「プレゼンテーションの内容が、商品の機能説明に終始しがち」「顧客の経営層に対して、効果的なプレゼンができていない」「SEなので提案内容には自信があるけれど、話すのはどうも苦手」――このような悩みを抱えた営業パーソンやSEの皆さんのために、今回は説得力を高めるプレゼンテーションのポイントをご紹介します。

 今回も、前回に引き続きプレゼンテーションのプロセスです(図1)。前回はプレゼンテーションの道具として、提案書作りの道具をご紹介しましたが、今回は顧客に提案内容をプレゼンテーションする際の道具をご紹介します。

図1●ソリューション営業の6つのプロセス
図1●ソリューション営業の6つのプロセス

プレゼンで話すときは分かりやすくが基本

 話をするときには、相手にとって聞き取りやすいということが第一のポイントです。プレゼンで顧客に聞き取りやすく話すには、音量・発声・話す速さ・音程に気をつけることが大切です(図2)。

図2●音声を聞き取りやすくするためのポイント
図2●音声を聞き取りやすくするためのポイント

話すための道具1:聞き取りやすい音声

 実際のプレゼンで音量に気をつけなければならないのは、複数の顧客に話をする場合です。人数が多くなるほど、話し手と聞き手の距離は広がります。プレゼンターが自分の近くの顧客に話をした場合、自然と声が小さくなり、遠くに座っている顧客が聞き取りにくくなってしまう可能性があります。また、提案書を読みながら説明したり、スクリーンに向かって説明したりしてしまうと、声が顧客に届かなくなることもあるので気をつけるようにしましょう。

 営業パーソンの話が聞き取りにくいケースでは、声の大きさよりも滑舌の悪さが原因になっていることの方が多いように感じます。つまり、口の中でモゴモゴ言っているけれど、よく聞き取れないというケースです。滑舌が悪いのは、唇をあまり動かさずに話していることが一番の原因です。唇の動きを大きく滑らかにして、しっかりと発声することが大切です。

 筆者はこれまでに多くのプレゼンテーション研修を担当してきましたが、その際に早口になってしまっている営業パーソンが多くいます。話すスピードが速すぎると、顧客が聞き取りにくくなったり、理解が追いつかなくなったりする危険性があります。話に熱中するあまり早口になる場合が多いのですが、本人は早口になっていることに気づいていません。早口防止の第一は、顧客の反応を見ながら話すことです。顧客が話を聞き取れなかったり、理解できていなかったりした ときには、表情が変わるか、首を傾げるなど何らかのシグナルが発せられるものです。シグナルを察知したら、話すスピードを落としたり、間を置いて理解度を確認したりするとよいでしょう。

 歌を歌うときには音程を意識するものですが、話をするときにも音程を意識することが大切です。一般的に高い声は明るく、低い声は暗く感じるものです。高い声は聞き手の注意を喚起する効果もありますから、強調したいときには高い声にするなど、工夫してみてください。

話すための道具2:提案内容の表現術

 カタログに書いてあるような借り物の言葉を使ってプレゼンをしていたのでは、顧客を説得することはできません。営業パーソンやSEなどのプレゼンターが、自分の言葉で内容を説明するからこそ、説得力のある提案になるのです。さらに顧客の言葉を使って説明すると、顧客の納得度を高めるのに効果的です。顧客の業界用語や社内用語を使うことにより、理解度の促進と納得感を醸成することが可能になるのです。

 プレゼンの中では、「言葉を言い切る」ことも重要です。つまり「~です」と文章の区切りをつけるようにして、口頭表現でもキッパリと言い切るのです。言い切ることにより、内容に自信を持っていることを、聞き手である顧客に伝えることができます。言い切ったあとに少し間を置けば、言い切りの余韻と相まって、効果は高まるでしょう。

 話の要点をまとめるコツは、3つずつで内容を構成することです。聞き手に話の内容を覚えてもらうには、3つという数が便利な道具になるのです。1つや2つの方が覚えるのは簡単ですが、要点が少なくて内容に乏しいという印象を与えてしまう可能性があります。逆に要点が多すぎた場合、すべてを覚えることができなくなってしまいます。プレゼンターの立場としても、要点を3つにまとめておくことにより、自分自身も忘れずに済むというメリットを享受できます。

 プレゼンの手順は、序論・本論・結論の3部で構成します(図3)。序論では提案機会をいただいたことに対する謝辞を述べ、あいさつからプレゼンを開始します。続いて提案の目的や背景を確認し、提案の全体概要を目次やロードマップを活用して説明します。本論は現状の問題点や解決すべき課題、提案内容や導入の効果、導入事例や期間などを説明します。提案内容によって構成要素は異なりますが、本論の構成では大項目、中項目というように階層構造を作り、要点を明確にして組み立てるようにします。結論はプレゼンの締めくくりです。序論、本論と説明してきた内容を要約し、提案の結論を明確に顧客に伝えます。そして、最後にあいさつをしてプレゼンを終了させます。

図3●プレゼンテーションの手順例
図3●プレゼンテーションの手順例

話すための道具3:聴衆分析

 「人を見て法を説く」という言葉がありますが、プレゼンは相手に合わせて説明をすることが大切です。プレゼンの実施に当たっては、事前にどのような顧客が参加されるのかを十分に把握しておきます。参加者の所属部門、役職、氏名をはじめとして、参加者が案件の意思決定にどのようにかかわるのか、最終意思決定者は誰なのかを把握しておきます。

 参加者の中でエンドユーザーを代表している人は誰か、最終意思決定者に強い影響力を持っているのは誰かも、事前に把握しておきたい内容です。競合がある場合には、自社にシンパシーを持っている人に加えて、他社にシンパシーを持っている人が誰かもつかんでおきましょう。

 参加者の専門知識のレベルによって、話し方や専門用語などの言葉遣いも変える必要があります。専門知識がある人に対しては、専門用語を使った方が理解も早く、こちらの専門性を認めていただけます。しかし、専門知識をあまり持ち合わせていない顧客に対しては、できる限り平易な言葉を使うように配慮する必要があります。複数の顧客を対象にプレゼンを実施する場合は、相手の知識レベルに差があることを前提として、言葉を選択することが肝要です。

 参加者が経営トップ層なのか、マネジャーなのか、一般担当者なのかによっても、説明のポイントは微妙に違います。RFP(提案依頼書)が提示されている場合には、依頼に対する回答内容は重要事項です。顧客の担当者レベルでは、回答内容の詳細について強い興味があるはずです。ところが経営トップ層になるほど、細部に対する興味よりも「現状の何が、どう変わるのか」「経営課題の何が解決できるのか」ということが関心事になります。プレゼンでは、誰に何を強調すべきなのかを事前に想定しておくことが大切です。

言葉によらない表現もプレゼンでは重要

 プレゼンは、言葉や文字などの言語だけで行うものではありません。ノンバーバル(言葉によらない)表現方法も、効果的に活用することが大切です。

ノンバーバルの道具1:アイコンタクト

 ノンバーバルな表現方法の代表的なものとして、アイコンタクトがあります。「目は口ほどに物を言う」と言われますが、アイコンタクトの威力は絶大です。ところが実際のプレゼンでは、提案書を見ながら説明をしているために、顧客とアイコンタクトができていないことが少なくありません。提案書の文章を読み上げるのではなく、キーワードを拾いながら口頭で説明できるようにしておくことが大切です。詳細な内容やデータが必要な場合には、提案書の細部を顧客と共に確認すればよいのです。

 顧客も提案書を目で追いながら説明を聞いているために、プレゼンターの顔を見てくれないということもあるでしょう。プレゼンの初めに資料を顧客に渡してしまうと、顧客は資料を見るのに夢中になり、肝心の説明が聞き流されてしまうことがよくあります。

 これを防ぐには、資料を一度にすべてを渡してしまうのではなく、必要なときに必要な資料を、その都度配布するという方法があります。最初に顧客に提出する資料と、その都度渡すハンドアウト資料を使い分けることにより、顧客の視線をプレゼンターに向けていただくことができるでしょう。

ノンバーバルの道具2:沈黙

 沈黙によって言葉を区切って内容を強調したり、言葉と沈黙を繰り返すことで相手の心にメッセージを浸透させたりすることができます。プレゼンの場は、どうしても話すことに主眼が置かれてしまいますが、沈黙を挟むことで効果的なプレゼンにできるのです。

 また、沈黙を続けることにより、プレゼンターに顧客の注目を集めるという効果もあります。前述したように、顧客が資料を読み始めて話を聞いてもらえない場合には、沈黙することで、顧客の注意を引き付け、話に耳を傾けていただくキッカケにすることもできるでしょう。

 プレゼンターが顧客に質問を投げかけ、相手に質問内容を考えてもらうために、あえて沈黙することも効果的です。本当に顧客に考えてもらいたい場合には、沈黙の時間をしっかり取るとよいでしょう。

ノンバーバルの道具3:表情と動作

 感情を顧客に伝えることも、プレゼンでの大切な要件です。提案内容を正確に伝えたり、理解してもらったりするだけでなく、顧客の意思を固めていただくことがプレゼンの目的でもあるからです。

 そのためにはソリューションプロバイダとして、顧客が抱えている問題点に対する「驚き」「悲しみ」「当惑」や、解決に対する「決意」「熱意」「自信」といった感情を、顧客に伝えることが重要なのです。顧客の感情に触れ、共感していただいてこそ説得が成立するからです。

 感情を相手に伝えるには、表情が重要な道具になります。プレゼンするときの表情は、顧客に対する謝意と親しみを込めた笑顔が基本です。プレゼンは笑顔のあいさつに始まり、笑顔のあいさつで終えるようにします。しかし、顧客の問題点を指摘する場面では、驚きの表情や怒りにも似た当惑の表情を表すべきです。そして解決策を提案するときには、自信と決意をその表情に込めるのです。

 感情を表現するのは表情ばかりではなく、動作によっても可能です。こぶしを握る動作は、怒りや自信を表すことができますし、握手の動作は「一緒にやっていきましょう」という意思を示すことができます。言語、非言語を問わず、あらゆるコミュニケーション手段を駆使して、説得力のあるプレゼンを行いましょう。

リハーサルは成功のため欠かせない道具

 プレゼンの日程が決まったら、リハーサルは欠かせない成功のための道具です。ところが、実際にリハーサルをしているのは大型案件のときだけで、あとは出たとこ勝負になってはいないでしょうか。リハーサルする時間が取れず、提案書を作成したらすぐに本番などということはないでしょうか。

 リハーサルの時間があまり取れないときには、ワンポイントロールプレイングがお勧めです。プレゼンの中でもポイントになるところをピックアップし、マネジャーと営業パーソン、SEが集まってロールプレイングを行うのです。営業パーソンとSEがプレゼンに同席するときには役割分担があるはずです。ポイントになるところは実際にロールプレイングをして、相互確認とアドバイスを行います。

●プレゼンの道具
●プレゼンの道具

 事前にメンバーが集まることができない場合、一人でロールプレイングをするだけでも効果があります。一人で行うロールプレイングのことを、私は「シャドー・ロープレ」と呼んでいます。営業パーソンなら誰しもが、一人でプレゼンの練習をした経験があるはずです。その後、営業経験を積み重ねたからといって、決して手を抜くことなく、ワンポイントでもシャドー・ロープレを実践することをお勧めします。

 リハーサルの時間が取れるときには、自分の姿をビデオに撮り、自分の声を聞きながら自己チェックするとよいでしょう。他人のアドバイスは大切なスキルアップの機会ですが、自分のプレゼンを自分で見ることは、違った気づきがあるものです。本番のプレゼンを成功させるために、最善の努力を惜しまないことが、プレゼンを成功させる近道なのです。

川島 章司
日本コンサルタントグループ 経営コンサルタント
ソリューション営業の強化をテーマにしたコンサルティングと共に、営業マネジャーや営業パーソン教育に従事する。日本コンサルタントグループの地方営業所長なども務め、ソリューション営業にも経験が豊富。著書に『ソリューション営業 成功の仕事術』。人気ブログ『ソリューション営業の道具箱』を運営。