「インテルのプラットフォーム戦略は、ソフトウエアとエコシステムの充実にかかっている」。同社のソフトとサービス事業を統括するリック・エチェヴァリア副社長は、こう強調する。インテルの言うプラットフォームとは、プロセサ、チップセット、付加機能を持つアクセラレータなどから成る製品群のこと。企業向けには、デスクトップPC用の「vPro」のほか、4月にはモバイルPC用の「Centrino Pro」を発表した。エチェヴァリア副社長に、ソフトウエア強化の狙いや意義を聞いた。(聞き手は玉置亮太=日経コンピュータ)

インテルがソフトウエアの開発に力を入れる理由は何か。

 当社が提供するハードウエアや技術を生かし切ったソリューションを、顧客に届けるためだ。当社とパートナー企業、IT以外の業界の企業とを含めたエコシステム(利用・普及を促す環境)を整える。デスクトップからモバイル、サーバーまで、企業向けコンピュータのすべてが対象となる。

 具体的には、シングルコア・プロセサ向けのコードをマルチコア・プロセサ用に並列化するための開発ツールや、XML処理を高速化するためのアクセラレータなどを開発している。

写真●インテルのリック・エチェヴァリア副社長
写真●インテルのリック・エチェヴァリア副社長

 インテルがソフトウエアに投資をしようと決定したのは7年前。MMXテクノロジを内蔵したPentiumプロセッサを発表したときだ。新たなテクノロジ、あるいは機能を十分活用できるようなソフトウエアに投資をしなければいけないと判断したからだ。

 一方で、“シリコン向け”に最適化されたソフトウエアだけでは十分ではないということも感じていた。ちょうど7年前というのは、インテルがエンタープライズ分野に向けて進化を続けてきた時代だったのだ。そこでエンタープライズ向けハードウエアの開発を進めるのと並行して、ソフトウエア・ソリューションを開発する能力も向上させてきた。

 現在では、ソフトウエアによって様々な機能、能力を付加している。それもインテル1社だけではなく、OSのベンダーやアプリケーション・ベンダー、システム・インテグレーターなどと共にだ。より迅速にソリューションを提供できるエコシステムができ上がったと自負している。

 ソフトとハード、両方の開発成果を組み合わせた成果の最たるものがvProだ。今、vProが求められている理由は、企業のIT環境が複雑になりすぎて管理に追われ、戦略的なIT投資の妨げになっているからだ。企業のクライアントでは、複雑で膨大な演算能力を必要とする処理が、どんどん増えつつある。

vProの利点は、システム管理やセキュリティなど、管理者向けのものだけに見える。

 vProはPCのエンドユーザーと管理者の両方に価値を与える。エンドユーザーはよりパワフルなテクノロジを使いこなしつつ、一方でエンドユーザーの生産性を低下させることなくシステムの管理を高質化できるからだ。

 多くの企業では、ITの支出のうち、イノベーションに回されるものが非常に少ないという調査結果がある。vProを採用してもらえれば、エンドユーザーのサポートやメンテナンスのコストを劇的に削減できる。節約した人件費を、戦略的な投資に回すことも可能になるだろう。

 デスクトップにせよノートにせよ、コンピュータに対する要求はどんどん高度化してきており、それにつれてコンピュータの演算能力も上がっている。そうなると、膨大な演算能力を管理できなければならないし、セキュリティも欠かせない。vProのような新しい技術、新しいプラットフォームの価値は、今後いっそう高まるはずだ。

とは言え、企業内でのパソコンの使い方を考えると、主な用途はいまだにワープロと表計算、Webブラウズくらいで、10年前からほとんど変わってないのでは。

 そんなことはない。世界中の多くの顧客は、もっとパフォーマンスが必要だと常に要求してくる。

 3次元グラフィックスや動画の処理は、クライアント側に大量の演算能力を必要とするアプリケーションの代表例。仮想化技術もそうだ。サーバーの仮想化技術は、すでに普及しているが、デスクトップの仮想化を検討している企業も非常に増えている。仮想化技術によって、複数のOSを1つのデスクトップ上で動作させたいというものだ。

 あるいはSOA(サービス指向アーキテクチャ)のアプリケーションやWeb2.0でいうところのサービスのマッシュアップも、やはりデスクトップに高い演算能力を必要とするだろう。アプリケーションやサービスの統合処理をすべてサーバー側にこなすのではなく、ローカルである程度こなすことができるようになれば、システム全体として処理効率がより高まるはずだ。

 理論だけの話ではなく、こうした処理が現実に必要となりつつある。逆にデスクトップの演算能力が高まることで、これまではできなかった使い方を考案するケースもあるかもしれない。この期待があるからこそ、世界中の顧客はデスクトップの演算能力を求めているのだろう。

今後、ソフトウエアやプラットフォームに関して注力していく分野は何か。

 サーバー向けとモバイル向け、それぞれで新たなプラットフォームを発表する。

 サーバー向けでは、開発に注力する分野は3つある。省電力化や放熱の低下、プロセサ稼働率の向上といったデータセンターの最適化、リソースプールの作成と動的な割り当て、そして各種のリアルタイム処理や金融シミュレーションのように大量データを高速に処理するデータ集約型コンピューティングだ。

 今年中に、これらに関する多くのサーバー向け技術を提供する。省電力化、仮想化、入出力機構などだ。

 モバイル向けでは、新たなプラットフォームを、第2四半期(4~6月)に出荷する予定である(本誌注:インテルは4月5日、ノートPC向けプラットフォームのブランド「Centrino Pro」を発表した)。vProが持つ管理機能の一部のほか、性能の改善、バッテリ寿命の延長などの改善を施す。

Web2.0やSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)など、ローカルのコンピュータ上で動作する従来の形態とは違ったソフトの利用法が広がりつつある。こうした動向を、インテルはどう捉えているか。

 今後、ソフトウエアのエコシステムを発展させていく上で、極めて重要な分野と考えている。具体的なツールの開発や、パートナーとの関係強化に取り組んでいく。

 一例が、2006年11月に発表した「SuiteTwo」だ。これはブログやWiki、ソーシャルネットワーキング、RSSフィードなどを使って、企業内のコラボレーション環境を構築するためのツール。顧客に対して、Web2.0のアプリケーションが持つ潜在能力を見せることが狙いだ。