瀧口氏写真

瀧口 樹良(たきぐち・きよし)

富士通総研上級研究員

1971年神戸市生まれ。駒澤大学大学院人文科学研究科社会学専攻修士課程修了。1998年株式会社富士通総研に入社。主に自治体の業務改善、行政経営および地域経営や、同分野におけるIT活用戦略等に関して積極的な活動を行っている。慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所研究員、札幌総合情報センター客員研究員も務める。主な執筆に、中村広幸と共著「地域情報化政策は地域を変えたのか」(丸田一+國領二郎+公文俊平 編著『地域情報化 認識と設計』NTT出版、2006年所収)等。E-mail:takiguci@jp.fujitsu.com

※ 本稿は、富士通総研が4月に公表した「総合窓口に関するアンケート調査」の分析結果と提言の概要をまとめたものです。なお、「総合窓口に関するアンケート調査」は、『日経BPガバメントテクノロジー』第15号(2007年4月1日発行)に一部が先行掲載されました。


 ワンストップで行政サービスを実現する「総合窓口」を導入する自治体が、急速に増えている。行政サービスの利便性や住民満足度の向上や窓口業務の効率化、さらには市場化テストの対象となっている窓口業務のアウトソーシングを進める第1段階としても、総合窓口は注目を集めている。富士通総研では、昨年7月に国内の全市・区802団体に対して、総合窓口の導入状況に関するアンケート調査を実施した。回答した自治体は390団体で、回収率は48.6%。当初は40%前後を予想していたが、それをかなり上回った。自治体の総合窓口に対する関心が高くなっていることを示すものだ。

 調査ではまず、総合窓口の導入に取り組んでいるかどうか質問した。導入済みの自治体は、3分の1に当たる33.3%。ただし、アンケートに回答を寄せた自治体は、もともと総合窓口に対して関心を抱いている団体が多いと考えられるため、多少割り引いて見る必要がある。そのほか、総合窓口について「検討している」団体は14.6%、「予算化を行い現在導入作業中」の団体は0.8%だった。

 この調査を実施して一番驚いたのは、既に総合窓口を導入している自治体の間で、提供している行政サービスの内容に非常に大きな差があったことである。例えば、どこの自治体の窓口でも対応している住民票関係、戸籍関係、印鑑証明関係、外国人登録関係の4項目は対応率が90%を超えた。そのほか、国民健康保険に関する手続きは80.0%、税金の証明書発行などの業務は73.1%と、対応率は比較的高い。だが、国民年金の手続きができる総合窓口は60.8%、転校や入学の手続きなど教育委員会関係の手続きができる総合窓口は57.7%にとどまっている。福祉関係、保育関係、税収納など複雑な個別の対応が必要と思われる業務は対応率はさらに低い。

 この結果から、かなりの自治体では、「総合窓口」をうたいながらもワンストップで手続きが完結していない実態が見えてくる。例えば、「国民健康保険加入者で小学生の子供がいる転入してきた住民」の立場で、事務手続きの内容を検討してみよう。この場合、住民異動届、国民健康保険の異動届、国民年金の異動届、学校指定の手続きの4つの事務手続きが必要となる。この4手続きのうち最も実施率の高い住民票関係(98.5%)と最も低い教育委員会関係(57.7%)の対応率の差は40.8%。つまり、「総合窓口」と称する窓口を持つ自治体でも、ごく一般的な転入時の手続きでさえワンストップで行えない総合窓口が約4割を占めるということになる。

 アンケートの結果を見ると、住民票関係、戸籍関係、印鑑証明関係、外国人登録関係の4つの業務のみをワンストップ化しただけで「総合窓口」としている自治体もあった。一方、総合窓口の先進自治体として知られる愛媛県松山市では、総合窓口でにおいて182業務を取り扱っている。同じ「総合窓口」でも、自治体間の行政サービスの対応にかなり大きな格差が生まれていると思われる。

 今回の調査の結果を踏まえて、総合窓口化推進のため、以下の4つのポイントをまとめた。

  1. 「総合窓口」に関する定義を確立しよう
  2. 「スペースの確保」は住民第一で考えよう
  3. 費用対効果に基づく「予算の確保」をしよう
  4. 自治体間での「情報の共有化」を進めよう
である。

 中でも「総合窓口に関する定義の確立」は、極めて重要だと思われる。自治体間で窓口における行政サービス内容の格差を解消すると同時に、全体の窓口業務のレベルを高めていくためには、総合窓口に関する統一したガイドラインの作成などを通して、「標準的な総合窓口ではどんなサービスを提供すべきか」という定義を固める必要があるのではないか。加えて、定義に基づいた「業務マニュアル」を作成し、自治体間で共有化できれば、さらに自治体間で窓口業務を広域的な展開が可能となり、住民の生活圏に基づく行政サービスの向上を図ることも可能となる。

 現在、自治体の窓口業務の民間開放が市場化テストの導入に伴い注目されている。安易に民間開放の手法に頼ることのみをもってよしとせず、自治体が自ら窓口業務を見直し、総合窓口を推進することによって、行政サービス向上と効率化を実現させていくことを期待したい。