前回(第62回)は、最近若者の間で人気を集める社会企業(起業家)の概要を説明し、一般消費者向けの事業が多いなどの特徴を述べた。今回は、社会企業を5つのタイプに分類し、それぞれについて解説する。

■職業訓練&自立支援型--マイノリティに働く機会を与え自立を促す

 第1は「職業訓練&自立支援型」である。ホームレスや障がい者、無職の青少年などのマイノリティに働く機会を与え自立を促す。例えば、ニューヨーク市でホームレス支援を行う「コモン・グラウンド・コミュニティ(Common Ground Community)」。ここは住居・医療を提供することにとどまらず、自立支援の職業訓練もやる。例えば大手アイスクリームチェーンのベン・アンド・ジェリー(Ben&Jerry)の協力を得てフランチャイズ店を立ち上げ、元ホームレスがアイスクリームを販売する。あるいは「ディーシー・セントラル・キッチン(DC Central Kitchen)」。ここはワシントンDCで余って捨てられる食料を用いて食事をホームレスに提供する。またホームレスに調理技術を教えて就職を促す。この企業では職業訓練を終えて技術や経験を得た元ホームレスの料理人によるケータリングサービスを行い、その売上げが職業訓練事業に回される。

■フェアトレード型--フェアトレードで消費者が途上国を支援

 第2は「フェアトレード型」だ。目的は発展途上国の貧困問題や先進国との格差解消である。例えばマックス・ハベラー(Max Havelaar)はオランダで始まったフェアトレードの認証機関である。ここは一定の条件を満たして生産されたコーヒーやチョコレートなどの農産物に「フェアトレード商品である」というお墨付きを与える。与えられた商品には認証ラベルが付けられそのことを一般消費者に訴える。消費者もそれを確認して商品を買う。認証基準は厳しい。「人間らしい生活を営める賃金か」「強制労働や児童労働がないか」「水を汚していないか」「化学肥料の使用は最低限か」といった具合だ。ちなみに我が国にも「第三世界ショップ」がある。

■環境配慮商品提供型--環境にやさしい商品を提供する

 第3のタイプは「環境配慮商品提供型」である。これは文字通り環境にやさしい商品やサービスを提供する。例えばカリフォルニアで1973年に創業した「バタゴニア(Patagonia)」。登山、釣り、スキー用品の有名企業だ。環境に配慮したアパレルやアウトドア用品をつくり主に米国・欧州・日本で販売する。中にはペットボトルをリサイクルして作ったフリースや無農薬栽培の綿を100%使用した衣類などもある。同社は売り上げの1%を環境保護団体に寄付する。これまでに約20億円以上の助成金を米国内外の環境保護団体に寄付してきた。

 あるいはベルギーの「エコベール」。石油系成分を一切使わず、環境悪化に影響がある残留物を減らした洗剤を作る。現在では20カ国以上で販売されている。

 ちなみに「フェアトレード型」と「環境配慮商品提供型」には共通点がある。いずれも消費者に社会問題の解決に貢献する企業だと訴求する。それによって消費者の共感を獲得し競合との差別化を図る。多くの人が「自分も何か社会貢献したい」と思っている。しかしアクションをとるほどの余裕がない。ところがこうした商品を購入すれば少しは貢献できる。だから気持ちが動く。特にコーヒーや洗剤などは消耗品でどうせどこかで補充を買う。試しに一度フェアトレード商品を買ってみようと考える人は多い。使った後で仮に「割高だ」「おいしくない」と後悔しても額も小さくすぐに使い切る。そして「あれは寄付」と考えれば腹も立たない。

■社会投資促進型/オルタナティブバンク型--金融面からの社会貢献

 第4のタイプは「社会投資促進型」、第5のタイプは「オルタナティブバンク型」だ。これらはNPOなどを金融面から支援する。前者は一般投資家に対して社会責任を果たすのに熱心な企業に投資するよう促す。その観点からの格付けなどを行う専門企業だ。日本での代表格が「グッド・バンカー」だ。後者のオルタナティブバンク型は連載の第61回で解説した。通常の金融市場から安い資金を調達できないマイノリティや非営利団体向けに融資する。オルタナティブバンクは理念やビジョンに共感する人々から低コストで無理なく資金調達できる。この点においてオルタナティブバンクはフェアトレードと同じ仕組みで成り立っているといえる。

 以上、2回にわたり、最近若者に人気がある社会企業について解説した。日本でも同様のベンチャー企業が出始めている。全体を通じて思うのは、大人たちは「きれいごとではビジネスは食えない」と考えがちだ。だが豊かな時代の消費者はビジネスにも社会性を求めている。それを前提とすれば社会企業は案外に人々の支援を得て成長していくような気がする。

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上山信一(うえやま・しんいち)

慶應義塾大学教授(大学院 政策・メディア研究科)。運輸省、マッキンゼー(共同経 営者)、ジョージタウン大学研究教授を経て現職。専門は行政経営。行政経営フォーラム代表。『だから、改革は成功する』『新・行財政構造改革工程表』ほか編著書多数。