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 地上デジタル放送受信機の普及が進んでいる。NHKの調査によると,地上デジタル放送受信機の普及台数は2007年3月末時点で,約1965万台になった()。普及台数が4月末に2000万台を突破するのは,ほぼ確実な情勢だ。地上デジタル放送の受信エリアも順調に拡大しており,2006年12月にはアナログ放送の視聴世帯の約84%に相当する約3950万世帯が同放送を受信できるようになった。地上波放送の完全デジタル化に向けた準備は着々と進んでいるようにみえる。

 ただし地上デジタル放送の普及のために,放送事業者や放送業界を所管する総務省が解決すべき問題はいくつか残っている。ある放送関係者によると,ここにきてUHFアンテナの普及不足が地上デジタル放送の視聴世帯数の増加を妨げる要因として浮上しているという。

 現在,日本の地上波放送事業者はUHF帯の周波数を使って,地上デジタル放送を提供している。一方,地上アナログ放送ではVHF帯とUHF帯の周波数を利用している。東京地区と名古屋地区,大阪地区におけるキー局や準キー局の大部分はVHF帯の周波数を使用しており,これらの地域ではUHFアンテナの普及が進んでいない。特に東京地区では,「UHFアンテナの普及率は5割程度にとどまる」(ある放送関係者)という。このため多くの世帯で,VHFアンテナをUHFアンテナに取り替える作業が必要になる見通しだ。

 これに加えてマンションやアパートのような集合住宅では,棟内の配線を入れ替える作業が必要になるケースがある。集合住宅の中には配線として「フィーダー線」を導入し,屋上のアンテナで受信した地上アナログ放送の信号を各部屋に送っているところがある。フィーダー線は伝送ロスが大きいため,地上デジタル放送の信号が部屋まで届かない恐れがあるという。このためフィーダー線を採用している集合住宅は,棟内の配線を同軸ケーブルに変える必要がある。

 さらに高層ビルが多い首都圏などの場合は,共聴設備の交換や改修が必要になるという問題がある。例えば高層ビルを建設すると電波障害が発生し,周辺の居住者が地上波放送を受信できなくなるという現象が発生する。このため,そのビルの所有者は共聴設備を設置して,地上波放送の電波が周辺の居住者に届くようにしている。

 この共聴設備が地上デジタル放送に対応していない場合は,設備の交換や改修の作業が不可欠になる。受信障害対策のための共聴設備は,受信障害を発生させた原因者が費用を負担して整備し,その後の運用コストも原因者が支払うケースが多い。ある放送関係者は,「ビルの所有者などの原因者は,デジタル化に伴う費用の追加負担に理解を示さないかもしれない」と懸念する。

 日本では2011年7月24日に地上アナログ放送が停止し,地上デジタル放送に切り替わることが決まっている。これまで放送事業者や総務省は,2011年の地上アナログ放送終了や地上デジタル放送の受信エリア拡大といった作業に取り組んできた。今後はこれらの対策に加えて,UHFアンテナの普及活動などを推進する必要に迫られそうだ。