前回は,検索結果ページの「ページャ」について,いろいろなサイトの事例を見ながら考察してみました。前回の最後に述べたように,今回も引き続き,検索結果ページについてもう少し考えてみようと思います。

 前回に続いて結果ページを話題として取り上げたのは,前回の記事を書くに当たっていろいろ調べている中で,検索結果ページの使いやすさについての論文を見つけたからです。

 それは「Paging vs. Scrolling: Looking for the Best Way to Present Search Results」という2002年の論文です。この論文では,検索結果の表示数を1ページ10件,50件,100件と変化させて,どの場合が一番速く情報を見つけられるか,ということを調べた実験結果を報告しています。

 考えてみれば,一般的な検索エンジンの検索結果って,ほとんどの場合,標準の結果表示数は10件です。なんだかそれが当たり前のように感じていますが,じゃあ10件が最も便利な件数なんだろうか,というと,よくわかりませんよね。

「ページを繰る」のか,「スクロール」するのか

 「Paging vs. Scrolling: Looking for the Best Way to Present Search Results」では,「Paging vs. Scrolling」というタイトルのとおり,ページの構成を,情報を短く区切って「次のページ」リンクを利用する「ページを繰るタイプ(Paging)」と,情報を1ページに全部詰め込んで,「スクロールして見ていくタイプ(Scrolling)」という二つに分けて,どっちがいいんでしょう,と実験をしているわけです。

 2002年とちょっと古い論文なので,利用しているパソコンがPentium IIベースだったりと,懐かしい感じではあるのですが,ディスプレイは17インチで画面サイズは1024x768と,今でも十分通用するサイズです(W3Schoolによれば,2007年1月のユーザーの画面サイズ調査では,74%の人が1024x768以下のサイズの画面を利用しているそうです)。

 調査方法は以下のとおりです。

 あらかじめ,100件の検索結果を10件ずつ10ページ,50件ずつ2ページ,100件まとめて1ページ,という3種類の表示形式に分けて作成しておきます(それぞれの検索結果の内容は異なる)。そして被験者にはそれぞれが特定の一つのリンクを指し示す10個のキーワードが一つずつ渡されて,それぞれの検索キーワードに該当するページを見つけていく,という作業をしてもらいます。一つのキーワードから該当するページを見つけるための制限時間は5分です。

 19歳から55歳までで平均28歳の男性10人,女性8人に調査をしたところ,作業を終えるまでの平均時間は以下のようになったそうです(図1)。

図1:表示件数ごとの作業を終えるまでの平均時間(「Paging vs. Scrolling: Looking for the Best Way to Present Search Results」より引用)

 これをみると,一度に表示する件数を50件にしたときに,最も効率的に作業を行うことができた,という結果が出ています。50件を一気に表示するとずいぶん長い感じで,それが最も情報の発見をしやすい,というのはなんだか意外な気もしますよね。論文の著者は,10件よりも50件のほうがよかった理由として,ページを繰る作業が多いと,「次へ」リンクを探す作業と,目的の検索結果を探す作業を並行しなければならないために,遅くなりやすいのではないか,と考察しています。

 じゃあ検索結果は50件にすれば,最も効率的で使いやすいのかというと,この実験結果だけでは,必ずしもそうではないんじゃないのかなあ,とも思うのです。それはなぜかというと,この実験がかなり限定した条件で行われているからです。例えばまず,この実験では100件という決まったデータ数の中で情報を検索しており,被験者が最後の100件目近くまで目を通すことを前提としています。

 この実験はそもそも「ページを繰る」のと「スクロールする」のとで,どちらが効率的な検索が可能であるかを調べるものなので,このような条件を設定することは当然と言えます。しかし,実際にウェブ上で何かを検索する場合って,もしかしたら最初の10件でほしい情報が見つかるかも知れず,もしかしたら100件以上をチェックすることになるかもしれません。

 前回も触れましたが,多くの人は検索エンジンの結果ページで,最初の1,2ページ,つまり10~20件しか見ないというのは,SEOを行ううえでも前提とされていることです。検索エンジン各社もその品質向上のために,利用者が必要とする情報がなるべく上位に来るよう,努力を重ねています。その結果,多くの利用者が必要とするのはせいぜい最初の20件くらいなのかも知れず,だとすれば現在の検索エンジンで主流の10件を標準とした場合のほうが,「一般的な検索エンジン」では便利なのかもしれません。

 逆に,ここで行われている実験と同じように,利用者が一定のデータ量に目を通すケースが多い検索結果では,10件よりも多いほうが効率的だと言えそうですよね。例えば,前回も紹介した楽天市場の商品検索の「ウインドウショッピングモード」は,一度に多めの商品をまとめてチェックできる仕組みなので,30件とちょっと多めの商品が表示されたほうが便利になると思います。ただし,この論文の結果を見れば,100件も表示してしまうと今度は多すぎる,ということになるでしょうか。

 この論文で行われた実験では,各被験者に実験が終わった後にいくつかの質問を行っています。それは「どれくらい使いやすかったか」や「プロっぽく見えるかどうか」といった項目に対して,3種類の結果ページをそれぞれ6段階評価で評価する,というものです。それを見るとなかなか面白くて,「使いやすいかどうか」という質問に対して,一番評価が高かったのは実は50件ではなくて,わずかながらですが10件表示が上回っていたことです(図2)。また,「プロっぽく見えるのは」という質問に対しても10件表示がトップの評価を得ています。

図2:使いやすいかどうか(「Paging vs. Scrolling: Looking for the Best Way to Present Search Results」より引用)

 これに対して論文の著者は,多くの検索エンジンが10件を表示するのを標準としているため,「プロっぽく」見えるのではないか,と書いています。さらに,同じように,「10件表示に慣れている」という理由から,10件表示が一番情報を探しやすいと感じるのかもしれません。

 この論文ではそれ以上は考察されていませんが,「使いやすいという感覚」と実際の効率には違いが出てくることがある,という点は興味深いですよね。ただ,集中して文字を読んだりするのは疲れますから,10件ごとくらいにひと段落つけたり,「次へのリンクを探す」という別の作業が入ってくれたほうが,効率は落ちるのかもしれませんが,楽に感じるような気もします。