日経コンピュータ2005年2月7日号の記事をそのまま掲載しています。執筆時の情報に基づいており現在は状況が若干変わっていますが、BCP策定を考える企業にとって有益な情報であることは変わりません。最新状況は本サイトで更新していく予定です。

 災害時を想定した業務継続訓練がいざという時に役立つことは、【現場】編を見るとよくわかる。INAXは2002年から業務的な安全確認訓練を約半年に1回、システムの切り替え訓練を年に1回程度実施するなど、災害対策に力を入れている企業は例外なく、計画に基づいた訓練を実施している。

実際にシステムを止めることも

 森永乳業も、訓練を重視している。定期的に全社的な業務継続訓練を実施するほか、情報システム部単独でも年に1回は訓練を行う。業務拠点が被災して代替拠点にシステムと業務を移すという流れをやってみる。

 阪神大震災クラスの地震が起きたという想定で訓練をしたときは、会社の通信回線は不通だが公衆電話は利用可能で、携帯電話は震災直後は全く通じない状態から徐々に回復していくといった、経験を基に条件を細かく定めた。その上で、安否確認から代替拠点へのシステム切り替えまでの行動を、一つひとつ確認した。

 動いて当然と思いがちなバックアップ・システムだが、いざ切り替えてみるとトラブルに見舞われることが多い(図9)。全社の業務が止まる2003年12月31日と翌1月1日、生産管理システムや工場とのネットワークを本番系から待機系に切り替える業務継続訓練を初めて実施した横河電機は、まさにそうだった。

図9●バックアップの仕組みがあっても、テストしていないと役に立たない場合がある
図9●バックアップの仕組みがあっても、テストしていないと役に立たない場合がある

 バッチが指定の時間に動かない、自動的に出てくるはずの帳票が出てこない、アクセス権限が以前のままで運用担当者がデータを登録できないといったことが起きた。ネットワークの切り替えテストでは、バックアップ回線が遅すぎ、実業務では使いものにならないことが判明した。通信機器でも、代替機として用意していたルーターのファームウエアのバージョン・アップが違ってうまく通信できないという問題が出た。

 問題の多くは本番システムの設定が変更された際に、バックアップ・システムに反映されていないのが原因だった。利用部門の業務が変わったり、人事異動でユーザーの権限が変わったりすればシステムの設定変更が伴う。だが、「慣れていない担当者が、バックアップ・システムまで設定しなければならないということに気付かなかったようだ」(今川部長)。ネットワークに関しては、本番用の通信回線は高速な通信サービスに変更したのに、バックアップ用の回線は以前の構成のままだった。

 横河電機は訓練後、運用マニュアルを改善した。バックアップ・システムに関する作業まで記載する、ハード、ソフトの資産管理を徹底するといった対策を講じた。今川部長は、「この訓練で、訓練の必要性を痛感した。システムの切り替え訓練は社内業務が止まっている時しかできないのでなかなか実施できないが、今後も定期的にやっていきたい」と語る注10)

 繰り返しになるが、この「定期的」というのが大切である。計画的に繰り返すことで、常に改善点を探したい。

初めての復旧作業では不安が頂点に

 「訓練を行うことは、災害発生時に、システム部員の精神的な支えになる」。こう語るのは、住友ゴムのシステム子会社であるエス・アール・アイ システムズの増井浩第二システム部部長 兼 東京支店長だ。

 住友ゴムは、阪神大震災ですべてのシステムを失い、唯一残ったバックアップ・テープだけでシステムを復旧せざる得なかった。システムを復旧できなかったら、企業の存続すら危うい。復旧に携わった増井部長は、「当時はテープだけでシステムを復旧した経験がだれにもない。現場の不安は頂点に達し、精神的にまいってしまう部員が続出した。訓練でシステムを復旧した経験があれば、部員の不安は小さくて済んだはず」と訴える。

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【総論】その災害対策は機能しない 
【現場】復旧の前段階で立ち往生、被災地で続出した誤算
(1)避難・安否確認:社員と連絡が取れない 
(2)損害把握:建物に入れない、担当者が出社できない 
(3)システム復旧:サーバーは無事でも停電で使えず 
(4)業務再開:サーバー室が温度上昇、被災なしも要対処 
【備え】リスク分析とテストで投資対効果を高める
(1)業務の重要性を明らかにしたうえで災害リスクを分析 
(2)テストを行って改善をし続ける