鞄の中はシンプル。打ち合わせ用のノートさえあればいい。
 2003年から5年連続で、売り上げの前年比2割増を達成し続けている。担当しているのは、主に製造業向けの基幹業務システムの提案。いきおい商談の額は億単位になるが、冨永にはノルマ達成への執着がある。「一度でも負けると、そのままずるずると負けグセがついてしまう」と懸念しているからだ。

 負けグセをつけないための工夫が二つある。一つは、中長期計画の立案・実行だ。企業が全社レベルで中長期で実現したい計画を持つなら、最前線の営業現場が中長期計画を持っていてもおかしくないはず。冨永は、率いる第2営業グループがどのような内訳で売り上げを計上するか、数年単位の青写真を常に描く。そしてその計画を年次、月次、週次とブレークダウンして、進ちょくを緻密に管理する。

 結果そのものは、必ずしも最初の予定通りにならなくてもいい。「重要なのは目標を立て、それを実行しようとする行為。目標を立てて動くのとそうしないのとでは、達成率が大きく違う」と言う。冨永はこれを、身を持って実証している。

 もう一つは、活動の焦点を絞ることだ。それを冨永は「何でもかんでも食べないこと」と表現した。売り上げのためならどんな案件にでも飛び付くという姿勢は、かえって業務効率を下げるという。ひと口に製造業といっても、機械系の製造業もあれば、化学系の製造業もある。範囲は広く、すべての分野に精通することは困難だ。冨永は「専門を定めて強みをさらに強化し続け、その分野で一等賞を取り続けることの方が重要。この世界は、金メダルでないと意味がありません。銀メダル以下はすべて失注ということですから」と話す。

 基幹業務システムの商談では、経営トップに会うことが必須だ。彼らの言葉が難なく聴けるよう、企業会計などの教育を、若手に混じって繰り返し受講するという努力家の一面も持ち合わせている。

=文中敬称略

冨永 秀信(とみながひでのぶ)氏
電通国際情報サービス
エンタープライズソリューション
営業部第2営業グループ グループマネージャー
1968年、徳島県生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、91年4月、電通国際情報サービスに入社。2000年4月から大阪支社で関西・中京地区の製造業を担当。2004年4月から現職で、現在は東京本社勤務。週に3日は名古屋に通う。趣味はテニス。学生時代からプレーしていたが、5年前からテニススクールに入って本格的に再開した。