「ひかり電話」や「フレッツ・オフィスワイド」,そして「0036」や「0039」を使う携帯電話への割安通話サービス──。一見すると全く関連がないように思える,これらNTT東西の通信サービスには,実は一つの共通項がある。

 それは,上記のサービスがいずれも,「活用業務」の認可を総務省から得て提供されている点。活用業務の認可は,地域通信事業を本業とするNTT東西が,県間通信事業などへ進出することを認めるものである。その制度運用のガイドラインが今,2001年の制度発足以来初めて,総務省で見直される。同時に注目度を増しているのが,NTT東西の業務範囲拡大の在り方だ。

 事実,運用ガイドライン見直しに先駆けて総務省が募集したパブリック・コメントでは,認可のスピードアップを求めるNTTグループと,NTT東西の業容拡大を問題視する,競合の通信事業者の意見が真っ向から対立。おなじみの舌戦が繰り広げられている。

 だが,この議論からすっぽりと抜け落ちているのはユーザーの意見。データ通信サービスのアクセス回線だけでなく,いまや企業ネットでも当たり前になったFTTHで高いシェアを占めるNTT東西の業務範囲拡大は,企業ユーザーに大きな影響を及ぼすのは間違いない。

 NGN(次世代ネットワーク)の商用化が近付きつつあり,通信市場は新たなフェーズに入る。こうした中,NTT東西の業務範囲拡大の是非を問う際に最も重要なのは「ユーザーにとってNTT東西の事業やサービスは,どうあるのが適正なのか」という視点だ。そこで本誌は,ユーザー企業399社に「NGN時代における,NTT東西の業務範囲拡大の在り方について」というタイトルの緊急調査を実施。128社から回答を得た。

 調査結果から浮かび上がってきたのは,現状のNTT東西の通信サービスを使う際,不便さを感じているユーザーが,あまりにも多いという現実。そして NTT独占の危険性を感じつつも,東西の違いを意識しなくてよいワンストップ型のサービス提供を強く求めているという,企業ユーザーの本音だった。

“東西分断”に起因する不満が突出

 まずNTT東西の通信サービスに対するユーザーに不満の有無を問うと,7割超が「不満がある」と回答した。

 一体何が不満なのか。具体的には,「似たような通信サービスの名称や仕様が,NTT東西で異なるため分かりにくい」,「東日本エリアと西日本エリアで組織が分かれており,通信サービスが分断されていて使いにくい」という不満が,そのほかの不満点よりも相対的に高く,6割を超えていた(図1)。組織が東西に分かれていることに起因する問題点に,企業ユーザーの不満が突出して集まっていることが分かる。

図1●企業ユーザーがNTT東西のサービスに不満を持つ理由
図1●企業ユーザーがNTT東西のサービスに不満を持つ理由
NTT東西で,類似のサービスの名称が違う点,ネットワークが東西で分断されている点を上げるユーザーが多い。
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 NTT東西が最も力を入れて販売しているFTTHサービスが,まさにその象徴。NTT東日本の主力のFTTHサービスは「Bフレッツ」ブランドだが, NTT西日本は「フレッツ光プレミアム」となっている。NTT西日本にも「Bフレッツ」の名称を持つサービス・メニューは残っているが,IPv6のネットワークを使った新ブランドである光プレミアムの投入後,「Bフレッツを積極的には販売していない」(NTT西日本)。つまりNTT東日本エリアでは,ひかり電話をBフレッツで利用できる一方で,NTT西日本では,ひかり電話を利用したい場合,光プレミアムの契約が必要になる。拠点が日本全国に広がる企業ユーザーが混乱するのはもっともだ。

 さらに,東西におけるサービス仕様の違いも企業ユーザーを悩ませている。「フレッツ網を使う一部のVPN(仮想閉域網)サービスは,接続可能な端末数などがNTT東西で異なるため,非常に使いにくい」という意見がある。

 こうした仕様の違いは,企業ネットの設計に影響を与える。東京に本社を構えるA社は,フレッツ・オフィスワイドを使って全国ネットを構築する際,予想外の不都合に直面したという。A社は,フレッツ・オフィスワイドを東日本エリアと西日本エリアでそれぞれ冗長化するため,東日本で2契約,西日本で2契約した。東日本と西日本のエリアそれぞれで,現用系のフレッツ・オフィスワイドのセッションが切れた場合は,別契約のフレッツ・オフィスワイドへう回する構成を作ろうとしたのだ。

 しかしこのとき,「NTT東西でフレッツ網のネットワーク構成や仕様が異なっていたため,東日本エリアと西日本エリアで,冗長化のやり方を変えなければならず,運用ポリシーも東西で異なるいびつな社内ネットの構成になってしまった」と,A社のネットワーク担当者は振り返る。

 サービスの東西分断は,それ以外にも多くの弊害を生んでいる。「注文窓口や請求書,故障対応などすべてが別々になり非常に面倒」,「全国ネットを作るには,東西のネットワークを接続するためにNTTコミュニケーションズなどの長距離通信サービスをわざわざ利用しなければならない。余分なコストがかかり,トラブル対応が難しくなる」などの意見が寄せられた。

「NTT東西の業容拡大はメリット」が4割

 こうした状況の中で,NTT東西が業務範囲を広げてサービスを提供すると,「メリットがある」と考えるユーザーは4割強(図2)。企業ユーザーからは一定の支持を得ている。

図2●東西NTTが業務範囲を拡大することにメリットがあると考えるユーザーは4割程度
図2●東西NTTが業務範囲を拡大することにメリットがあると考えるユーザーは4割程度
東西のネットワーク分断の解消や,サポート窓口の一本化に期待する声などが具体的に寄せられた。

 グラフにはないが調査では,活用業務として提供を始めたサービスの利用率も調べた。すると,フレッツ・オフィスワイドと固定電話から携帯電話への割安発信サービスは,ともに21.9%の企業が採用。「今後使ってみたい」とする企業もそれぞれ25.8%,19.5%という結果が出た。これらのサービスを企業ユーザーが受け入れていることが裏付けられた格好だ。法人向けのひかり電話は,利用している企業は5.5%だけだったが,今後使ってみたいと考えるユーザーは30.5%に跳ね上がった。ユーザーが高い関心を示していることが分かる。

 さらに,「NTT東西が業務範囲を拡大すると,どのようなメリットがありそうか」という具体的な意見には,東西分断に起因する不便さの解消に期待する声が集まった。

 代表的なものは,「社内ネットを,東日本と西日本に分けて考える必要がなくなるかもしれない」,「東西のネットワークの一元管理が可能になる」など。加えて,「国内の事業所の場所を気にせずに,サービスを利用できるようになる」という記述には,「この拠点が東西どちらに属するのか」を,いちいち気にしなければならないユーザーのいら立ちがにじみ出ている。

 中には,「他事業者の刺激になり競争が促進される」,「サービス選択の幅が広がる」といった意見もある。それでも,東西に分かれた通信サービスの統合や対応窓口の一元化に期待する意見の方が相対的に数が多かった。県内通信に閉じてサービス提供してきたNTT東西が活用業務により県内・県間の垣根を越えたように,いずれは東日本と西日本の垣根も解消されるのではないかと期待しているようだ。企業ユーザーが,最終的にNTT東西に求めているのは,申し込みやトラブル対応の窓口一元化,全国で統一された通信サービスを使えるなどの「ワンストップ化」だといえよう。


【調査概要】

調査期間 : 2007年2月27日(火)~3月6日(火)
調査タイトル :日経コミュニケーション 読者モニターアンケートNGN時代における,NTT東西の業務範囲拡大の在り方について
調査方法:本誌読者モニターに調査の告知メールを送付し,Web上で回答
送付件数 : 399件
回収件数 : 128件(回収率32.1%)
調査企画 : 日経コミュニケーション編集
調査実査 :日経BPコンサルティング 調査第一部
読者モニター:総務省と日経コミュニケーションが毎年合同で実施している「企業ネットワーク実態調査」の際に,読者モニターを依頼し,了承をいただいた上場企業や非上場企業のネットワーク担当者などで構成