プランニングとライティングは無関係に思われがちだが,Webサイトの大部分を占めているのは「テキスト」だ。今回は,企画段階から考えておくべき「言葉」の問題について取り上げてみる。

テキストの重要性を再認識しよう

図1●一般ユーザー向けWebサイトの構成要素
図1●一般ユーザー向けWebサイトの構成要素

 「Webサイト構築に必要な要素を,重要な順に三つ挙げてください」――このような質問に対して,皆さんなら何と答えるだろうか?

 デザイナー出身のプランナーなら,ビジュアル・デザイン,インタフェース・デザイン(サイト構成+ナビゲーション),画像と答えるかもしれない。エンジニア出身者なら,プログラム,データベース,プラットフォームを挙げるかもしれない。ところが,一般のエンドユーザーにとって最も触れる機会が多いのは「テキスト」,中でも,記号や式や構文ではなく「言葉」だ。

 Webサイトの要素を表すなら,図1のようになる。言葉は誰もが使いこなせる出力形式だから,見過ごしがちになるが,デザインとプログラムさえおさえていればよいわけではない。

 すでにコンテンツ勝負の時代である。有用あるいは感動する情報が書かれているとなれば,それが単純なテキスト・ファイルであってもユーザーは足を運ぶ。ビジュアルや処理を追加すれば鬼に金棒だ。テキストとデザインとプログラムは,作詞家と作曲家と歌手のようなものである。言葉を使いこなしたWebサイトやWebアプリケーションこそが,エンドユーザーを惹きつける。

画面遷移図に記載するテキストを決めよう

 企画段階では,まず次の3種類のテキストを検討しよう。これらは画面遷移図に記載するため,企画が通過した時点で顧客の了承がおおむね得られたものとして,プロトタイプ開発に流用することがあるからだ。プランナーの裁量で進められるものについては,早い段階で確定しておいたほうがいい。

(1) ボタンの文字やリンク文字列

 送信,取消,リセット,クリア,OK,Resetなど,フォームのボタンに表示する文字列は,漢字/カタカナ/英字のどれにするのかを決めておこう。また,前後のページにリンクする文字列―――もどる,戻る,Back,BACK,すすむ,進む,ホームへ,ホームページへ,Home,HOME,前へ,次へ,前のページへ,次のページへ―――などは,複数ページに渡って使用するだけに,実制作着手後に変更するとなると厄介だ。モックアップ作成段階から,Webサイト内での表現方針を統一しておこう。

(2) 告知文,案内文

 ニュース・リリースの告知文や,メールの自動返信のサブジェクトと本文は,顧客とエンドユーザーとの関係によって,事務的で簡潔な表現にすべきか,敬語を使うべきかが異なる。エンドユーザー層の変化も見逃せない。高齢ユーザーへの配慮から,不必要な略語は避けたほうがよい場合もある。開設目的に合った表現方針を定めたいところだ。

(3) メインメニュー名(分類名,コーナー名)

 トップページにレイアウトされることの多いメインメニュー名(分類名,コーナー名)は,ユーザーにとって使用頻度が高く操作性にもかかわるものだから,熟考して決める必要がある(メニュー名のアイデアの出し方については,第10回を参照)。

 画像で作りこむ場合は,字数も重要だ。字数の多いメニュー名を長体化してボタンに詰め込むと読みにくくなるからだ。例えば図2の3パターンは,だ円形のボタンのwidth,フォント,文字サイズとも同じだが,左上の長体化したメニューは読みにくいことがわかるだろう。図ではボタン間にスペースがあるが,多数のメニューボタンが連なると目的のメニューを見つけにくくなってしまう。

図2●企画段階からメニュー名の文字数も考えよう
図2●企画段階からメニュー名の文字数も考えよう

 デザイナーではないプランナーでも,単に文字を入力しただけの図1程度の画像なら作成できるはずだ。言葉が頭の中にわきにくい場合は,画像処理ソフトの助けを借りて,イメージから言葉を引き出すのも一考だ。

意味だけでなく「音」や「イメージ」も重視しよう

 Webサイトの名称,キャッチコピー,各ページのタイトルは,Webサイトのイメージを決定づけるので,練りに練る必要がある。決して,手抜きは許されない。

 ユーザーの感性を刺激するテキストを考えるポイントは,言葉が持つ,音やイメージを最大限に引き出すことにある。Webページ上のテキストを頭の中で音読しながら操作するユーザーや,映像に変換して理解するユーザーもいる。音読や映像変換をしないタイプの人でも,言葉の放つ何がしかのイメージを受け取っている。

 ためしに,簡単な数個の単語を暗記する方法について,同僚や友人に尋ねてみるといい。音として覚える人,絵に変換して覚える人など,言葉へのアプローチ方法が多様であることに気づくだろう。

 音やイメージを引き出すには,まず,漢字,カタカナ,ひらがなを使い分ける必要がある。ひらがなを使うと,サイトはあたたかくやさしいイメージに包まれる。逆に学術サイトであれば,漢字のほうがよい場合もある。同一サイト内では,使い分け方に明確な基準を定め,言葉のかもし出すイメージが散漫にならないようにしたい。

 具体的に説明しよう。例えばレモンティーを販売するWebサイトを考えてほしい。「レモン」と「檸檬」の意味と音は同じだが,イメージは大いに違う。炎天下でスポーツを楽しむユーザーにアイス・レモンティーをPRするなら,爽やかで,はじけるようなカタカナの「レモン」。冬の和室で語らう熟年夫婦にホット・レモンティーを提案するなら「檸檬」のほうがピッタリではないか(もちろん,逆転の発想で例外的な企画も考えられるが)。

 また,ペットショップのWebサイトに,小鳥の写真を掲載すると考えてほしい。「梵天十姉妹」よりも「ぼんてんジュウシマツ」のほうが効果を見込むことができる。子供でも読むことができるので,親におねだりする可能性があるからだ。なにより,「ぼん・てん」という文字の丸っこい形がかわいい印象を与え,リズムが楽しい印象をもたらしてくれる。子供は,大人よりも言葉のリズムには敏感だ。

 もっとも最近は,大人対象でも,(団塊の世代の購買力狙いで,この世代の好きなダジャレを多用しているわけでもあるまいが),韻を踏んだコピーが目立つような気がする。

 韻律,視覚韻,リズムの強弱,繰り返しといった詩の手法は,ユーザーの記憶に,音を奏でる言葉を残す。同じリズムを繰り返しながら,強調したい個所でその規則を故意に崩して強弱を変え,注意を惹き付けるといった手法は,実践ですぐにでも役立つはずだ。言葉に強いプランナーを目指すなら,詩に親しみ,自ら書くことを趣味にしてみるのも悪くはないだろう。

 さらに,時代のフィット感についても考えてみよう。この時代,「勝ち組」←→「負け組」という,相対する言葉のぶつかるところに生じるエネルギーが,ユーザーをとらえる傾向にある。本サイトのタイトルでも,それは顕著だ。「プログラマ」←→「デザイナー」,「アイデアがわく人」←→「わかない人」,読まれる記事には,言葉の時代性という背景がある。

ターゲット・ユーザーに伝わる表現を工夫しよう

 企画にあたってはターゲット・ユーザー(訴求対象)を明確にして案を練るように,文章表現についても,ターゲットユーザーを絞り込み,その「読解力」を想定して「わかりやすい表現」を目指さなければならない。「読解」には,次の三つの段階がある。

(1) 文字の理解:文字が読めるかどうか
(2) 意味の理解:言葉の意味を知っているかどうか
(3) 文脈の理解:文章の前後関係から内容を把握できるかどうか

 まずは,文字を読んでもらえなければ始まらない。日本語の読解にハンディキャップのあるユーザー向けのサイトなら,もちろん,ひらがなを多用する,ルビを振るなどの配慮が必要だ。

 かといって,すべてのユーザーに対して,その配慮が必要というわけでもない。前述の「檸檬」が良い例だ。漢字だからこそ喚起できるイメージがある。それをユニバーサル・デザインの名のもとに禁じることは,日本語の可能性を無視することになる。両者に対応するには,ボタンクリックでルビを表示するといった,バリアフリーな工夫を考える必要があるだろう。

 次に,言葉の意味を伝える工夫が必要だ。業界内でのみ通用する言葉や専門用語を平易な一般語に置き換えたり,注釈を付ける,ポップアップで用語説明を表示する,といった処理で補おう。Webサイトの言葉の意味がわからないユーザーこそ,新規開拓対象者だ。星の数ほどあるWebサイトの中でそのサイトを訪問しているのだから,言葉の問題によって,これを逃すのはもったいない話だ。

 かといって,すべてのユーザーに対して「可能な限り平易な表現にすればよい」ことにもならない。

 ヒトの感性は,跳躍する力を秘めている。言葉を説明している言葉がまたわからない場合でも,その知らない言葉を何度も見ているうちに,あるとき突然感性が跳ね上がり,意味をイメージできるようになるものだ。それは,アイデアを出す能力や問題解決能力にも通じるものである。ITエンジニアに不可欠なプログラム・コードを見て考え続けることで,構文をイメージする能力―――筆者は「コードばらし」と呼んでいる―――も,同じたぐいのものだろう。

 この,言葉から意味をイメージする能力は,自分の頭で考え,自分で調べる体験を重ねてこそ獲得することができるのではないだろうか。情報を発信する側が,過剰な親切心から,先んじて意味を懇切丁寧に説明することは,ユーザーが言葉に対峙する機会を奪うことになりはしないか。「考える手間をかけさせない表現」のみを目指すと,イメージ力はますます失われ,さらに平易な表現が必要とされる悪循環に陥ってしまう。いかに平易にするかはケースバイケースであって,「バランス感覚」が大切だ。

 なお,ライター出身のプランナーは,エンドユーザーの読解力に期待し過ぎてはならない。「正確な文章を書けば,必ず伝わる,ヒトはわかり合える」わけではない。熟語や比喩の使い方にも,十分に注意する必要がある。

プランナーは,「自分の言葉」を磨こう

 以上のように,プランナーには,言葉に対する鋭敏で繊細な感覚が求められる。だからこそ,技術解説書とデザイン雑誌と仕様書だけを読むのではなく,平生から文芸作品にも親しもう。

 そして,自分の言葉で語り,自分のタッチで表現するように努力しよう。顧客の取材稿も一度消化してから書こう。文章練習のためにブログをつづるなら,他者の書いた文章に対する賛否や引用しての感想ではなく,自分の意見を発信してみよう。

 自他の言葉の境界を明確にするために,他者からの影響を最小限にとどめる姿勢も必要だ。例えば筆者は,書籍や記事の骨子を書く当日は,一般のブログや日記は閲覧しない。文章を練る「義務」のない「気軽な」文体の影響を恐れるからだ。

 そして何よりも文章を書くときは,「シンプル・イズ・ベスト」を心がけ,引き算のリライトを繰り返そう。重複個所をバッサバッサと削除していく,思い切りの良さが肝心だ。

 Webサイトの目的が商品宣伝の場合,プランナーには,コピーライターと同じレベルの表現力がもとめられる。私はプランナーであって,文章のプロではないから」と言っていても始まらない。言葉をつむぎ出すには,第9回に書いたような企画のアイデアを出すのと同じ方法で考え抜き,浮かんだら逃げないうちに書きとめる必要がある。そして,難解な言葉ではなく,誰もがわかる言葉の「それしかない」組み合わせを思いつかなければならない。

 1行を書くことの産みの苦しみを体験すればするほど,言葉の重要性がわかるようになるものだ。言葉は,深くて,重い,コミュニケーション・ツールである。「書く」ということは,ユーザーに真剣勝負を挑むようなものだ。共感であれ怒りであれ,何らかの感情を呼び起こし,考えたり行動するためのきっかけを提供する必要がある。

 プランナーは,テキストの重要性を再認識したうえで,企画にのぞもう。そして,プロジェクト・チームを結成する場合は,デザイナーとプログラマだけでなく,ライターとのコラボレーションも考えていく必要があるのではないだろうか。