WebサービスAPIを無償で公開する企業が増えている。リクルートとサン・マイクロシステムズが2007年1月23日~3月12日に実施したコンテスト「Mash up Award 2nd」では,無償公開されている16社のWebサービスAPIを使った新しいサービスのアプリケーションを募集。108作品の応募があった。また,Yahoo!は2007年2月から,自社が公開している十数個のWebサービスAPIを対象にした「Yahoo! JAPAN WEB API コンテスト」を開催し,作品を募集している(締め切りは4月30日)。

 WebサービスAPIを不特定多数に公開するには,ドキュメントを用意したり,セキュリティ上の対策を施したりするのにそれなりの手間がかかるはずである。また,現在公開されているWebサービスAPIの中には,自社がWeb上で提供しているサービスのAPIを社外に公開するものもある。こうしたサービスのAPIを提供することによって,「軒を貸して母屋を取られる」可能性もないわけではない。

 WebサービスAPI公開のメリットやデメリットについては様々な考えがあると思うが,API提供側の主な狙いとしては,おおよそ次の五つがあるのではないかと思う。

(1)自社(API提供者)のサイトに誘導する

 WebサービスAPIを利用しているアプリケーションのユーザーが,最終的に自社のサイトを訪れるようにする。例えば,アプリケーションの検索結果について詳しい情報を知りたいユーザー向けに,自社のサイトへのリンクをアプリケーションの画面上に表示させるようにしておく。WebサービスAPIを利用しているアプリケーションが増えるほど,自社サイトへの導線が増えることになる。

(2)自社のサービスに誘導する

 (1)に似ているが,ユーザーに最終的に何らかのアクションを起こさせるところまで狙っている。例として,さまざまな条件に基づいて旅館を検索するWebサービスAPIを無償公開しておき,アプリケーションのユーザーが最終的に旅館に予約を入れる際には自社のサイトのサービスを使うようにしておく,などが挙げられる。誘導先のサービスはWebで提供されるものに限らない。例えば,上記の「Mash up Award 2nd」で富士ゼロックスが提供した「ネットプリント・サービス連携インターフェイス」は,インターネットとコピー機を連携させるためのWebサービスAPIである。このAPIを利用したアプリケーションが増えれば,コンビニなどに設置した同社のコピー機の使用頻度が増えることが期待される。

(3)クライアント企業の広告を表示させる

 WebサービスAPIの利用者が作成したアプリケーションの画面に,クライアント企業の広告を表示させるような仕組みを取り入れておく。アプリケーションが増えれば,広告が表示される回数が増えてPVを稼げる。

(4)より多くの技術者に新しいサービスを開発してもらう

 自社のWebサービスAPIを組み合わせたり,他社が提供しているWebサービスAPIと組み合わせることにより,新しいサービスを提供するアプリケーションを開発してもらう。いわゆる「マッシュアップ」である。自社に限らず,より多くの技術者にサービス・アプリケーションを作ってもらうことで,ビジネスの新しいアイデアが生まれる可能性があるほか,優れたサービスを自社のサービスに取り入れることも考えられる。

(5)有償サービスの機能制限版として提供する

 有償で提供するWebサービスAPIの機能制限版や試用版を無償で提供し,気に入ったら有償版を購入してもらう。通常のソフトウエアの機能制限版を無償あるいは安価で提供するのと同じ考え方。

 提供者側の狙いは一つとは限らないが,現在注目されているのは(4)のマッシュアップである。1社の保有するサービスに縛られないユニークなアプリケーションが,今後増加すれば,Webはより便利で楽しいものになるだろう。