日経コンピュータ2005年2月7日号の記事をそのまま掲載しています。執筆時の情報に基づいており現在は状況が若干変わっていますが、BCP策定を考える企業にとって有益な情報であることは変わりません。最新状況は本サイトで更新していく予定です。

 「水道が長期的に止まることがデータセンターの運用に影響が出るというのは盲点だった」と、北越銀行の小林副部長は振り返る。

業務再開:サーバー室が湿度上昇

 同行は災害対策として、システムを耐震構造のデータセンターに設置し、データセンターと営業店の両方に自家発電装置を設置している。中越地震の影響でデータセンター周辺地域の停電は30時間以上に及んだが、72時間分の燃料を準備していたため、電源の点ではシステムに影響はなかった。

 しかし、問題が起きた。水道が止まったことによる水不足だ。サーバー室は室内の温度と湿度を一定に保たねばならない。温度を調節するには、自家発電機の電気をエアコンに供給して動かせばいい。北越銀行もそこまでは考えていた。一方の湿度の調整は、電気があっても水がなければどうしようもない。ここの対策が手薄だった。

 同行のデータセンターの加湿には1日1トンもの水が必要だ。貯水をしていたが、危うく足りなくなるところだった。被災後、ベンダーの保守担当者が何人も駆けつけ、泊り込みで復旧してくれたこともあって、水洗トイレで使う水の量が無視できなくなっていたのだ。水を必要としない「仮設トイレ」を調達するという妙案で切り抜けたが、樺澤課長は、「水不足までは思い至らなかった」と語る(写真4)。

写真4●北越銀行は災害直後、データセンター用に仮設トイレを緊急確保した
写真4●北越銀行は災害直後、データセンター用に仮設トイレを緊急確保した

業務再開:被災してないシステムも要対処

 災害後に事後策や業務の変更を迫られるのは、被災地にある拠点や企業だけではない。ホンダやヤマハ発動機などは、中越地震で被災しなかったものの、生産計画を変更した。二輪車向けメーター製造大手で、日本精機の子会社であるエヌエスアドバンテックからメーターが供給されなくなったためだ。エヌエスアドバンテックの生産管理システムが停電で動かなくなり、生産能力は極端に落ちてしまった。

 部材の供給元が被災すれば、生産計画や顧客への出荷日が変わり、生産管理システムや受注・出荷システムに入力する生産計画や日付のデータを変更しなければならない(図4)。物流拠点や取引先が被災した場合は出荷先を変える、出荷を止めるなどの対策が必要だ。出荷日や出荷先がデフォルトで決まった値になっているようなシステムでは、注意したい。

図4●被災地に拠点がなくてもシステムの設定を変える必要がある
図4●被災地に拠点がなくてもシステムの設定を変える必要がある
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 INAXは、災害でシステムに入力するデータが変わることへの対策として、専用のアプリケーションを作成している。どこかの工場が被災したという情報を入力すると、被災した工場が直接または間接的に製造している製品を抽出、それらの製品がかかわるシステムの入出力データを自動的に変更する。受注システムの場合、通常時は製品ごとの標準納期が表示されるが、災害時には被災工場に関連した製品がすべて出荷日未定という表示に変わるといった具合だ。もし、同じことを手動ですべてのシステムにやるには大変な時間がかかってしまう。

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【総論】その災害対策は機能しない 
【現場】復旧の前段階で立ち往生、被災地で続出した誤算
(1)避難・安否確認:社員と連絡が取れない 
(2)損害把握:建物に入れない、担当者が出社できない 
(3)システム復旧:サーバーは無事でも停電で使えず 
(4)業務再開:サーバー室が温度上昇、被災なしも要対処 
【備え】リスク分析とテストで投資対効果を高める
(1)業務の重要性を明らかにしたうえで災害リスクを分析 
(2)テストを行って改善をし続ける