エキサイト

図●エキサイト
図●エキサイト [画像のクリックで拡大表示]

野口美樹 氏
野口美樹 氏

エキサイト
メディア本部
メディア編成部長 野口美樹

 大手ポータルサイトの中では女性ユーザーが多いという特徴がある。月間ユニーク・ユーザー数は2400万。2007年4月2日に,デザインを大幅にリニューアルした。トップに掲載する情報枠の位置などを自由にセットできるお気に入りエリア設定や,パーソナライズ機能のあるマイエキサイト,Webデザイナーが手がけたデザイナーズポータルなど新企画を打ち出した。大規模なリニューアルは4年半ぶり。

SWD 今回のリニューアルで解決を試みた課題は何でしょうか。

野口氏 当サイトは4年半前に大規模なリニューアルをしました。その時に目標としたのは,他のポータルと差異化したいということです。より若い人に向けて情報を発信できる,ターゲティング・メディア(届けたい相手を選んでダイレクトに訴求できるメディア)になろうと考えたのです。若く,ファッションに興味のある流行に敏感な層に選ばれるポータルを目指しました。

 具体的に取った手段は,大きな画像を使うことです。当時ポータルのトップページとしては極めて珍しい試みでしたが,ぱっと見てサイトの雰囲気が伝えられるビジュアルをページのデザインに取り入れました。さらに,「ism」や「Garbo」といったサイト内のコーナーで,Flashなどのリッチメディアを積極的に利用しました。こうした試みはそれなりに成果があり,エキサイトは他とちょっと違うぞ,という印象が浸透したように思います。高級ブランド・メーカーから広告を出稿いただくといったことにもつながりました。

 とはいえ,おしゃれな高級ブランドは男性ユーザーには無関係な要素かもしれません。使い勝手という面でもまだまだ改善の余地があります。加えて,運営上重要なバナー広告の内容と,トップに配置した自社コンテンツの画像表現が衝突するといった問題もありました。

 そこで今回のリニューアルでは,使い勝手の良さをスタイルの良さにつなげるプロダクト・デザイン的なアプローチを取り入れることにしました。前回のリニューアルで目指した,ビジュアルで先進的な印象を与える,いわば雑誌的な方向での印象付けを見直すことにしたのです。

パーソナライズ機能も新設

野口氏 リニューアル後のトップページは,前回より画像の要素を減らしスッキリさせました。誰にでも受け入れやすく,使いやすくて綺麗なツールに進化しています。ユーザーの好みに応じられるように,トップでは翻訳機能や乗換案内など情報を表示するパーツの有無や位置を変更できる「お気に入りエリア設定」機能を付けました。これらは会員登録やログインが不要なので,気軽に利用してもらえるのではないでしょうか。

図●「お気に入りエリア設定」機能を選ぶと,情報を表示する位置や,表示の有無を設定できる
図●「お気に入りエリア設定」機能を選ぶと,情報を表示する位置や,表示の有無を設定できる

 最小限の機能で十分だというユーザーは,別途デザインを選ぶことも可能です。ピクトグラムで表したナビゲーションのあるバージョンや,ポータルのデザインでは珍しいフルFlashのバージョンも選べます。

 ポータルサイトのパーソナライズといえば,機能をカスタマイズするものですよね。エキサイトでは好みによってサイトのデザインを取り替えられる。つまりデザインのパーソナライズができるポータルになっていると思います。これが今までのメディアと違う点ではないでしょうか。これが「デザインポータル」の特徴です。

SWD エキサイトのトップで採用している「お気に入りエリア設定」と「デザインポータル」には機能的な連携がありますか?

野口氏  デザインポータルは独立した「デザイン重視」のコーナーです。エリア設定機能はありません。各種デザインのページを利用するにはログインなども必要なく,個別のURLにアクセスしていただくだけで利用できます。

 デザインからコンテンツまでをすべてカスタマイズしたいユーザーには「マイエキサイト」の利用をお勧めします。こちらはログインしなくても試すことはできますが,設定を保存するには会員登録が必要です。

図●「マイエキサイト」はパーソナライズ可能なページ。デザインはデフォルト,デザインポータルにも参加しているCLEAR,Ribbonの3種類から選択できる。画像はRibbonのデザイン
図●「マイエキサイト」はパーソナライズ可能なページ。デザインはデフォルト,デザインポータルにも参加しているCLEAR,Ribbonの3種類から選択できる。画像はRibbonのデザイン [画像のクリックで拡大表示]

専門用語を可能な限り排除

SWD 使い方を教えてください。

野口氏 「マイエキサイト」から「デザインを変更する」をクリックするとデフォルトのデザインとCLEAR,Ribbonの三つからデザインを選ぶことができます。このデザインが選べるという点がGoogleのパーソナライズ機能と大きく違うところであり,自信を持っている部分です。

 またナビゲーションの「コンテンツを追加」をクリックしてエキサイトのコンテンツをページに追加することも可能です。RSSを追加して外部のブログなどの更新情報を表示させても良いでしょう。便利ツールとしてブックマークやメモ帳なども用意しています。

 エキサイトはもともとエンタテインメント情報に強いことから,ユーザー層はエンジニアやネットのヘビーユーザーとは違った若い一般層にあります。はてなやGoogleとは別のユーザーといって良いでしょう。反応の良いコンテンツとしてはデザイン関連記事や脱力系ニュース,小ネタといったところです。選ばれるコンテンツの方向性からも,ユーザー属性は技術系の方とは違うと認識しています。

 また,長く女性向けコンテンツの「ウーマンエキサイト」を運営しているせいか,女性ユーザーはかなり多いですね。普通の人に受け入れられるポータルデザイン,ということもリニューアル時は念頭に置きました。RSSといった専門用語も可能な限り排除していますし。

機能とデザインが融合した「良いもの」を作る

SWD 「デザイナーズポータル」などを手がけたデザイナーの顔ぶれは,どのように決めたのですか?

野口氏 日頃からお仕事を拝見してその力量に魅力を感じた方に声をかけました。あちらから手を挙げてくださった方もいます。そもそもポータルはデザインすることが難しい。どのポータルも背負っている使命が「検索」という同じ行為なので,そこにデザイナー独自の解釈を入れにくいのです。しかしあえて,デザインがかっこいいポータルってなんだろう。と考えてみることにしました。その問いを一緒に考えていける方ということも考えました。

 結局ポータルは,どこかのサイトに飛ばすことが役割。しかし検索ツールしか置いていないのならグーグルと変わりません。スタートページに設定したいと思わせるようなデザインを目標に,作業を詰めていきました。

図●Desktopのデザイナーズポータル。立山信一氏とtatsの有馬トモユキ氏が共同で手がけている
図●Desktopのデザイナーズポータル。立山信一氏とtatsの有馬トモユキ氏が共同で手がけている [画像のクリックで拡大表示]
図●CLEARのデザイナーズポータル・バージョン。Donny Grafiksの山本和久氏による
図●CLEARのデザイナーズポータル・バージョン。Donny Grafiksの山本和久氏による
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図●Ribbonのデザイナーズポータル・バージョン。ラナデザインアソシエイツが制作した
図●Ribbonのデザイナーズ・ポータルバージョン。ラナデザインアソシエイツが制作した
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SWD スキンという概念とは違うのでしょうか。

野口氏 それではデザイナーが提案に乗ってくれないでしょう。機能とデザインが融合した「良いもの」を作る方向性が必要です。この企画はデザイナーのポータル機能に対する提案という意味もあるのです。

 日頃私はセオリーやクリック・レートのような統計に頼って形を導こうとすることもあります。しかしデザイナーの見方を借りると,意外な視点からデザインを考え直すことができる。それが新鮮でした。

 今後もデザインのバリエーションを追加する予定です。いろいろなデザイナーの提案が揃えばこの試みの結果を検証して,今後エキサイト本体のトップのありかたなどを再考する素材にできればとも考えています。そういう意味で今回の試みはマーケティング的なトライという側面もありますね。

セオリーや数字では導けないデザインを

SWD サイトのユーザ調査などは行っていますか?

野口氏 インタビュー形式などで意見を収集することはしていません。ですが,どのコンテンツに人気が集中しているかなどサイト内でもユーザーの動向は常に数値化したうえで把握しています。ただ,ページデザインを考える時に数字を強く意識してしまうと,かえって他社サイトと似たようなデザインに落ち着くなどといった「行き詰まり」につながることもある。それが難しいところです。

 エンジニアと仕事を始めた段階では比較的,数字や既存のデザイン・セオリーを重視しつつ,デザイン作業をすすめていました。しかし結果は他社と似通ったスタイルに落ち着くばかり。それではリニューアルの趣旨である「他社との差異化」から離れてしまいます。

 ポータルはたくさんのユーザーが集まる場所です。そのユーザーが必要とする状態の最大公約数を考えれば,スタイルが似通うのは当然です。エキサイトもホームについては多少無難なスタイルを採用して大勢に対する利便を考えてはいます。しかし使うかどうかはユーザー次第という選択の余地がある「デザインポータル」という形を利用して,新しいポータルのスタイルを生み出そうと試みました。

 今後もターゲティング・メディアでありつつ,より使いやすさでしっかりユーザーを増やす方向にシフトしていきたいと思います。