新銀行東京は2006年10月初旬、ICタグを使った稟議(りんぎ)書管理システムを導入した。新規プロジェクトの承認など非定型の稟議書をICタグ付きのフォルダに入れて回覧することで、意思決定のスピードを向上させた。

 2005年4月に開業した新銀行東京では、新規プロジェクトや新規案件にかかわる稟議書が多いときで月に300~400件、少なくとも100件以上作成される。融資審査などの定型業務には電子稟議システムを適用しているが、非定型の稟議書は分厚い企画書なども含まれるため電子化が難しい。しかし紙ベースの稟議書は、いつどこにあるのかを把握できないため、途中で滞りがちになる。

 そこで新銀行東京は、意思決定のスピードアップと稟議書管理の精度向上のために、ICタグシステムを導入した。各部署の長は稟議書を作成する際、それをICタグ付きのクリアフォルダに入れ、そのICタグの表面に印字されたシリアル番号と稟議書名を記録すると同時に、自らの机に設置された卓上型リーダーにICタグをかざす(写真1)。そして最初に回覧する部署の長に渡す際に、その部署長の机に設置されたリーダーにICタグをかざす。それで稟議書の所有者は渡した先の部署に移る。

写真1 ICタグ付きクリアフォルダをリーダーにかざしたところ

 稟議書を渡された部署の長は決済の後、次に回覧する部署に稟議書を持っていき、その部署長の机にあるリーダーにICタグをかざす。このようにして、各稟議書がどの部署に、どれだけとどまっているかが可視化される。各稟議書の所在は、WebシステムでICタグのシリアル番号を入力して調べられる。

時間単位で稟議書が回る

 仕組みは簡単だが、稟議書決済のスピードは明らかに早くなったという。「部署の長に手渡してから1時間以内に次に渡されるという場合が多くなった」(新銀行東京事務統括グループ長兼事務企画ユニット長の中村幸人氏)。システムの導入コストは「数百万円台の上の方だが、十分に投資効果はあった」(中村氏)としている。ICタグの適用により、顧客情報の保護も徹底できる。稟議書には、個別の顧客の案件に関するものもある。ICタグを使えば、顧客情報が含まれる稟議書の所在も厳密に管理できる。

 採用したICタグの周波数は、「実績が多く、リーダーが安価で選択肢が広いことなどから13.56MHz帯を選択した」(システム構築を担当した凸版印刷ICビジネス本部RFIDソリューション部の高野裕子氏)という。リーダーはタカヤの「TR3-N001E」である。同社のRFIDミドルウエア「MACS-BASE」も合わせて導入し、社内LANにつないだリーダーの読み取り結果を収集する。机の上にはLANケーブルと電源ケーブルをつないだ小型リーダーだけを導入すればよく、設置面積を取らない。ICタグ付きのクリアフォルダは500枚購入し、21の部署に20枚ずつ渡して使い回す。残りは予備とした。リーダーは部署のフロアが分かれている場合などに配慮して、40台導入した。導入コストはリーダーなどの機器とソフトウエアでおよそ半分ずつである。



本記事は日経RFIDテクノロジ2006年12月号の記事を基に再編集したものです。コメントを掲載している方の所属や肩書きは掲載当時のものです