「動いている間は空気のように誰も意識しないが、トラブル時は、いわば南海の孤島が急にスポットライトを浴びるようなものだ。10年に一度起こるような潜在バグでも、発生すると大ごとになるからこそ、ITは怖い」。こう話すのは、みずほ銀行のCIO(最高情報責任者)として活躍する白石晴久常務取締役だ。白石さんは、人事や経営企画、支店長、個人企画部長などを歴任し、1年前にCIOに任命された。リアルタイムで大量の資金を扱う銀行では、トラブルが実物経済や法人の資金繰り、個人の資産に大きな影響を与える。

 まだ記憶に新しい4年前のシステムトラブルが起きた時に設けられたCIOのポジションはさぞかしストレスの多い仕事だろうと想像される。しかし、工学部出身でパソコンの改造が大好きという白石さんは、プログラミングについては詳しくないが、リスク管理はこれまでの経験からよく分かるという。白石常務のお話を伺って、過去の経験を克服するためにリスク管理の勘所を知る白石さんを抜擢した理由が分かった。

 白石さん曰く、「システム障害がみずほ銀行のリスク管理のために及ぼした好影響が2つある」という。トラブルを契機に組織全体がITコンシャスになってくれたことと、1年半前に完了したシステム統合でトップを巻き込んだことだ。これで、ITガバナンスの基本構造を作り上げた。今では、主要なシステム戦略のプロセスはすべて副頭取がヘッドを務める会議で審議され、頭取が決定する。経営陣もチェックポイントを常に確認する。どこにいてもそのチェックができるように以前は不得手だった携帯メールを経営陣も学んだ。

 リスク管理は開発にとどまらず、サービスのフロントに立つ営業店では、大きな案件の場合、事前にリハーサルが行われる。コンティンジェンシープランを常に作る。天変地異でシステムが止まることも想定内だ。休暇中でも頭取には携帯電話で連絡が可能。ひとたび事が起きれば、影響を受ける人の数、その資金量といったリスクの波及範囲を的確につかみ対処する組織の知恵も付いた。

 「当行には、トラブルを隠そうなんていう意識はありませんよ。子供のころ1つ嘘を言うと10個も嘘を言わないといけなくなると学んだでしょ? これがリスク管理の基本です」と微笑んだ。

※文中の人物の所属、肩書きなどは、雑誌に記事を掲載した時点のものです

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
 シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA