文・清水惠子(みすず監査法人 シニアマネージャ)

 今回は情報体系整理図(UMLクラス図)について説明する。情報体系整理図は、業務と情報、情報間の関係を明確にするために作成する。情報体系整理図で用いている各種の記号はUML(Unified Modeling Language)記法に準拠している。

IV.資料編1 表記方法> 業務分析の様式>情報体系整理図(UMLクラス図) http://www.soumu.go.jp/denshijiti/system_tebiki/hyouki/gyomu/2a-9-uml.html

 情報体系整理図では、汎化(汎化とはエンティティ間の相違を取り除く行為であり異なっているものを取り除き同じ部分のみに着目すること)を示す白抜き三角形の記号が多く使用されている。この汎化の記号は、抽象化を示している。抽象化と汎化は、厳密には異なるが自治体EA業務システム刷新化の手引きの中では厳密な区分を意識せずに抽象化としている。

 ちなみに抽象化とはエンティティ(第6回参照)の間のある種の違いを取り除く行為あるいは取り除いた結果を示すもので、異なっているものを同じものとする行為が伴う。記号の意味は以下の通りである。

□ はクラス(またはエンティティ)を表す。
← は汎化(または抽象化)を表す。
─ は、クラス間に関係があることを表している。

 住民情報についての情報体系整理図の川口市の事例をみてみよう。業務の担当者が情報間の関連を整理しやすいように第6回で説明した情報の抽象化の際に作成したイベントエンティティ表を基に情報体系整理図を作成している。

■図 情報体系整理図
情報体系整理図

 情報体系整理図は、概念情報モデルとして概念としてイベントエンティティの関係を記載することを目的としている。データモデルとして情報体系整理図を作成している専門的な観点からは、この事例で記載されているクラス図はあまりに簡略に見えるかもしれないが、その簡略な概念としてのくくり方によって、業務担当者が業務と情報、情報間の関係を理解する一歩を提供することになる。いきなり、データモデルとして実装するのではなく、その前段階のモデルとして位置づけられ、イベントエンティティ全体像が一覧で可視化され現業担当者にも理解しやすい。これが、情報体系整理図のまず最初の“ご利益”である。

 図では、ヒト、モノ、カネに分類した抽象化情報項目の欄に記載した申請者等が記載されている。四角い枠の中に住民情報活動と記載された部分の上側にスタンディングデータ(申請者(ヒト)証明(モノ)等のデータ)、下側にイベントを置き、イベントごとの情報をそのイベントの下に記載する。申請者、対象者の抽象化された名称がヒトである。この事例では川口市が使用した紙面スペースの関係もあり、イベントの下に記載されている情報が申請情報といった記載でまとめられているが、本来は、住民票、申請書といった具体的な申請書類名や帳票名、伝票名等を記載することになる。これによって各イベントでの情報が明確になる。業務の担当者は、自分の作業で利用している情報名、具体的には帳票名の記載がなければ、情報の記載漏れに気がつくであろう。

 この図を作成することによって、具体的に情報の過不足を確認できるのである。情報の全体像が把握されることが、次のデータ体系の実装に必要なデーテ定義表に繋がっていくことになる。業務と情報の関係を整理するDFD(機能情報関連図)があり、次にUNLクラス図でその情報間の関係の全体像を明確にしてその関連をしている。システムを設計する際には、データベース設計が柱となる。その前段階としてUMLが業務担当者に業務に必要な情報が網羅されていることを確認してもらえる。これが情報体系整理図の“ご利益”がある。

 情報体系整理図を作成する際に留意することは、システム化の対象としない情報名も記載することである。スタンディング情報をマスター情報とすると、ここでの情報は全てシステム化するかのように思われがちであるが、この段階では、まだ、システム化対象に絞り込んではいない。システム化対象が絞り込まれるのは、次のシステム化の範囲を決定し実装モデルを作成する段階である。情報体系整理図は業務体系の整理とデータ体系の整理の中間にあり、業務分析でもあり、情報の関係を明確にするデータ分析の第一歩である。

 システムの実装に重点を置く考え方をする立場から、この情報体系整理図を作成しなくても業務・システムで扱うデータをモデル化して表現する実体関連図ERD(実体関連図では、抽象化された情報(エンティティ)及び関連(リレーションシップ)の概念を用いて、業務処理に用いるデータの関係を統一記述規則に基づき表現する。)が作成可能であるとして、その“ご利益”に疑問をいだく見方もあるが、情報体系整理図は、システム化かするかしないかにかかわらず、業務と情報、情報間の関係を明確にし、業務担当者とベンダーの共通の認識を得る重要なツールであり、業務とシステムを業務情報を軸としてつなぐ架け橋である。

※本連載は今回をもってひとまず終了である。なお、UMLとERDの詳細な関連については、この後に公表予定の「自治体EA-業務・システム刷新化の手引き-第二版」で明らかにされることになる。

清水氏写真 筆者紹介 清水惠子(しみず・けいこ)

みすず監査法人 シニアマネージャ。政府、地方公共団体の業務・システム最適化計画(EA)策定のガイドライン、研修教材作成、パイロットプロジェクト等の支援業務を中心に活動している。システム監査にも従事し、公認会計士協会の監査対応IT委員会専門委員、JPTECシステム監査基準検討委員会の委員。システム監査技術者、ITC、ISMS主任審査員を務める。