■お客様に提案書の内容を説明する。また、セミナーで講演するなど、プレゼンテーションの機会は多いもの。プレゼンで相手を感動させるにはどうしたらよいか、今回はそのための取って置きの秘策をお教えします。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 前回、「プレゼンで伝わるのはせいぜい10%。だから、相手に感動のストーリーを提供しなければならない」という話をした。

 それでは、どのように感動させればよいのか。感動させるストーリー、感度させるコトバとはどういうものなのか。そう考えるとなかなか難しい。しかし相手を感動させるために、何も送り手だけが苦労しなくてもよい。

 本などを読んでいるとよく感動するコトバというものに出会う。印象に残るコトバというのは確かにインパクトがあるが、そのコトバの持つ意味自体はさして重要ではないのだ。感動とは自分自身の中にある。そのコトバの持つ意味と自分の価値観、経験などとが化学反応を起こすことで、それはその人の心に残るのである。送り手の送る情報というのはキッカケにすぎない。

 プレゼンもまったく同じである。感動させることが全部送り手の責任と考えて、インパクトのある情報や表現を駆使しようとするが、もっと「受け手と一緒につくる」と考えた方がいい。

プレゼンは化学反応のインプット

 よくセミナーのオーディエンスを観察していると、二通りの人がいるのがわかる。始終メモをとっている人と、ときどき思いついたようにメモをとる人。どちらにプレゼンがより印象強く残っているだろうか。

 間違いなく後者である。始終メモをとっている人というのは何も感動していない。心の中で化学反応が起きていないのだ。一方、ときどき思いついたようにメモをとるのは、視覚や聴覚から入った情報と、自分の思考や価値観とがなんらかの化学反応を起こした証拠である。受け手自身が、送り手の情報を価値あるものにしているのだ。

 だからプレゼンというのは、あくまで受け手に化学反応を起こさせるインプットであると考えよう。

プレゼンの半分は受け手の化学反応がつくる

 それでは、化学反応を起こすプレゼンとは? 簡単なことだ。受け手が化学反応を起こす時間を与えるのだ。受け手が受け取った情報と、自分でも気づかない思考や価値観とを組み合わせて化学反応を起こす時間を。

 具体的にはプレゼンにおける情報量を思いっきり減らすことである。

 分厚い提案書がイコール、プレゼン・シナリオでは駄目。プレゼン・シナリオ用に10分の1にまとめてみる。セミナーの講演資料なら、パワポ20枚を半分の10枚に減らす。

 簡単なことのようだが、これが難しい。そうすることで生じる「間」がこわいからだ。しかし、ぜひやってみていただきたい。実際にものすごくプレゼンに「間」が生じるし、「間」が大きすぎて「すき間」と言えるぐらいになるだろう。

 しかし、受け手がしっかりと味わって自分のものにしていることを実感できるはずだ。そして、プレゼンというものが一方通行のものから、共同での創造行為に変わっていくことに気づくだろう。

 プレゼンに必死になっていると、受け手の気持ちに気がまわらない。いかにおいしい料理でも、矢継ぎ早に料理の皿が出されても味わえないし、感動もない。プレゼンは、受け手の生み出す化学反応が「間」を埋めてこそ、初めて効果的なものとなる。そのためには、ただ味わう時間を与えるだけでいい。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)、「人見知りは案外うまくいく」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。