新年度を迎え,地域ポータルサイトの企画が各地で持ち上がり始めている。今回は,地域に根付いたWebプランナーが,制作プロジェクトに参画する際の課題について取り上げる。

地域ポータル案件は,商用サイトより難しい

 SNSやCMSの普及で,地域ポータルサイト構築の敷居は低くなっている。小規模事業者は,IT・通信関連企業団体,SOHO団体,NPO等で結成した制作委員会に参加することがあるだろう。あるいは自ら自治体の制作事業者公募に名乗りを上げるかもしれない。地域ポータル案件は,地場での足場を固めるための,またとないビジネスチャンスに見える。

 ところが,膨大な企画書を作成し,打合せを繰り返しても,一向に形にならないことがある。なんとか開設できたとしても,1~2年で維持が難しくなり,閉鎖にいたることもある。地域ポータル案件の企画は,企業案件の何倍も難しい。

 「地域住民一丸となった,コミュニティ再生」といえば聞こえはいいが,この「一丸となって」が曲者である。「みんなで頑張ろう」は「誰かが頑張ってくれる」の裏返しだ。ヒト,モノ,カネという3つの責任の所在を明確にしなければ,頓挫は免れえない。

成功のための必要条件 ~ヒト(スタッフ)~

 何万,何十万の住民のためのコンテンツを,一人の力で企画・制作するのは不可能なので,協力者の問題を避けて通ることはできない。まず,次の3点を重視して,制作チームの体制を固めよう。

(1) 民間主導

 地域資源情報や防災情報の出所が自治体である,民間人は所属する組織の利害関係から仕掛け人になり難い,助成金がなければ開設費用をまかなえない―――そういった事情から,官主導,第三セクター方式を考えがちだが,民間主導の方が望ましいと筆者は思う。

 これは非常に単純な話だ。コンテンツ更新にあたるのは,町を駆ける民間スタッフであり,コンテンツを利用するのは,職業も年齢も千差万別の一般住民だ。物産販売や仲介などの有償サービスを展開する場合も,民間主導の方が,フットワークが軽い。ビジネスベースのコスト計算も的確だ。

(2) 地域主導

 企画・制作は地域主導で進めるべきだ。Web制作に特別な設備は不要なのだから,企業誘致と同じ感覚で進めてはならない。その地に縁もゆかりもない外部のプランナーやコンサルタント,制作会社が「外から」持ち込む企画よりも,「内から」湧き出る企画にこそ意味がある。そして,外部のプランナーが打診を受けたときは,まずは地域内の人材を活用するよう進言すべきだ。筆者はそうしている。

 地域住民を中心に据えた,理想的と思われるプロジェクト・チームの構成は,表1のとおりだ。Webプランナーにノウハウが不足している場合は,地元のデザイン会社や広告代理店の社員の中に必ず数人はいる,地場イベントの企画経験者に教えをこえばいい。

表1●中規模地域ポータル(地域内総人口30万と仮定)企画・実施のためのスタッフ構成
表1●中規模地域ポータル(地域内総人口30万と仮定)企画・実施のためのスタッフ構成
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 なお,地域メディアに無縁の事業者は,町づくりの歴史を把握しておいた方がよい。CATV局を含むメディア,観光協会,役所,商工会議所,青年会議所,その他組合,広告代理店,制作会社,家電量販店,通信・接続業者,ホスティング会社,自治会,NPOなどなど,町の情報を持つ企業や団体の協力関係が不可欠だからだ。

(3) 専任制

 Webプランナーは最低1年,Webマスター兼事務局と制作リーダーは3年,その役割に専念すべきだ。企画の成功が生活に直結する,という危機感なくして,責任感は生まれない。専任不在は,責任不在につながる。責任なく夢が先走ると,ブレーン・ストーミングは井戸端会議と化す。専任者は,「馴れ合いではなく担当制」「主張ではなく提案」「権利ではなく義務」「理想よりも現実」「理論より実践」「制作よりも継続」を心がけよう。

成功のための必要条件 ~モノ(コンテンツ)~

 箱ものを作って中身なし,利益が出ず放置,というご当地企画をよく耳にするが,Webサイトも同じで,重要なのは費用を回収できるコンテンツだ。

 だからこそ,企画は現実的に進めよう。会議で配布するレジュメに,抽象的な言葉を満載しないことだ。特に,5大お題目の「活性化,課題,構想,推進,コンセンサス」。これでは,「地域活性化のための課題を洗い出し,構想を打ち立てて推進するために,コンセンサスを得よう」と頷き合うだけで,具体的な行動計画にいたらない。

 まずは,地方誌,地方局(TV,ラジオ),CATV,タウン誌,自治会の発信する情報のうち,Webの方が効果的なものについて使用権を交渉する。次に,既存媒体によるWebの宣伝と,連動企画を考える。最後に,Webでなければ出来ない独自企画を考える。次の点に注意して,この3つを揃えよう。

開設目的を明確にする。
人口に合わせた期待効果を設定する。
公開日までのスケジュールを設定し,延期しない。
サイトマップ,検索機能を充実させる。
コンテンツが主役,バナーは脇役。
アクセシビリティを考える。
コンテンツの量と質を高める。機能の多さや,見た目の枝葉末節にこだわらない。
ニーズとシーズのミスマッチを避ける。重要度,優先順位を見誤らない。
地域リンク集の「玄関」で終わらせない。
情報の分散を避け,可能な限り一元化をはかる。
地域の特徴,個性を打ち出す。土着性を重視する。
地域行事と連動させる。社会的弱者へのサービス企画を盛り込む。
校正体制を持つ(小中学生も閲覧するため)。
物品販売等の有料サービスにつなげる。
開設が終着点ではなく,公開が第一歩と心得る。

 そして,Webサイトを開設した後で発生する恐れのある問題についても,事前に対応策を考えておこう。

内容や表現に関する掲載基準の策定(例えば,地域と密接に結びついた寺社仏閣の年中行事の案内方法など)。
掲載情報のリンク先のサイトの企画(例えば救急医療情報を掲載しても,病院側がWebサイトを開設していなければ詳細情報は得られない)。
投稿での匿名・実名の使い分け,個人情報の取扱い,著作権に関するマニュアル作り。
投稿コーナーでのクローラ避けの検討(キャッシュ後の問題発生の防止)。
Webカメラによる無断撮影の投稿のチェック体制。
住民からの投稿情報の,信頼性の確保。

 今後,地域ポータルが進化するにつれ,さらに小さな単位(市営住宅やマンション別)のポータルも増えてくるだろう。そうなると,掲載情報が「見守り」を越えて「監視」になる恐れも生じかねない。住民の一人ひとりのゴールデンルールは異なり,ほどよい親しみを感じる距離感も異なる。Webサイトの運営側にも,きめ細かな対応がもとめられるようになるだろう。

成功のための必要条件 ~カネ(ランニングコスト)~

 Webサイトの開設費用は比較的捻出しやすく,手弁当でも情熱だけで開設にこぎつけることがある。問題は,ランニングコストの捻出だ。運営母体には,開設後,最低3年間耐えられる体力が必要だ。企画段階から,維持運用について入念に検討しておかなければならない。

 広告収入であれ,企業スポンサーシップであれ,地域の企業や商店に費用負担をもとめる場合はその方法,また,逆に特産品の地域外販売によって利益確保が容易な場合は,その還元方法について,明確な基準を定めておこう。住民感情にも十分に配慮して,地域に溶け込むまで長く安定運用できるサイトを目指さなければならない。

 もし,コストの問題を解決できないのであれば,見切り発車するのではなく,既存のSNSを利用した住民同士の交流から始めることをお奨めする。

成功の鍵は,「ノスタルジア」を極めること

 「世界に発信できるインターネットなのに,なぜ,極端に狭い地域の情報だけを扱おうとするのか?」筆者が地域ポータルを手がけていた大昔(平成8年頃)に,よく投げかけられた質問だ。この質問は,年々重みを増している。当時から,熱いユーザーには地域在住者よりも地域出身者の方が多かった。海外在住者も増えている時代である。世界に発信できるからこそ,情報収集エリアを「足で稼げる」範囲に絞り込む必要がある。スタッフが五感を働かせてこそ,密度の高い情報を提供でき,ニーズとシーズの差を縮められるからだ。

 地域ポータルの目的は,在住者の利便性の向上だけではない。郷里から離れてこそ郷里を思う,地域出身者の想いに応えようとすることから,新たな会員制有償サービスの企画を立案できる。たとえば,他の町で暮らす高齢者に町の様子を発信する,知人友人親族の様子を撮影して発信する,都市で暮らす核家族に墓参りや墓掃除といった地域住民でなければできない作業を仲介する,生産量の問題から大手ネットショップでは販売できない商品を限定販売する,といったものだ。地域出身者は,無償で,アンテナショップのクチコミ営業マンとなり,SNSやブログで発信してくれるだろう。

 地域ポータルには,原風景の記憶を同じくするユーザーが集まるという,商用サイトには見られない特徴がある。原風景といえば,誰しも海や山や川の自然の風景を思い浮かべがちだが,それは違う。工業都市の出身者には立ち並ぶコンビナートが懐かしく,山の出身者には東西南北どちらを見ても山しかない景色こそが故郷なのだ。

 プランナーは,郷土愛を育み,引き出し,高め,伝える,叙情性を持つ企画を考えなければならない。ノスタルジアを刺激するコンテンツを,制作者とユーザーの間で共有できるかどうかが,地域ポータルの結果を左右するといえるだろう。