「仕事に追われ、本当にやるべき仕事が置き去りになっている」「毎日が忙しく過ぎていくだけで、仕事の面白さや達成感を味わうことが少ない」「計 画を立ててはみたものの、その通りに行かないことばかりで」――。最終回では、このような悩みを抱えた営業パーソンのために、ソリューション営業を充実させるための方法論をご紹介します。

 本講座はこれまで、顧客とのリレーション作りからクロージングに至るプロセスの中で、ポイントとなる営業強化の方法論を紹介してきました。今回は連載の最後として、プランニングにおけるソリューション営業の道具を紹介します。

 図1に示したように、プランニングは他の五つのプロセスすべてにかかわるものであり、営業活動の質を高める重要なプロセスです。自ら計画し、それを実行してこそ、売り上げなどの目標が達成できるのです。ところが、筆者のコンサルティング経験では、プランニングに弱みを抱えている営業パーソンがとても多いというのが実感です。

図1●ソリューション営業の6つのプロセス
図1●ソリューション営業の6つのプロセス

 そこで、プランニング強化の方法論を解説する前に、プランニングが弱い営業パーソンの特徴とその原因を考察してみることにします。

受け身体質と目標達成意識の希薄さが問題

 プランニングが弱い営業パーソンはまず、受け身体質が染みついてしまっています。顧客の引き合いから営業活動を始めるため、能動的な計画ではなくて、受動的な“計画”に終始してしまっています。極論するなら、顧客から言われたことに対応しているだけで、自らの目標を達成するための計画を立てていないのです。それでも目標が達成できるのは、顧客の需要が旺盛であり、引き合い案件が潤沢にあるからにほかなりません。

 ところが、引き合い案件は多くても、すべてが利益率の良い案件とは限りません。見積もり合わせのための引き合いも少なくないことから、どうしても価格競争に巻き込まれてしまいます。利益の見込める優良案件を獲得するには、引き合いが来るのを待っているのではなく、こちらから取りにいくことが必要です。そのためには、綿密で能動的な計画が何よりも重要になるのです。

 また、プランニングが弱い営業パーソンは、目標達成意識も希薄です。「目標達成は使命であり、責任である」ということは、疑う余地がないでしょう。ところが実際には、目標達成意識の希薄な営業パーソンが少なくありません。

 営業部門やグループ単位には目標が設定されていても、個人ごとには明確にされていないという場合があります。自分がどのくらいやらなければならないのかというゴールが明確になっていないのですから、達成しようとしても、できるはずがありません。目標達成意識が薄れてくるのは当然の帰結です。その一方で、目標があまりにも大きくて、目標設定の段階から達成できないものとあきらめている営業パーソンもいます。このような営業パーソンは、初めから目標を置き去りにしたまま、営業活動を始めているのです。

 このような極端な例を持ち出すまでもなく、営業パーソンが毎日の活動の中で、目標をシッカリ意識しているかというと、まことに心もとないのが現実です。 計画とは「ある目的を達成するために、事前に考えた目論見」のことですから、目標が希薄なものであれば、計画も同様に希薄と言わざるを得ません。

 それでは、こうした問題点を克服しプランニングに強くなるために、「目標設定の道具」と「計画的な営業活動の道具」を紹介しましょう。

目標設定の道具1:挑戦的な自主目標

 個人別売上目標が設定されていなかったりすることで、初めから目標を置き去りにしてしまわないようするためには、自主目標という道具を使います。

 自主目標を立てる目的は、毎日の営業活動の道しるべとして、自分が進むべき方向と距離を明確にすることにあります。本来なら、会社と合意した目標をそのまま道しるべにすべきところですが、会社の目標がその機能を現実的に果たさない場合や、これまで以上に達成意欲をかき立てる必要がある場合に、自主目標を使うのです。

 自主目標を設定するときのポイントは、その名の通り、自主的に目標を決めるということです。会社には事業計画があり、予算が編成されているはずです。従って、営業パーソンが勝手に自分の目標を変更してよいわけではありません。ここで言う自主目標とは、あくまでも営業パーソンが自己管理のために設定するものなのです。マネジャーの意向によって目標を設定するのではなく、自分の意思で自発的に決めることが大切です。

 もう1つのポイントは、挑戦的な目標を立てるということです。少し努力すれば達成できそうな目標ではなく、無理をすればなんとか届きそうだと思うくらいが、ちょうどよいのです。自ら設定した高めの目標は、挑戦意欲と達成意欲をかき立てます。そして、目標が達成できたあかつきには、達成感と充実感を味わうことができるのです。

目標設定の道具2:プロセス管理指標

 受注・売り上げ・利益という業績目標は、毎日の営業活動の結果として、達成という成果を得ることができます。つまり、目標=結果にするために、営業活動というプロセスがあるのです。そこで、営業活動のプロセスの中で、どのような行動が直接的に業績と相関するのかが分かれば、それを先行指標として営業活動の自己管理が可能になります。例えば、持ち込みデモ件数や引き合い獲得率といったたぐいです。つまり、それらの先行指標を使って、日々の営業活動での目標を設定するのです。

 ただし、プロセス管理の先行指標は一律のものではありません。提供するソリューションやシステム内容によって違いますし、営業活動の形態によっても違ってきます。同じシステムや営業形態であっても、営業パーソンによって管理すべき先行指標が違ってくることもあります。従って、先行指標の選定にあたっては、十分な営業経験や洞察力などが必要になりますので、マネジャーや営業チームで十分な討議をするとよいでしょう。

 参考までに、これまで筆者がかかわってきた営業強化のコンサルティングにおいて、実際に活用した指標の例を挙げておきます。

・持ち込みデモ件数
・提案件数
・引き合い獲得率
・勉強会実施回数
・紹介依頼件数
・訪問件数
・テレアポ獲得数
・顧客見学会の開催回数

目標設定の道具3:逆線表による商談推進

 SEがシステムを開発する際には、あらかじめ納期が決っていることもあり、そこを起点として工程を逆算して計画を組み立てることがあるはずです。それを営業活動にも当てはめて、受注予定日を営業パーソンが自分なりに想定し、逆算して商談内容とスケジュールを組み立てることを「逆線表」と言っています。

 案件が発生した時点でシステム稼働の期日(納期)が決っている場合には、そこを起点としていつまでに契約を交わしておく必要があるかを想定することはできるでしょう。スケジュール的な面で顧客との合意も得られやすいことから、商談のタイムスケジュールを描くことはそんなに難しくありません。

 ところが、顧客内でシステム導入の可否を検討しているような場合には、受注予定日を明確にすることができません。しかし、いつ受注できそうな案件なのかを想定しなければ、商談のスケジュールは立てられず、その都度の対応を繰り返すしかありません。そこで、営業パーソン自身が受注の目標日を設定し、その日に受注できるように商談の工程表を組むことで、都度対応の商談から計画的な商談へと変革することが可能になります。

計画的な営業活動の道具1:「6人の僕」

 『ジャングルブック』の著者で、ノーベル文学賞作家のラドヤード・キプリング氏は、「私には6人の忠実な僕しもべがいます。6人の名はWhat、Why、When、Where、Who、Howです」と言っています。物語を作るときには、5W1Hは欠かせない要素なのです。営業パーソンが目標達成に向けた計画を立てるときにも、5W1Hは忠実な僕となって成功の目論見作りを手伝ってくれます。

 この6人の僕たちは、どれもが重要な意味を持っています(図2)。前述した目標設定の道具である自主目標やプロセス管理指標はHow(how much、how many)に該当しますし、逆線表の起点となる受注予定日はWhenに当たります。何をしたらよいか(What)は本質的なことですし、どのようにするか(How to)は方法論やノウハウを意味します。誰(Who)が行うのかという主体を明確にすることは大切ですし、誰に(Whom)という顧客を明確にすることはソリューション営業の原点とも言えるでしょう。

図2●計画的な営業活動の道具(6人の僕)
図2●計画的な営業活動の道具(6人の僕)

 このように、6人の僕をプランニングの道具として活用することにより、受身から攻めの営業へと転換するとともに、より効率的で効果的なソリューション営業を実践することが可能になるのです。

計画的な営業活動の道具2:月間計画

 営業パーソンの計画を期間別にみると、年間計画や半期計画は、会社の事業計画との関連でほとんどの営業パーソンが作成しています。1週間のスケジュールや1日の行動予定についても、営業パーソンなら誰もが立てています。ところが、長期的な計画と短期的な計画はそれぞれが独立していて、整合性がとれていないことが多いのです。

 例えば、年間計画や半期計画というのは、販売計画(予算)が中心的な内容です。従って、営業パーソンにすれば受注目標、売り上げ目標というのが実際的な内容です。ところが、1週間や1日の予定といえば、行動計画が中心になりますから、数字的なことよりも、誰に、何を、どのようにするかという内容が中心です。

 本来であれば、1年間は約52週間ですから、1週間の計画は年間計画の52分の1の計画になっている必要があります。しかし、現実的に1週間の行動計画が年間の52分の1にできるわけではありませんし、年間目標(金額)の52分の1を受注する販売計画が立てられるわけでもありません。

 そこで、長期計画と短期計画を連動させるために、四半期計画や月間計画が必要になってくるのです。特に月間計画は、「いくら」という数字と「誰に」「何を」「どのように」という各要素がある程度具体的になる、バランスの良い計画といえます。従って、月間計画を充実させることが、年間目標を達成するための計画的な営業活動を具体化する有効な道具となるのです。

計画的な営業活動の道具3:管理サイクル

 営業パーソンが計画通りに目標を達成するためには、管理サイクルを回すことが大切です。管理サイクルとは、計画(Plan)を立て、計画通りに実施(Do)し、その結果の分析(Check)を行い、不足に対する修正行動(Action)をとりながら、次の計画作りにつなげていくことです(図3)。

図3●管理サイクル
図3●管理サイクル

 営業パーソンが計画を立てる局面では、その計画が「できる」計画であるかどうかが重要です。「この計画通りに行動すれば、目標は達成できる」「この計画は実行に移せる(できる)」という二つの条件を満たす計画である必要があるということです。

●プランニングの道具
●プランニングの道具

 実施の局面においては、「徹底」することが重要です。計画倒れにせず、やり遂げるという強い意志と行動力が必要です。また、結果の分析においては、原因分析を綿密にすることが重要です。計画通りの結果が出なかった場合、その原因は実施レベルに起因したものなのか、計画レベルに問題が無かったのかという両面から分析を行います。「なぜ」を何回も繰り返しながら、真因を追求することが大切です。

 原因分析と対策を立案したならば、迅速な修正行動が欠かせません。修正行動をとるからこそ、目標達成に向けて軌道修正ができるのです。この管理サイクルを毎月、毎週、毎日回すことによって、常勝の営業パーソンに成り得るのです。

川島 章司
日本コンサルタントグループ 経営コンサルタント
ソリューション営業の強化をテーマにしたコンサルティングと共に、営業マネジャーや営業パーソン教育に従事する。日本コンサルタントグループの地方営業所長なども務め、ソリューション営業にも経験が豊富。著書に『ソリューション営業 成功の仕事術』。人気ブログ『ソリューション営業の道具箱』を運営。