地震の発生をネットワーク経由で先回りして知らせる「緊急地震速報」。その実用性と利用上の注意点が,関東,宮城と相次ぐ大規模地震で見えてきた。宮城では仙台市のユーザーが約16秒前に警報を受信。ただし多くのユーザーはまだ様子見の段階で,積極活用するには自社システムとの連動など検討課題も多い。
「宮城県沖で地震発生。宮城県南部地方に今から19秒後以降に震度5弱程度の地震がきます」──。 2005年8月16日,宮城県沖で最大震度6弱の地震が発生した際,仙台市の国土交通省東北地方整備局は気象庁からの「緊急地震速報」を受信した(写真1)。
写真1●国土交通省東北地方整備局に気象庁から配信されたデータ 宮城県南部には,「震度5弱程度」と「19秒後以降に到達」の情報が送られてきた。S波(主要動)到達時間や震度の情報は刻々と更新され,結果的には最初の配信から約16秒後に揺れが生じた。 [画像のクリックで拡大表示] |
警告音と表示灯の点滅で速報の配信に気付いた同局企画部の平石進防災対策官は,その瞬間「発生が近いといわれていた宮城県沖地震が来た」と身構えた。「地震だ」と声を上げて周囲の危険物を見渡し,とっさにロッカーを支える。揺れの到達時間や震度の情報は刻々と更新。そして仙台市は,最終的に最初の速報から約16秒後に震度5強の揺れに襲われた。
全国150ユーザーが試験的に導入
緊急地震速報とは,気象庁が中心となって2004年2月から提供している試験システム。専用の速報地震計のデータをネットワークで収集・解析し,リアルタイム地震情報利用協議会などの機関を通じて警報を配信する。地震計は気象庁が全国約200カ所,防災科学技術研究所(防災科研)が全国約800カ所に設置済み。現在は,参加ユーザー限定の実証実験という位置付けだ。
地震は先に到達するP波(初期微動)の速度が毎秒7k~8km,大きな被害をもたらすS波(主要動)の速度が毎秒3k~4km。一方,速報地震計のデータ通信の信号は光と同速度だ。発生した地震の規模と位置などの情報を先回りして伝えられる(図1)。
図1●2005年8月16日に発生した宮城県沖地震における緊急地震速報の作動状況 P波とS波の時間差を利用し,大きな揺れが来る前に警報を発する。 [画像のクリックで拡大表示] |
今回の宮城沖地震の震源は沖合い約100km。石巻市の地震計がP波を最初にキャッチした時点で,S波はまだ沖合60km以上先を進行中だった。石巻へのS波到達までは15~20秒の余裕がある。気象庁での情報処理などに約4秒を要したが,石巻市ではS波到着の約10秒前,仙台市では約16秒前に緊急地震速報を受け取ることができた。
試験への参加ユーザーは「全国で約150」(気象庁地震火山部管理課の斎藤誠即時地震情報調整官)と広がりを見せている。例えば東京海上日動リスクコンサルティングは,東京・丸の内の本社にシステムを導入。表示灯で地震の発生を告知している(写真2,動画1)。
2004年10月の新潟県中越地震や2005年3月の福岡県西方沖地震では,緊急地震速報は効果を発揮できなかった。当時は,震源地近くに観測点がなく,利用ユーザーもいなかったからだ。
このため,宮城沖地震と2005年7月23日に関東地方で発生した最大震度5強の地震は,緊急地震速報の実力と課題を知る初の機会。震源近くに速報地震計が設置してあり,実際にユーザーが近くで利用していたからだ。なお速報地震計は,「今年度中に全国への設置を完了する」(気象庁の斎藤調整官)。