写真:米GoogleのEric Schmidt会長兼CEO(Web 2.0 Expoにて)
写真:米GoogleのEric Schmidt会長兼CEO(Web 2.0 Expoにて)
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 米Googleが企業顧客(広告主)に対して発している主張は,とても明快だと感じている。「Googleの優れたソフトウエア(広告サービス)を,ユーザー企業は直接利用しましょう。無駄な中間業者を排除して,あなたもわれわれも幸せになりましょう」。これがGoogleの主張だと思っている。果たしてGoogleは,日本企業を幸せにできるだろうか?

 実は,Googleと似た主張を,サーバー用ソフトウエアの分野で行っている企業が存在する。米Microsoftである。筆者は,Microsoftの基本的な方針が,「ユーザー企業の情報システム部門がシステム・インテグレータの手を借りずに利用できるサーバー用ソフトウエアをリリースすることで,システム・インテグレータという中間業者を排除する」ことにあると思っている。「ソフトウエアの力」によって広告代理店を排除しようとしているGoogleと,システム・インテグレータを排除しようとしたMicrosoft。筆者は両社のスタンスが,非常に似ていると感じるのだ。

 そして筆者はこうも思う。「Microsoftの方針は,米国では成功しているように見えるが,日本では上手くいっていない。それと同じように,Googleの方針も米国では成功しても,日本で上手くいくかどうか分らない」と。なぜ筆者がそう感じているのか,まずはMicrosoftの事例から説明させて頂きたい。

「ユーザー企業向けの製品」なのは明らか

 Microsoftは公式には,自社の基本方針が「中間業者の排除」にあるとは言っていない。しかし,他社製品と比べて低価格で,管理ツールのGUI化などに力を入れているMicrosoftのサーバー製品が,ユーザー企業の情報システム部門をターゲットに作られているのは間違いないだろう。逆に,システム・インテグレータにシステム構築も運用も任せた状態でMicrosoft製品を選択しても,ユーザー企業もシステム・インテグレータも「幸せ」になれない恐れがある。

 まずユーザー企業にとって,「Microsoft製品の導入によるコスト削減効果」は,システム・インテグレータを介する限り,ソフトウエア・ライセンス料金の節約だけに限られる。どれだけ管理ツールの使い勝手が上がっても,それを根拠にシステム・インテグレータに対して料金の削減を迫れるだろうか(実現したとしても効果は薄いはずだ)。システム・インテグレータとしても,Microsoft製品の採用を根拠に料金の引き下げを迫られたら,確実に「幸せ」にはなれない。

幸せそうな米国,不機嫌な日本

 筆者は昨年,Microsoftが開催するITプロフェッショナル向けのイベント「TechEd」の米国版(米国ボストン)と日本版(横浜)の両方に参加して,あることに気が付いた。それは,米国の参加者が一様にウキウキとして幸せそうに見えるのに対して,日本の参加者が皆どこか疲れて不機嫌そうに見えることだった。

 これは,米国版TechEdの参加者がユーザー企業中心で,日本版TechEdの参加者がシステム・インテグレータのSE中心だからではないだろうか。米国企業は一般に情報システム部門の力が強い。Microsoftのサーバー製品を自社で運用しているケースは多いだろう。一方,「CIOすらいない」日本企業は,情報システム部門の力が相対的に弱いと言われている。同じMicrosoft製サーバー製品を使うのであっても,情報システム部門が強い米国企業は「幸せ」になれて,情報システム部門が弱くてシステム・インテグレータに頼らざるを得ない日本企業(と頼られるシステム・インテグレータ)は「幸せになれていない」--。筆者はそう感じたのだ。

Googleの広告サービスを使いこなせるか

 そして筆者は,これと同じことがGoogleの広告ビジネスでも起こりそうな気がしている。4月に開催された「Web 2.0 Expo」(米国サンフランシスコ)でも,Googleは「われわれは広告主(Googleにとってのユーザー企業)に,Webアクセス解析ツールを無償で提供している。だから広告主は自社で人を雇って自分でマーケティング分析を行いましょう」(関連記事:【Web 2.0 Expo】「Webアクセス分析は自社でやるべき」,Googleが無料サービスをアピール)と主張していた。Googleの広告サービスは「直接販売」が原則である。自社で広告をコントロールできる企業であれば,Googleの広告サービスを思う存分活用して「幸せ」になれることだろう。

 しかし,企業がマーケティングや広告に関する「インテリジェンス」を他者に完全にアウトソースしていて,もはや自社で広告をコントロールできなくなっていたら,どうなるだろうか。Googleの広告サービスを自社で利用することによって本来得られたはずの「コスト削減効果」が,小さくなるのは間違いない。

 筆者は大学の商学部でマーケティングを専攻していたが,マーケティングのキモを他者に依存している日本企業は少なくないと感じている。筆者はIT分野の取材歴が長いので,マーケティングの現場を取材した経験は,「日経レストラン」の記者時代に限られる。それでも,日本におけるビール会社の営業力は「飲食店に対するメニューやプロモーションの提案力」に左右されているのが実情だったし,飲食店検索サイト「ぐるなび」の成功の要因も「マーケティング・プロモーションの提案力」にあったと認識している。はたして日本企業は,Googleが直接提供する広告サービスを,うまく活用できるのだろうか?

 もちろん,米国でも情報システムのアウトソーシングが行われているように,何でも自社でやることが常に善とは限らない。自分でできないことをやろうとするのは無謀だし,アウトソーシングの方が高い効果が発揮できるのであれば,その方が良いに決まっている。だから筆者は,日本企業が情報システムの構築や運用,マーケティングや広告の意思決定を外部に依存しているとしても,それが問題だとは思わない。

 それでも,世界最大のインターネット広告事業者になったGoogleが,強い「ユーザー企業志向」を持っていることは確かだ。果たしてGoogleは,日本企業を幸せにできるだろうか。または日本企業は,Googleの広告サービスを使うことで「幸せになれる」だろうか。興味は尽きない。