図 電波有効利用方策委員会で検討されている携帯端末向けマルチメディア放送のサービスイメージ
図 電波有効利用方策委員会で検討されている携帯端末向けマルチメディア放送のサービスイメージ
[画像のクリックで拡大表示]

 情報通信審議会情報通信技術分科会の「電波有効利用方策委員会」が2007年6月の答申を目指して,地上アナログ放送の終了に伴って空くVHF/UHF帯で新規導入する無線システムの技術条件の検討を進めている。

 VHF/UHF帯では新たに,移動通信システムと携帯端末向けマルチメディア放送システム(ISDB-T方式やMediaFLO方式,地上デジタルラジオ放送などが候補,),ITS(高度道路交通システム),防災用などの自営通信システムを導入する予定である。2月の会合では,マルチメディア放送と自営通信システムはVHF帯に,移動通信システムとITSはUHF帯に導入するという基本方針が打ち出された。

 さらに3月末に開催した会合では,移動通信システムにUHF帯(700MHz帯)の50MHz幅を割り当て,ITSには同10MHz幅を割り当てる方針を固めた。またVHF帯については,マルチメディア放送と自営通信にそれぞれ35MHz幅を割り当てる方向で今後の議論を進める方針が示された。

 また委員会では,移動通信システムとITSで周波数を共用することや,マルチメディア放送と自営通信で周波数を共用することも検討していた。しかし,いずれのシステムについても利用エリアを全国で面的に展開する必要があり,トラフィックが常に流れることなどを考慮した結果,周波数を共用することは困難という結論に達した。このため,隣接するシステム間にガードバンド(不使用帯域)を設ける方向で議論を進めているところだ。

3G用周波数を増やすため放送はVHF帯で

 こうした委員会の基本方針について関連企業を取材したところ,水面下では様々な駆け引きが展開されていたことが分かってきた。

 特に移動通信事業者は,第3世代移動通信(3G)サービスの市場拡大に備えて周波数を増やすことに加えて,マルチメディア放送に新規参入することも目指している。こうした複数の希望を実現するために,異業種の他企業との関係作りに配慮していたようだ。

 例えばNTTドコモは,フジテレビや伊藤忠商事,スカイパーフェクト・コミュニケーションズ,ニッポン放送と共同で,2006年12月に「マルチメディア放送企画LLC」(本社:東京都港区,代表職務執行者:横井亮介氏)を設立した。この企画会社は,携帯端末向け地上デジタル放送「ワンセグ」の高度化や,VHF/UHF帯で空く周波数の新規格得を目指して設立された。

 そしてこの動きを拡大するものとして,マルチメディア放送企画LLCとフジテレビジョン,日本テレビ放送網,TBS,伊藤忠商事,住友商事,スカイパーフェクト・コミュニケーションズは,7社が発起人となって「ISDB-Tマルチメディアフォーラム」(ISDB-T MMF)を2007年1月に設立した。このフォーラムも基本的な目的はマルチメディア放送企画LLCと同じだったが,NTTドコモはこのフォーラムに直接参加することは見送った。その理由は,「UHF帯の周波数を3Gとマルチメディア放送で取り合う状況になった場合には,やはり3Gで取りたいという事情があったため」としている。

 また,KDDIとソフトバンクモバイルはともに企画会社を設立済みで,米QUALCOMMが主に開発したMediaFLO方式を使う携帯端末向けのマルチメディア放送事業に新規参入することを目指している。両社に技術を提供するQUALCOMMは当初,世界で提供されるMediaFLOサービスで使う周波数をなるべく近くして端末用チップの開発を容易にしたいと望んでいたため,日本ではUHF帯の周波数を取得することを希望していた。

 しかし,それはUHF帯に割り当てられる3Gサービス用の周波数を取得したい両事業者の希望とは相反するものだった。特にソフトバンクモバイルは3G事業者の中で唯一800MHz帯(UHF帯)の周波数を割り当てられておらず,NTTドコモとKDDIの2強に追いつくには電波が伝わりやすい同周波数を取得することが不可欠とみている。このため両社も結局,UHF帯はマルチメディア放送用でなく3G用として取得する方針を採ることにした。