ITpro読者の中には,はてなブックマークなどのソーシャル・ブックマーク・サービスを利用している方は少なくないだろう。多数のユーザーが気に入ったサイトや記事のURLをネット上に保存し公開することで,ブックマーク数の多寡により記事の人気度や有用度がわかるというものだ。
確かに,有用なサイトやおもしろいブログが一目でわかるのは,効率的で便利だ。記事を読むにせよ,ものを買うにせよ,なるべく“はずれ”は引きたくないので,他人の評価やレビューを読んで判断するという人は多いだろう。最近は,そうした行動傾向をランキング症候群と呼ぶらしい。
しかし,今どきのネット・ユーザーが,それほどランキング情報を信頼しているとは思えない。例えば,筆者は仕事の必要上,複数のソーシャル・ブックマークを利用しているが,ブックマークのランキング情報が自分に役立っているという実感はあまりない。
もちろんランキング上位にあるページは,有用で興味深いものが多いのは確かだが,自分にはほとんど価値がない,または何ら役に立たないという情報(ここではノイズと呼ぶことにする)もある。感覚的には,6~7割ぐらいは有用だけれど,残りはノイズかなと感じる。ネット上の不特定多数による“口コミ”はあまりあてにはならないと思っている。
ところが,つい最近,その考えを少し改めようという気になった。ノイズの少ない,きわめて上質なサイトを紹介してくれるソーシャル・ブックマーク・サービスがあったからだ。それは「StumbleUpon」である。
StumbleUponは,世界中のユニークで興味深いサイトをピックアップし,ユーザー(会員)に次々に提示してくれるソーシャル・ブックマーク・サービスの一つだ(stumble uponは「偶然出会う」といった意味)。米国では5,6年前からサービスを開始しているが,日本では一般ユーザーにはあまり知られていない。
その仕組みは単純だ。StumbleUponに会員登録(無料)をすると,ブラウザ用のツールバーをダウンロードできる。これをインストールすると,ブラウザに「Stumble」というボタンを持つバーが表示される。このボタンを押すごとに,StumbleUponが推薦するサイトが次々に表示される。
何かの検索結果を表示するのではなく,テレビをザッピングするように,会員のお気に入り度の高いサイトをボタン一つで次から次に見せてくれる。StumbleUponが用意しているジャンル(Architecture,Computer Graphics,Mythology,History,Animals,Programmingなど70以上の項目がある)をあらかじめ選択(複数選択可)しておくと,そのジャンルにあった推薦サイトを表示する。
会員は,そのサイトを見て気に入れば,同じツールバー上にある「I like it」というボタンをクリックする(反対に気に入らなければ「Don't show me more like this」ボタンを押す)。その情報が集合知としてStumbleUponに集まり,推薦サイトのフィルタリング精度が高まるというわけだ。
驚くのは,推薦サイトの質がとても高いことだ。思わず「ほぉ」と声をあげるほどよく出来たサイトが多い。写真や動画の多いサイトや,Flashなどで作ったインタラクティブなページなど見るだけで楽しいものもあれば,プログラミング言語のリファレンス集といったお役立ちサイトもある。世界中には,こんなおもしろいサイトがまだまだあったのだなと改めて感じた。仕事でも,有用な情報源として活用できそうだ。
StumbleUponは,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)的な機能もあり,友人を会員として招いたり,会員同士でコメントしあうといったこともできる。現在のところ,約216万人の会員がいるようだ。世界規模で展開するサービスとして,その会員数が多いのか少ないのかはわからない。ともあれ,現時点では,特に共通点のない不特定多数の会員による“口コミ(I like it)”が非常にうまく機能していることは確かだ(もっと会員数が増えたらノイズが混ざる可能性もあろう)。
ところで,筆者はStumbleUponの情報をどこから知り得たか。それは現実世界の口コミによるものだった。具体的には,同じITpro編集部内の後輩記者が教えてくれたのだ。そして彼は,その情報をプライベートで英会話を教わっている英語講師(オーストラリア人)から聞いた。さらに,その英語講師は友人からのメールでStumbleUponを知ったそうだ。
つまり,ネット上の情報であっても,現実のコミュニケーションを通して,リアルな口コミで伝わってくることはまだまだ多いのだ。誰よりも早くおもしろい情報を入手したいと思うなら,いつものブログやソーシャル・ブックマークを巡回チェックしているだけでは足りない。やはり現実社会にアンテナを伸ばし,様々な情報を持つ友人/知人とコミュニケーションをとっておくことが大事だ。
記者/編集者がそうした情報源を持つのはある種当たり前のことだが,IT技術者にも同じことは言えるだろう。新しい製品や技術の情報,ビジネスチャンスのヒントなどは,ネットだけから得られるとは限らない。この春から,社会人となった新人諸君,あなたは信頼できる情報源を持っていますか?