本コラムは2005年11月11日、日経ビジネスEXPRESS(現・日経ビジネスオンライン)に公開したものである。その当時、複数の証券取引所が相次いでシステム障害を起こし、それについて多数の新聞記事が出た。それらを読んで思わずむっとし、一気に書き上げた。再掲するにあたって読み直すと、我ながら面白く書けているが、「一体、何を言いたいのか」と思う読者もおられるかもしれない。今さらではあるが、何を言いたかったのか、改めて考えてみたので、冒頭に書き添えておく。

 本コラムに込めた意図は3点ある。まず第1は、紋切り型の新聞報道への批判である。第2は、マスコミ報道への防衛策を読者が考える際のヒントにして頂くことであった。マスコミがどのように行動するかを知っておくために、拙稿は役立つのではないかと思う。もっとも、広報担当者や経営者にとっては百も承知の内容かもしれない。第3は、書いていいかどうか迷うが、読者に笑ってもらうことであった。障害が起きた時に不謹慎だ、と怒る読者もあろう。筆者は、どれほど緊迫した状態にあっても笑いを忘れてならないと考えるものなので、あえてこうした文を書いてみた。

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 2005年11月に入って、複数の証券取引所で情報システムの障害が発生、メディアは一斉に大きく報道した。今回は、こうしたシステム障害に関する「記事の書き方」をご紹介しよう。

まずは取材の方法から

 まず、システム障害を起こした当事者、今回の例で言えば証券取引所に記者会見を開くよう要請する。記者会見には必ず経営トップを出席させる。会見当初あるいは最後に、経営トップが頭を下げた時、写真を撮っておく。

 記者会見では次の2つの質問を必ずする。1つは「もう二度とこういうシステム障害は起きませんか」である。「最善を尽くすが、情報システムに完璧ということはない」という回答があったら、「再発防止策については、明確な説明がなかった」「システムの完全復旧にメド立たず」などと書く。

 もう1つの質問は「経営責任をどう考えているか」である。システム障害を起こした当事者はもちろん、情報システムの開発に協力したコンピューターメーカーの経営トップにも同じ質問をする。両トップの発言を見比べて、対立する部分があったら、「『責任の押しつけ合い』も始まった」と書く。さらに監督官庁に対しても「監督責任をどう考えているか」と質し、その回答を報道する。誰からもはっきりしたコメントを取れなかった場合、「システム障害を起こした経営責任や組織のあり方を厳しく問う意見が相次ぎそうだ」と書いておく。