昨年、米3M(スリーエム)から移籍した新CEO(最高経営責任者)ジェームズ・マクナーニーの下に、私の直属の上司である上級副社長兼CTO(最高技術責任者)ジム・ジャミソンがいる。

 ボーイングは1970年代までは数多くの製品を米国内で製造し、組み立てていた。しかし今では、組み立て以外のほとんどの工程は海外だ。だから我々は製造会社というよりも、技術会社といったほうがいい。このため当社のCTOは研究開発、IT(情報技術)、知的財産の3組織と、エンジニアリング、開発計画管理(プログラム・マネジメント)の2機能をつかさどる重責を担う。これらのうちの1つ、IT部門が私の責任範囲だ。

ライバルがイコール、パートナー企業

スコット・グリフィン氏
スコット・グリフィン氏

 ボーイングのIT部門は、社内だけではなく、部品メーカーや顧客企業のIT部門にも目配りし、協力しなくてはならない。対象企業数は数千に達する。加えて、航空宇宙産業の特徴は、ライバル企業がイコール、パートナー企業でもある点だ。例えば、米ロッキード・マーチンや米ノースロップ・グラマンは、ライバルであると同時に、部品納入メーカーでもある。

 従ってライフサイクル管理(企画から納入後までの工程管理)やサプライチェーンなどの面で、いかに上手に「協業(コラボレーション)」を実現できるかが競争力を大きく左右し、ここが当社のIT部門の焦点にもなる。

 例えば、米BAEシステムズ、ロッキード・マーチン、米レイセオン、英ロールスロイスと共同で作った共同調達会社エグゾスターは、インフラを共有して調達効率を高めるのが目的だ。しかし、出資会社はお互いライバルなので、データは共有しない。一方、三菱重工業や富士重工業、川崎重工業など日本メーカーとは、企画・開発・製造・サービスのワークフローにかかわるデータを共同で管理し、インフラの面でも、共通の製品データ管理システムを使うなど一部を共通化している。彼らは“別カンパニー(会社)”だが、“同じエンタープライズ(事業体)”だからだ。

 2年前、当社はCIO(最高情報責任者)の意思決定へのかかわり方を変えた。従来、約180ある製品の開発計画(プログラム)ごとにITスタッフが配置され、各プログラムがそれぞれ必要なIT機能を判断し、プログラム内のITスタッフが、予算内でソリューションを提供していた。

 しかし新体制では、すべての投資案件はCTOを議長とする「投資委員会」を通過しなければならない。関門通過のカギを握るのが「この投資は、ほかの開発計画にも応用可能かどうか」という点だ。この点について、お墨付きを与えるのが、私が議長を務める小委員会「ITプロセス・カウンシル」になる。つまり各開発計画のIT投資案件は、まず小委員会に集め、そこで私が中心となって交通整理し、「他分野に応用可能」な案件へとまとめ上げているのだ。

「システムのシステムを作る能力」が重要

 こうした意思決定プロセス上の変化に伴い、ITスタッフに必要な資質も、今までより上位の概念である「システムのシステム(アーキテクチャー)を構築できる能力」へと変化している。

 CIOになって以来、大原則として「ソフトは自分で書くな。市販品を買って、統合しろ」と言っている。ITスタッフはかつて、プログラムを書けることが重要な職能だった。つまり独立色の高い、職人だった。私は以前、財務システムのプログラムの一部を書いたことがある。しかし、今や財務ソフトを書かなくても、買うことができる。そうなると必要になるのは、市販ソフトを統合し、より上位の「システムのシステム」を作る能力だ。

 それは、個別具体的な課題を解決する能力とは違う。個別具体的な解決を示すソフトに対し、どのようにデータが入力され、そのデータはどう作成され、ほかのソフトと統合するには、どこをどう変えればいいか――と考えていく能力だ。そのために、ほかのITスタッフと情報を交換し、協力し合える資質を身につけてほしいと願っている。

スコット・グリフィン氏
1979年入社。プログラマーとして顧客サービス、航空機用システム、製造などの部門を経験し、商用機、防衛宇宙、社内サービスなどの管理職を歴任。97年に副社長兼商用機担当CIO。99年から現職。カリフォルニア州立大学フレズノ校卒、ピュージェットサウンド大学(ワシントン州)MBA。