今回から数回にわたって,Winny著作権法違反幇助事件の判決(注1)を取り上げていきます。

 この事件の概要については,すでに多くの報道がなされており,多くの説明は必要ないでしょう。ファイル共有ソフトの1つである,Winny(ウィニー)を開発した金子勇氏(以下,「金子氏」)が,金子氏自身のHP上で同ソフトを公開し提供していたところ,著作権法違反行為を幇助したとして,刑事責任を問われている事件です。

 この事件では,ソフトウエアの開発者が逮捕,起訴されたということで,ソフトウエア開発者の間で大きな反響がありました。

 上記事件の第一審判決についても,既に報道で大きく取り上げられていたのでご存じの方も多いかと思います。金子氏は150万円の罰金に処せられています。罰金刑ということで刑罰としては比較的軽いものとなっていますが,それでもやはり有罪です。もちろん,この事件は控訴(注2)されており刑罰は確定していません。今後無罪となる可能性も,処罰が重くなる可能性も両方あります。

幇助とは「正犯による犯罪行為を容易にする行為」

 本事件には,様々な法的な論点があります。ここでは,それらについても解説したいと思いますが,まず,第一審判決ではどのような事実が認定され,どのような事実が幇助犯として処罰されると判断しているのかを確認したいと思います(もちろん,以下の文章で紹介する事実認定は第1審判決の認定ですから,認定自体が覆る可能性があります。私自身は弁護団の一員でもなく,証拠関係を一切見ていません。よって,認定の当否は当然ながら判断できる材料がありません)。ソフトウエア開発を幇助で処罰することの是非の判断,解釈論も重要ですが,その前にどのような行為,事実が問題とされているのかを踏まえておくことが重要ではないかと考えています。

 まず,「幇助」とはどういうものなのか,簡単に説明しておきます。本件では,まさに「幇助」とは何なのかが問われている事件なので確認しておきます。

 刑法には「正犯を幇助した者は,従犯とする」(刑法62条1項)と定められているだけです。正犯とは単独で犯罪事実に当たる行為を行った者をいい,その正犯による犯罪行為を容易にする行為が「幇助」にあたるとされています。正犯の犯罪行為を容易にする方法は,物理的な方法(包丁を渡す等)だけでなく,精神的な方法(激励すること等)も含まれます。

 本件では,正犯(本件では2名)に当たる行為は,「Winnyを利用して自己のパソコンから著作物であるゲームソフトや映画のデータを自動公衆送信可能な状態にした」というものです。これは公衆送信権(著作権法23条1項)侵害です。今回の裁判では,この正犯の著作権法違反行為を容易にした(幇助した)と言えるのかどうかが問われたわけです。

 まず,罪となるべき事実を判決文で確認してみましょう。

被告人は,送受信用プログラムの機能を有するファイル共有ソフトWinnyを制作し,その改良を重ねながら,自己の開設した「Winny Web Site」及び「Winny2 Web Site」と称するホームページで継続して公開及び配布をしていたものであるが,

第1 甲が,法定の除外事由なく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,…<中略:ここでは正犯甲の行為が書かれている(筆者注)>…上記各著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害して著作権法違反の犯行を行った際,これに先立ち,同月3日ころ,Winnyが不特定多数者によって著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害する情報の送受信に広く利用されている状況にあることを認識しながら,その状況を認容し,あえてWinnyの最新版である「Winny2.0 β 6.47」を被告人方から前記「Winny2 Web Site」と称するホームページ上に公開して不特定多数者が入手できる状態にした上,同日ころ,上記甲方において,同人にこれをダウンロードさせて提供し,

第2 <前略:正犯乙の行為が第1と異なるが基本的な内容は同じ(筆者注)>もって,それぞれ前記甲及び乙の前記各犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。

 この「罪となるべき事実」で確認したいところは,当たり前ですが,ソフトウエアを開発したこと自体は罪に問われているわけではないということです。ともすると,「ソフトウエアの開発」が幇助として罪に問われたという形で議論されていることもあるのですが,そうではありません。

 判決文における「罪となるべき事実」とは,あくまでも「Winnyが不特定多数者によって著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害する情報の送受信に広く利用されている状況にあることを認識しながら,その状況を認容し,あえてWinnyの最新版」を公開し,ダウンロードできるようにしたことです。

 つまり,金子氏はWinnyが著作権法違反のコンテンツの送受信に利用されている状況にあることを認識・認容(注3)していた。にもかかわらず,「Winny2.0 β 6.47」(以下,「Winny2」)を新たに公開したことが罪に問われているのです。Winnyを開発したこと自体,あるいは,開発当初ダウンロード可能な状況にしていたこと自体は罪に問われていないということです。

 ただ,罪となるべき事実を見ただけでは,具体的にどのような行為が幇助にあたるとされたのか,よく分かりません。次回は,本判決で裁判所がどのような具体的事実を認定し,幇助行為が認められると判断したのかを検討したいと思います。

(注1)平成18年12月23日京都地裁判決 判例タイムズ1229号105頁以下
(注2)検察側も,弁護側もそれぞれ控訴しています
(注3)「認容」という言葉は法的な意味合いがあるので,その意味内容については,次回以降で解説したいと思います


→「知っておきたいIT法律入門」の記事一覧へ

■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。