日本情報システム・ユーザー協会 IT匠フォーラム

<前号までのあらすじ> レガシー・システム刷新プロジェクトの立て直しを命じられたJUAS産業システム企画部部長の金山は、信念を曲げて、ERPパッケージの全面導入を決断する。翌年8月までに新システムを動かすための苦渋の決断だった。だが、ベンダーのヤマト事務機器を交えて検討すると、思ったよりもアドオンとして開発しなければならない機能が多いことがわかってきた。



 「CSS生産管理システムとCSS在庫管理システムのライセンス料、テーラリング(カスタマイズ)費用は合わせて4億円です。それにアドオンの開発費用を合わせますと、総額は12億1500万円になります。長い付き合いのJUAS産業様ですので、これの端数を切り捨てて、12億円の見積もりとさせていただきます」。ヤマト事務機器の営業課長、豊島はサラリと言ってのけた。

 これを聞いて、JUAS産業の面々は顔色を変えた。「ERPにかける予算は5億円まで」と考えていたから、なんと想定の2倍以上だ。

 豊島は話を続ける。「なお、来年8月のカットオーバーとなりますと、JUAS産業様がお望みのアドオン機能のうち、完成を確約できるのは2割程度です。また、稼働後の保守経費は別途見積もりとさせていただきます」と言ってのける。

 「人の弱みに付け込んで、よくまあ、これだけ吹っかけるものだ」。角川は半ばあきれながら、豊島の説明を聞いていた。プロジェクト事務局の中には「ERPパッケージを使えば、開発費を節約できるのではないか」と淡い期待を抱く向きあったが、もう吹き飛んだ。それにしてもアドオンの開発単価は法外だ。

イラスト:今竹 智

 ヤマト事務機器が引き上げた後の会議で、プロジェクト事務局のメンバーたちは不満を爆発させた。「CSSシリーズのライセンス体系がよくわからない」、「『CPU単位で課金』という理屈が納得できない」といった怨嗟にも似た声が渦巻いた。

 角川は、新システムの稼働後に毎年かかる保守料を気にかけていた。CSSシリーズは「値引き前のライセンス料の18%」というのが相場だ。しかも今回の場合、アドオンで開発した分の保守料もとられるはずだ。「5年もしたら、保守料の総額がライセンス料を上回ってしまう。ERPを選んだ金山部長の判断は本当に正しかったのか」。内心、角川はやりきれない気持ちで一杯だった。