日本情報システム・ユーザー協会 IT匠フォーラム

<前号までのあらすじ> 社長室とシステム企画部の対立の中、始まったJUAS産業のレガシー・システム刷新計画。利害関係者の思惑が錯綜する中、生産管理システムは独自開発、会計と販売管理はそれぞれ別々のパッケージという複雑な形で、プロジェクトは進んでいく。ひずみを一身に受けたシステム企画部課長補佐の角川は、第 2子誕生直後にもかかわらず、生産管理システムの外部設計に忙殺される…。



 3月になって、角川の生活はようやく落ち着きを取り戻した。懸案だった生産管理システムの外部設計は、なんとか終わった。妻の雅子も生後2カ月の第2子を連れて実家から戻ってきた。

 「これで夜泣きがなかったら、もっと快適なのだが…」。その日の朝、角川は勝手なことを思いながら、会社の正門をくぐった。

 システム企画部の入っているビルに近づくと、駐車場があわただしい。搬入口に横付けされた3台のトラックから、運送会社の社員がせわしそうに機材を運び出している。

 「なんだろう」。角川が一人つぶやくと、後ろから「今度のシステムで使うハードの搬入さ」と声がする。振り向くと、課長の永山がいた。

 「でも、スケジュールが遅れに遅れているのに、機械だけ入れても仕方ないでしょう」。角川は当然の疑問を口にする。

 「まあ、いろいろあってね…。今後のこともあるから、角川君も知っておいたほうがいいか…」。永山がもったいぶって話し出した。

イラスト:今竹 智

 「プロジェクト予算は20億円だが、設計が遅れて、開発が始まっていないから今年度はほとんど使っていない。それじゃマズイだろ。それで、ハードを先に買って帳尻を合わせたわけさ。ハードの予算は9億近くあるからね」。

 「馬鹿な話じゃないですか。ハード技術は日進月歩というか、今じゃ秒進分歩の時代ですよ。買った機械は3カ月もすれば、古くなってしまいます」。角川は指摘する。

 だが、永山は意に介さない。「まあ、これが政治というものかな。ヤマト事務機器からたくさん支援のSEが来ているけれど、あれはハードの代金でまかなわれることになっているんだ。ハードを買わないと要員を引き上げるってヤマト事務機器の営業が社長室を脅したらしい。ま、社長室も渡りに船だったと思うけどね。おい、始業に遅れるぞ。行こう」。角川は首を傾げながらエレベータ・ホールに向かった。