「見込案件を抱えているが、なかなか決まらずにズルズルと見込みを引きずってしまう」「最後のひと押しが苦手で、商談を締結させることがうまくできない」「自社に決まると思っていたにもかかわらず、失注してしまうことが少なくない」――。このような悩みを抱えた営業パーソンのために、クロージングの促進と締結率を高める方法をご紹介します。

 ソリューション営業のプロセスでは、「プレゼンテーション」の次は「クロージング」のプロセスです。ここで言うクロージングとは、商談を締めくくり、契約を締結することを指しています(図1)。

図1●ソリューション営業の6つのプロセス
図1●ソリューション営業の6つのプロセス

 営業パーソンとしては、全部の案件を契約締結までもっていきたいところです。しかし、クロージングがうまくできないために成果が上がらない営業パーソンが多いことも事実です。

 そこで、クロージング技術の解説をする前に、クロージングが弱い営業パーソンの特徴とその原因を考察してみることにします。

クロージングが弱い営業の3つの特徴

 第一の特徴は「客まかせ」ということです(図2)。どのソリューションプロバイダに案件を依頼するのか、その意思決定を下すのは、当然のことながら顧客です。しかし、顧客が意思決定するための状況を作り、少しでも自社を選定してもらう可能性を高めるために努力することは、営業パーソンの仕事です。ところが、クロージングが弱い営業パーソンは、この2つのことを混同し、本来やるべき仕事が疎かになっている場合が少なくありません。

図2●クロージングの弱い営業パーソンの特徴
図2●クロージングの弱い営業パーソンの特徴

 つまり、クロージングの弱い営業パーソンは、顧客が意思決定をするために、情報提供や援助を求めてくるのを待っているのです。顧客からの依頼があれば積極的に行動できるのですが、依頼がなければ動こうとしないのです。受身型営業スタイルの典型ですが、SE出身の営業パーソンや、指示待ち型の人に見られる傾向といえるでしょう。

 第二の特徴は「押しが弱い」ということです。顧客の要望を真摯に受け止め、積極的に課題解決に取り組むことはできるのに、最後のひと押しができない営業パーソンがいます。相手に合わせることはできても、自分からリードするのが苦手なタイプです。しつこく顧客に迫ることに抵抗感があったり、自分の提案に自信がなかったりすることが原因になっていることもあるでしょう。

 このように本人の意識に問題がある場合や、最初に述べた客まかせのような受身体質が原因の場合には、営業職としての使命や役割を再度確認したいところです。顧客の課題解決を提供するというソリューション営業の使命や価値を、もう一度確認しておきましょう。顧客が最終意思決定できるように手助けすることは、営業の仕事そのものであることを肝に銘じておきたいと考えます。

 「詰めが甘い」ということも、クロージングが弱い営業パーソンに見られる特徴です。こうした営業パーソンは商談時点での詰めが甘かったり、最後の詰めができていなかったりするために、商談が進捗しないとか失注してしまう事態に直面するのです。客まかせや押しの弱さは、営業パーソンの意識や体質の問題が大きいのに対して、詰めの甘さは営業としてのスキル不足が大きな原因であるといえるでしょう。

 何を詰めればよいのか、どのように詰めればよいのかを明確にし、スキルを向上させることが肝要です。以下では、そのための方法論として「テストクロージング」をご紹介します。

テストクロージングの道具

 テストクロージングとは、意思決定を打診することです。顧客に対して意思決定の意向を打診し、決定を促すことです。そして、詰めの甘い営業パーソンが、どのようにクロージングに向けて詰めたらよいのかという方法論でもあります。テストクロージングの手法としては、「推定承諾法」「二者択一法」「結果指摘法」「肯定的暗示法」「黙り込み」といった5つの道具があります(図3)。

図3●テストクロージングの手法
図3●テストクロージングの手法

道具1:推定承諾法

 推定承諾法とは、自社を選んでいただけるかどうかの意思決定を打診するのではなく、選んでいただけるものという前提に立って話を先に進めていく方法です。例えば、提案内容を推進するために顧客内にプロジェクト体制を整備することを提案して、具体的な人選や作業スケジュールなどの細部に話を進めてしまうというような方法です。

道具2:二者択一法

 最終的に導入するのか、それとも導入を見送るのかという状況に顧客が置かれているような場合、導入することを前提としてA案にするのか、B案にするのかを打診するという方法です。一気にすべてを導入するA案にするのか、ステップを踏みながら段階的に導入するB案にするのかというように、選択肢を与えながら導入への方向付けをしていくのです。導入することを前提としているという点では、推定承諾法の1つといえるでしょう。

道具3:結果指摘法

 導入するとどのくらい大きなメリットを享受することができるか、決定しなければどのような不利益を被るのかを比較し、意思決定することの魅力と妥当性を示唆する方法です。顧客の経営トップ層に対して、この方法を活用する場合には、現在の経営課題のどの部分がどのように変わるのかを簡潔に表現することが大切です。また、エンドユーザーに対してこの方法を活用する場合は、課題が解決したときのイメージを思い描けるように表現すると効果的です。

道具4:肯定的暗示法

 提案内容の利点を一つひとつ説明し、顧客の納得を確認しながら小さな合意を積み重ねて、最終的な意思決定を促す方法です。いきなり顧客に最終意思決定を迫ってしまうと、顧客は判断することの負担を感じて、迷ってしまうことがあるものです。そこで、一つひとつの利点を顧客と確認し、判断が正しいということを自覚していただくことにより、最終的な意思決定に結びつけようとする方法です。

道具5:黙り込み

 提案内容の優れた点や諸条件については、既に顧客に納得いただいており、顧客の疑問点や不安事項についても解消できていて、顧客の最後の意思決定を促すときの手法の1つです。前述の肯定的暗示法のように顧客と利点を確認したならば、あとは最後の意思決定を催促するだけになります。

 この場合、多くの言葉を費やして決定を促すのではなく、沈黙をもって意思決定を待つ姿勢を示すのです。「よろしくお願いいたします」と顧客に告げた後に、頭を下げたまま顧客の答えを待つ動作で示します。顧客は最後の判断をするために考え込んでいますから、営業パーソンが黙り込むと両者の間に沈黙の時間が流れることになります。

 営業パーソンにとっては、顧客をさらに説得したいという衝動に駆られたり、顧客がNoと判断したらとの不安に駆られたりするなど、沈黙の時間が心理的な負担に感じられるかもしれません。しかし、顧客の意思決定を促し、その場で意思表示をしてもらうことのできる効果的な方法ですから、焦ることなく、恐れることなく、黙り込みで最後の意思決定を促してみるとよいでしょう。

 以上、テストクロージングの方法について述べてきました。しかし、テストクロージングの方法は分かっても、商談のどのタイミングでテストクロージングをしたらよいのかが分からなければ、実際にテストクロージングをすることはできません。

 実をいうと、テストクロージングのタイミングは、営業プロセスのクロージングだけに存在するのではありません。プレゼンテーションの場面でも顧客の意向を打診しますし、ニーズ把握の段階でも課題解決に取り組む意向や、自社に任せてもらえるかを打診することはあるものです。

 そこで、一連の商談の中でどのようなときにテストクロージングすべきなのか、そのタイミングを図4に示しました。日常の営業活動の中で、テストクロージングのタイミングを見つけたなら、顧客の意向を打診するよう心がけましょう。

図4●テストクロージングのタイミング
図4●テストクロージングのタイミング

商談を詰めるためのチェックポイント

 契約締結につながった成功商談を分析してみると、成功に到るまでの商談プロセスの中で、営業パーソンが確実に押さえておくべきポイントが存在することが 分かります。契約を取ってくる営業パーソンは契約できるように行動し、失注を繰り返す営業パーソンは失注するような行動をとっているものなのです。商談を 締結させるためのポイントは、必ずしも一律ではありませんが、ある程度共通的に見られるポイントを挙げてみましょう。

 まず、キーパーソンの意向を直接確認しているでしょうか。案件の最終意思決定を行うキーパーソンは誰か、そのキーパーソンの意向を直接確認しているかどうかは重要なポイントです。キーパーソンに直接面談する機会が少ない場合でも、自社の提案に対するキーパーソンの反応については、他の顧客を通じて確認しておくことが大切です。

 自社の提案内容は顧客の要求レベルに合致しているか、顧客は提案内容に満足しているかどうかを把握していることも大切です。営業パーソンの感覚的なものではなく、顧客が示した反応や発言内容など、客観的な事実に基づいていることがポイントです。

 さらに納期・本稼働の時期は明確でしょうか。納期や稼働時期が明確になっているかどうかは、顧客の本気度を判断する上で重要な要素です。期日が明確になっている場合でも、なぜその期日でなければならないのか、その理由が明確なほど見込度が高いといえるでしょう。

 提案書、見積書は提出済みかどうかも、重要なポイントです。提案書や見積書を提出するのは基本ですが、標準的な提案書やパンフレットだけで商談を進めていて、顧客の事情を踏まえた提案書を提出していないということがあるものです。顧客の内部で正式に検討していただく環境を作るためにも、顧客向けの提案書や見積書を提出する意味はあるのです。

 そして、競合を把握しているでしょうか。競合の有無はどうか、競合がいるならば具体的にどこなのかを営業パーソンが把握しているかどうかは、見込度を判断したり、対策を練ったりするための必須事項です。競合の提案内容や見積内容は、自社と比べてどうなのか、顧客はどのように評価しているのかを把握することが大切です。

●クロージングの道具
●クロージングの道具

 デモストレーションやユーザー見学の実施については、いかがでしょうか。デモは顧客の購買心を刺激したり、意思決定を促進したりするための効果的な営業手段です。ただし、実際に見たり、触ったりできないシステムの場合には、デモをすることができません。その場合には、過去の導入事例を紹介したり、実際に導入した顧客の生の声を聞いていただいたりする機会を作ると効果的です。商材や状況によっては、それも不可能な場合もありますが、代替できる方法を考えてみることは大切でしょう。

 最後に、顧客の意思決定のプロセスは明確になっていますか。顧客に対してプレゼンテーションを行った後に、具体的にどのようなプロセスで顧客が意思決定するのかを把握しておくことも、商談を締結させるためには重要です。意思決定に関与する人は誰と誰なのか、顧客の内部で検討する場や日時はいつなのか、りん議に対して誰の承認が必要なのかなどを把握した上で、適切なテストクロージングを実施するなど万全な対策を講じることが、契約締結への切符を手にする近道なのです。

川島 章司
日本コンサルタントグループ 経営コンサルタント
ソリューション営業の強化をテーマにしたコンサルティングと共に、営業マネジャーや営業パーソン教育に従事する。日本コンサルタントグループの地方営業所長なども務め、ソリューション営業にも経験が豊富。著書に『ソリューション営業 成功の仕事術』。人気ブログ『ソリューション営業の道具箱』を運営