE802.11b/gの無線LAN,ワンセグの受信など無線機能は充実。4.1インチ型ワイドVGAの画面で各種コンテンツの閲覧や操作性を高めた。
写真3●シャープ製のスマートフォン型端末「EM・ONE」(エムワン) |
携帯電話の端末だけでパケット通信をする場合に限り定額料金で使えるプランは各事業者が提供しているが,EMモバイルブロードバンドならばパソコンに挿してデータ通信した場合でも定額で使える。パソコンなどのモバイル通信用途では,定額制のウィルコムのPHSが大きなシェアを持つ中で,PHSよりも高速なHSDPAを定額で使えることをセールスポイントとしている。
開業前には,量販店に専用コーナーを設け,積極的にユーザーにアピールを行い予約を受け付けてきた。3月31日のサービス初日には開業記念イベントを開催し,その時点で2万弱の契約を確保した。初年度で30万台の契約を見込むイー・モバイルは,順調な滑り出しをアピールした。その後も4月26日にはサービスエリアの拡充を発表するなど,着々と「絵に描いた餅」を具現化する作業を進めている。
国内の携帯電話とPHSを合わせた契約数は,すでに1億契約を超えている。定額で高速なデータ通信サービスを引っさげて舞台に上ったイー・モバイルとは言え,すでに楽々と契約を増やせる状況ではない。端役をもらった新人から主役クラスに踊り出すまでの道のりを,いま歩き出したところだ。
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