Andreas Bitterer(アンドレアス・ビテーラ)氏  
Gartner社
リサーチ部門
ビジネス インテリジェンス リサーチ
バイス プレジデント
Andreas Bitterer(アンドレアス・ビテーラ)氏

米ガートナーの調査によると,「CIOが2007年に重要視する技術テーマ」としてビジネス・インテリジェンス(BI)がトップになった。かつてはBIと言うと傍流のテーマのようなイメージがあったが,今や企業の競争力を左右する最重要項目だ。BIの世界で何が起きているのか。ガートナーのアナリストが解説する。(ITpro)



 ビジネス・インテリジェンス(BI)の世界は大きく進化しています。特にここ数年の技術革新により,BIで数年前には考えられなかった経営効果が得られるようになりました。これからBIはどう変わるのか,そしてBIで経営効果を最大限に得るにはどうすれば良いか,ご説明しましょう。

 BIというと,皆さんはデータ分析ツールやデータ・ウエアハウスといったソフトや技術をまず思い浮かべるかもしれません。ですが,実はBIは非常に大きく,複雑な取り組みと言えるものです。単なる技術キーワードではありません。さまざまなことを考慮に入れないと,BIをきちんと機能させることはできません。

 BIの構成要素は次の通りです。

■技術
レポーティング・ツール,OLAP(多次元解析)ツール,データ・マイニング・ツール,ETL(データ抽出・変換)ツール,データ・ウエアハウス構築ツール など

■アプリケーション
パフォーマンス管理(計画,予算,予測,統合)

■インフラストラクチャ
データ統合,データ品質,メタデータ管理

■組織とオペレーション
推進リーダー,メンバー,スキル

この中で最も重要なのが,組織とオペレーションです。組織の中で,誰が本当の意味でビジネス・インテリジェンスを推進しているのか,どういった人たちを組織の中に抱えなければならないのか,さらにどういったスキルが必要なのかということが重要になってきます。

 「BIはもはや技術の問題ではありません。技術を使って何をやるかが問題です。そして,どのような組織体制を作るかがBIを成功させる一番のポイントです」。私はしばしば,クライアントにこうアドバイスします。

組織こそがBIの要諦

 BIを実現するための技術は,かなり充実しています。BIで失敗するケースは,技術的な問題ではなく,むしろ組織体制の問題に起因していると言えるでしょう。BIを個別のプロジェクトとしてとらえるのではなく,全社のイニシアチブ,あるいは複数のプロジェクトからなるプログラムとしてとらえ,推進するという考え方が必要です。

 このように簡単に言ってしまいましたが,当然,何をやるかと言っても,社内で統一見解をまとめ上げるのは困難です。BIを始める動機は立場によって異なります。例えばCFO(最高財務責任者)ですと,企業の売り上げと利益の現状を詳細に知りたいはずです。ですから,「財務面からのパフォーマンス管理機能が最重要なので,これを優先したプロジェクトにしてほしい」とBIのプロジェクト・チームに要求することでしょう。

 一方でサプライチェーンの管理者は次のように要求します。「製品はきちんと出荷されたのか,今トラックに載っているのか,それとも洋上なのか。物流の現状を詳細に把握できるレポートが必要だ。しかもすぐに」。

 顧客サービスを担当するマネジャは,「どんな人が当社のお客さまなのか,何を買ってくださっているのか,どこの店舗で買っているのか,それともWebサイトで買っているのか,詳細に知りたい」と言うことでしょう。

 いずれも異なる切り口ですが,BIを推進するプロジェクト・チームがBIのシステムを組む上で押さえるべきポイントが一つあります。たくさんのデータを業務アプリケーション経由で収集している中,「どのデータが誰にとっていつ重要になるのかを知っておくべき」ということです。

 今後BIでは,一つのインフラで,立場の異なる多数のユーザーに,それぞれに必要なデータの分析機能や報告機能,データマイニングの機能を提供する必要があります。

 ところがこれまで企業は「縦割り」のアプローチしかしていませんでした。それぞれの組織で個別にBIのプロジェクトを進め,システムを構築してきました。営業部門にはセールス・データ分析用のシステムを入れ,顧客サポート部門では顧客データ分析用のシステムを入れ,マーケティング部門ではマーケット分析用のシステムを入れてきました。要するに,各組織がさまざまなベンダーから個別にソフトを買ってきたわけです。これはCIO(最高情報責任者)あるいはシステム部門からすると,とても無駄なことです。標準化という面から考えると非常によくない状況です。

 ですから,これからBIに取り組む場合は,アプローチを変えるべきです。アーキテクチャの設計をBIに取り入れるべきです。アーキテクチャがしっかりしていれば,その後用途が広がろうとも,柔軟に対応できます。

 当然のことですが,アーキテクチャの設計はその企業のビジネス戦略を反映させる必要があります。それにより初めて,BIのアーキテクチャ――技術,アプリケーション,インフラストラクチャ,組織とオペレーションは企業戦略を支えるものになるのです。

BIは今や「最も最優先すべき事項」に

 BIは今や全世界のCIOが一番注目している領域です。ガートナーは毎年,全世界のCIOに対してアンケート調査を実施しています。約1400人の回答を見て興味深かったのは,CIOが「取り組むべき重要な技術テーマ」として,BIをナンバーワンに挙げているということです(表)。

表1●CIOに聞いた,2007年に優先して取り組む技術
  日本 世界
2007年 2006年 2007年 2006年
セキュリティ技術

1

1 6 2
エンタープライズ・アプリケーション 2

*

2 *
技術インフラの管理・開発 3 - 8 12
顧客へのセールス・サービス技術 4 - - 5
ネットワーク/音声/データ通信(VoIP) 5 2 4 8
レガシー・アプリケーションのアップデート 6 9 3 10
SOAおよびSOAアーキテクチャ 7 8 7 7
モバイル・ワークフォース用アプリケーション 8 6 - 3
ビジネス・インテリジェンス(BI)アプリケーション 9 3 1 1
ワークフロー管理 10 - - 7
 *:2007年に追加した質問項目
 -:ベスト10以下のランキング項目

出典:ガートナー

 今回は,BIとパフォーマンス管理が2012年までにどう進化するか,見解を述べます。それに付随する話題として,BIの製品とサービス,市場がどう変わるかもご説明します。

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