忙しいところ皆に集まってもらったのは,一つ考えて欲しいことがあったから。突然だけれども,この面子で「仮想編集会議」をやれるようにしたい。当然,モバイル環境で。どんなツールを使えばいいか,この場で話し合って決めてもらえますか。

 いきなりなんだ,という顔をしていますが話は単純。我々はEnterprisePlatformというWebサイトの編集を手掛けているけれど,そもそもが「仮想編集部」でしょう。EnterprisePlatformの実際の編集責任者は知っての通り,TS君。でも彼は正式にはITpro編集部の所属。インタビュー原稿をたくさん書いているTM君は日経コンピュータの記者。つまりここにいる全員,正式な所属部署は別にあるのに,このサイトの編集もやっている。だから編集会議もヴァーチャルな環境でやったら面白いかなあと。

 僕自身,EnterprisePlatformと経営とIT新潮流という二つのサイトの編集長を名乗っているものの,正式な肩書きは,日経コンピュータとITproと日経ビジネスと日経ビジネスオンラインの編集委員。編集長と言っても,あくまでも「仮想編集長」に過ぎない。それなのに名刺に「編集長」と刷っていいのかって? 確かに名刺を作ったけれど,上長経由で一番上のほうの了解をとったから。

 お前は会議嫌いではなかったかって? 確かに,昔から会議は好きではない。原稿なら寝ないで書けるけれど,会議で2時間を超えると萎えるね。そういえば今,日経コンピュータも,ITproも,日経ビジネスも,日経ビジネスオンラインも,どれ一つとして編集会議に出ていない。いや,その,前言を翻すようだが,別に嫌だからではなくて,一つの会議に出ると他の会議も全部出ないといけないかなあと思って。四つも出たら,原稿を書く時間が無くなるでしょう。疑い深い顔をしないで下さい。

 では,なぜEnterprisePlatformは仮想編集会議をするのか。言っていることが支離滅裂に聞こえるかもしれないが,やはり編集会議は重要と思うわけ。関係者の間で情報を共有したり,話し合いをすることは必要。実際,EnterprisePlatformに関して何か決めると,ここにいる全員に伝えないといけない。電子メールを送ればいいかというとそうでもない。今まで個別に口頭で伝えたりしてきたけれど,正直,相当に面倒。特に大事と思ったのは雑談というか,議論だね。企画というものは個人がばらばらに考えていても限界がある。ああでもない,こうでもない,と何人かで話をしてみないと,いい企画にはならない。

 と思って,EnterprisePlatformの仮想編集部でリアルな編集会議をやろうと決め,毎週月曜の午後5時から会議室を確保した。聞いていない? 数週間前,メールしたでしょう。ところがやってみると,みんな忙しいからなかなか集まらないんだな,これが。他の編集会議には出ないけれど,EnterprisePlatformの編集会議は主催者だから,会議室で待っているわけ。でも,往々にしてTS君と二人きりだったりする。これはなかなか寂しい。

 要するに,「仮想編集部の仮想編集長が招集する実編集会議」という設定に無理があるということ。だから編集会議も仮想にしたら参加者が増えるのではないかと。ちょうど今週から,海外出張に行く人がいるでしょう。TS君は北京,N君は北米。海外出張に行った記者は,実編集会議に参加できない。しかし仮想編集会議なら参加できる。この際だから,日本に残っている人も事務所ではなくて,国内出張先とか,移動中の駅のプラットフォームとか,自宅から編集会議に参加するようにしたい。

 それともう一つの狙いは,新しいツールを使ってみること。ITをテーマに雑誌やWebサイトを作っているわりに,どうも我々は最新ITによるコラボレーションをしている,という感じがあまりしない。この際,EnterprisePlatform仮想編集部は,時代の先端を行く仕掛けを使ってみてはどうか。そんなことより携帯電話を持てって? 確かにその件で諸兄に迷惑をかけているような気がするが,それはそれとして。ネットに詳しいTB君,今流行りのいい道具はないの。Twitter? 何それ。他の人,知っている? 誰も知らないのか,ということは新しいものなんだろうから,それに決めよう。今日の会議はこれで終わり。

(会議から3日後) 

 何度も集まってもらうのは悪いので電子メールを送ります。Twitterに登録したけれど,これでどうやって編集会議をすればいいのかなあ。TB君,米国で,Twitterは凄い人気だと言っていたが,なぜそんなに受けているのかな?

 皆さん,TB君から「僕もどこが面白いのかさっぱり分かりません」という返信が来た。ひょっとして我々は時代から大きく取り残されているのかもしれないという気がするが,それはさておき,こと編集会議という点については別の手段を考えた方がいいように思うので意見を下さい。

 日経コンピュータのTM君から「時代に合わせるならセカンドライフでしょう」というメールが来た。仮想空間でEnterprisePlatformの編集会議を開いたら受けるかもしれないが,デジタル原始人の僕にとって,あのアバターとかいう代物はいささか辛いのですが。代案はないでしょうか。

 N君から提案メールが来た。「マイクロソフトのGrooveの試用版はどうでしょうか」とある。出張期間中はこれで間に合うそうです。TM君,そういえばGrooveを使っている,と言っていなかった?

 TM君から「賛成」というメールが来たので,Grooveを使ってみようと思う。Officeをほとんど使わない僕が,マイクロソフト製品を選択するとは思わなかった。そういえば,Grooveはマイクロソフト製品というより,ノーツ開発者のレイ・オジー氏が作ったものだよね。ノーツもそうだけど,オジー氏の発想は基本的にはパワークライアントに重きが置かれていて,昔のマイクロソフトにはぴったりと思うものの,インターネット時代,つまりサーバーセントリック時代に逆行するのではないか。N君,どう思いますか。あ,そういえば,N君が執筆している,Officeの進化を徹底検証する連載「10年ぶりの大変革,その成否」の第5回はいつ書き上がりますか。それについても返信されたし。

 Grooveをなんとかダウンロードし,動くようにしました。チャットもできるのですね。恥ずかしながら,生まれて初めてチャットというものをしました。隣の席の人とやり取りしたせいかもしれませんが,こういうものを企業内で使っていると,明らかに生産性が落ちると思うのですけれども,デジタル原始人の誤解でしょうか。それはともかく,Grooveを使って編集会議をしようと思って,はたと気付いたのですが,編集会議の「機能」をきちんと定義する必要がありますね。実際に会議室に集まってやっていると,色々なことを同時にやっているわけですが,仮想編集会議だときちんと分離して,Groove上に実装しないといけない。ちょっと考えます。

 編集会議の機能はおおよそ次の4点と思われます。諸連絡・通達,話し合って何かを決める,ブレインストーミング,それからお互いの顔色を見る。諸連絡はメールでいいような気がしますが,せっかくなので,EnterprisePlatformに関する取材状況や原稿執筆状況は極力,Groove上に公開してください。原稿を共有できるから,メールで送り合うより楽かもしれない。話し合いは会議コーナーで。それからEnterprisePlatformで今後どのような企画を手掛けたらよいか,雑談する場所も設けます。顔色は,インターネットTV会議という話になって,えらく面倒なので,追って考えます。では,各自よろしくお願いします。

 追伸です。仮想編集会議をする,ということをITproのコラム「記者のつぶやき」に書くつもりです。やってみてどうだったかについてもコラムで報告します,とITpro読者に伝えてしまいますから,くれぐれもよろしく。