■コミュニケーションにおいては,「人」そのものへのアプローチだけでなく、「場」に対するアプローチも大切です。人の力を使って「場」をうまくコントロールするにはどうすればよいのでしょうか。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 前回のコラムで、ちょっとしたアクションで場にカオスを起こすことができ、しかもそれはコントロール可能なものだという話をした。今回は具体的に、カオスによって場をどのようにコントロールすればよいのかを解説しよう。

 場を動かすものは基本的に人である。場を思い通りに動かすとは、人に対して働きかけることである。しかし、強力な催眠術を使って場の参加者全員に言うことを聞かせるわけにもいかない、人のチカラを使って場を動かすとは、誰かを“インフルエンサー”として場に連鎖的な動きを与えることだ。

 その対象を誰にするか、どのようなアクションを誘発するのか。これがポイントだ。まず大切なのは、場に参加する人のキャラクターを把握しておくとことだ。場における行動パターンで分類すると、人は大きく次の2つのタイプに分かれる。

・イマジネーションタイプ
・理論派タイプ

 これら二つのタイプの人には、会議の流れに沿ってそれぞれ適切なタイミングで活躍してもらわなければならない。

 「拡散」と「集中」などという言葉が使われるが、会議の前半はアイデアを数多く出してイマジネーションを広げていく。後半は、論理的にアイデアを評価して絞り込んでいく。

 会議などで議論が混乱するのは、イマジネーションを広げる拡散プロセスの際に理屈っぽいことを言って議論を停滞させたり、論理的に議論していくべき集中プロセスでイマジネーション全開で収拾がつかなかったりと、場の流れにマッチしていないアクションが要因のことが多い。

 なので、場をどのような流れに持っていきたいかを意識して、その流れに沿った役割を演じられる人にアクションを働きかけるのだ。

キャラクターに合った役割を演じてもらう

 少しでも意見を出して場を盛り上げたいときは、イマジネーションタイプに話をふって、場を大いに盛り上げる。また、論理的に物事を進めたいときは、理論派タイプに見解を求める。

 私は会議などのファシリテーションをする際に、場の参加者のキャラクターをとらえ、彼らに適した役割を演じてもらうことで場を思い通りにコントロールするように心がけている。

 実は場を仕切る、とは言っても他力本願なのだ。ファシリテーターは人の適材適所を見極めるプロと言えるかもしれない。

 実際に私がファシリテーションの現場で見極めているのは、もっと細かく複雑な役回りだが、皆さんはこのように「イマジネーションタイプ」と「理論派タイプ」に大きく分類して、各キャラクターへの働きかけをするといいだろう。

場を締める「説得力タイプ」が最後のキーパーソン

 そして、もう一つ別に重要なキャラクターがいる。それは「説得力タイプ」だ。

 この種の人は、話の趣旨にかかわりなく、場における説得力を持っている。話術がとても説得力に富むのか、普段から周りの信頼が厚いのか、要因はさまざまだが、「あの人が言うのならそうだろう」と周りに思わせてしまうチカラを持つのだ。

 言葉を尽くして語っても「何を語るか」より「誰が語るか」が評価される。コミュニケーションとは得てしてそういうものである。

 説得力ある人は大いに利用したい。例えば議論の終盤、自分の意図と同じ方向の意見を説得力タイプが言ったとする。そんなときは「あの人が言うようにそれが正しいと思います」と、説得力タイプの意見がこうである、とみんなに再認識させるのだ。

 または、必ずしも自分の意見とぴったり合っていない場合でも、無理矢理説得力タイプの意見を引用してしまう。「○○さんの意見は、つまりこういうことなんだと思います。」というふうに。

 自分の都合のいいように解釈してしまって、あたかもそれが○○さんの意見のようにまとめてしまうのだ。「○○さんの意見に近いのですが、私はこう思います。」と言うよりずっと効果的だ。

 私もこの手法はよく使う。会議の結びでは、説得力のもっとも高い人の意見を部分的に引用して、「○○さんがおっしゃるように・・・」と自分の持っていきたい結論に結ぶ。そうすると、意外にみんな納得してくれる。

 場というのは、空気の共有であり、風向きに影響される。場を支配したいと思うなら、風を起こす誰かに風向きを指示してやるのが一番だ。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)、「人見知りは案外うまくいく」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。