筆者紹介 鈴木 啓倫(すずき・ひろみち)
TDCソフトウエアエンジニアリング モバイルソリューション部

防災、画像系の自社パッケージ企画開発に従事。ASPICジャパン「災害時ICT基盤研究会」メンバー。

 前回のコラムでは、災害時における迅速な意思決定の重要性について述べた。今回は、迅速な意思決定のための有力な支援手段の一つとして、気象情報と位置情報を活用した携帯電話の防災ソリューションを紹介する。

通信網が過負荷状態になる前に関係者にメールを送る

 非常事態が発生した場合にまず必要なのは、災害対策本部のメンバーに対して、非常事態の発生を迅速に伝達し、あらかじめ決めてあった役割を遂行可能かどうかの返答を得ることである。災害発生時の初動体制を迅速に確立するためだ。

 特に、予兆なく発生する地震に関しては、地震直後に発生する通信網の過剰負荷により、対策チームのメンバーに対して連絡を取ることが難しくなると考えられる。そこで、気象情報支援センターの地震情報と連動した形で地震発生直後に各メンバーの携帯電話に通知を行うという方法が考えられる。こうすれば、通信網が過負荷状態になる前に、各メンバーに対して初動体制に向けての連絡を完了できる可能性が高まる。

 まず、気象業務支援センターより、地震、警報等の防災気象情報データをリアルタイムに受信できるようにしておく。一方、緊急通報サーバ上では、必要なメンバーに防災気象情報を電子メールで配信できるように設定しておく。こうすれば、配信を登録されているメンバーは、防災気象情報を携帯電話でほぼリアルタイムに受信できる事が可能となり、災害発生時の初期情報収集に関する時間短縮や、メンバーの安否確認が素早く行える。

■図1 

 このソリューションは、携帯電話を使うことによって、以下のような強みを発揮することができる

  1. 導入が容易
    携帯電話のメールを使ったシステムのため、わざわざ専用の機器をそろえる必要がなく、利用者に導入させやすいメリットがある。
  2. 情報の一元管理による、確実な情報収集
    メールの一斉配信により、1箇所のサーバに情報を収集が可能となるので、リアルタイムで正確な情報収集が可能となる。
  3. 規制にも強い情報伝達手段
    パケットは有線電話や無線通話より規制に強いため、被災時でも情報伝達できる可能性が高まる。

カメラやGPS機能のさらなる活用に期待

 今後、携帯電話に標準的に装備されているカメラ機能や、今後標準装備となるGPS機能を用いて、初動体制確立後の情報収集に関する業務支援についてもスムーズに行えるような仕組みを構築することができれば、さらに効果的なソリューションとなる。具体的には、画像やGPSには以下のような活用方法が考えられる。

・画像の活用──カメラ付携帯電話を活用した情報収集機能の追加
 発災後の現場の状況を動画や静止画で情報収集できるような仕組みを合わせて構築する。

・GPSの活用──自己位置通知、第三者検索を活用した、初動体制確立後の業務指示支援機能の開発
 例えば、発災時の職員の位置情報を把握し、適材適所の人間に的確な作業指示を行うことができる機能を構築する。

■図2 

携帯電話の防災ソリューション、今後の課題

 既に広く普及し、日常的に使われている携帯電話というデバイスは、うまく活用できれば災害時にも有効に機能しそうだ。とはいえ、今回紹介したソリューションも含め、現状、携帯電話を使った防災ソリューションは、キャリア等の通信事業者のサービスレベルの下でしか動作は保証できない。また、大規模災害発生時には、そもそも携帯電話が使用できなくなる状況も考えられる。

 利用者はこうした制約を理解したうえで導入を検討することになる。携帯を活用した防災ソリューションの今後の大きな課題は、「大規模災害で携帯電話が使用できなくなる」という条件の下において、代替連絡手段や情報収集手段を、いかに携帯電話を利用した災害システムに組み込んでいくかにあるといえるだろう。