最近「社会企業(起業家)」、あるいは「ソーシャル・アントレプレナー」が若者の間でブームだ。グラミン銀行(バングラデシュ)の創始者、ムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞し一気に注目を集めた。社会企業とは企業経営モデルを使い社会問題を解決する企業やその創始者(起業家)をいう。

■“社会革新に挑む個人”が若者に人気

 昔の学生はチェ・ゲバラなど“革命家”に憧れた。今の学生は“社会起業家”に憧れる。だが大人たちは「社会貢献で食えるはずがない」と考える。また若者の社会起業家ブームは「就職忌避のモラトリアム」「自分探しの逃げ場」「ホリエモン礼賛の反動」と見えなくもない。だが社会企業の伸長は世界的現象だ。なぜ善行を目的とした企業が成り立つのか。今回と次回は社会企業とは何か、解説したい。

 「社会企業」は日本にはなかった概念だ。英語の「social entrepreneur」の訳である。「社会起業家」と訳される場合も多い。いずれにせよ、アントレプレナーシップ、つまり企業家精神を重視する。

 米国のNPOのアショカ財団(Ashoka Foundation)は米国内外の優れた社会企業(起業家)を選抜・支援する。彼らは社会企業(起業家)を「社会の最も差し迫った社会問題に対し革新的な解決策をもつ個人」と定義する。スイスのシュワブ財団(Schwab Foundation for Social Entrepreneurship)も社会企業(起業家)を発掘・助言し連携を促す。彼らは「新しい発明や方法、あるいは既存の技術や戦略を使いこなし、組み合わせて大規模かつ体系的で持続可能な社会変化をひきおこす現実的な夢想家」だと定義する。

■「社会的意義」という付加価値を付けて消費者にアピール

 私は欧米の社会企業を5つのタイプに分類している。

  1. 「職業訓練&自立支援型」
  2. 「フェアトレード型」
  3. 「環境配慮商品提供型」
  4. 「社会投資促進型」
  5. 「オルタナティブバンク型」
である。各タイプについての解説は次回に譲るが、いずれのタイプも多くは一般消費者向けの事業であることが共通点だ。社会企業は、通常のサービス・商品に「社会的意義」という付加価値を付けて消費者にアピールする。そのことで一般の営利企業との差別化を図り営利企業として成立させているのである。(次回につづく)

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上山信一(うえやま・しんいち)

慶應義塾大学教授(大学院 政策・メディア研究科)。運輸省、マッキンゼー(共同経 営者)、ジョージタウン大学研究教授を経て現職。専門は行政経営。行政経営フォーラム代表。『だから、改革は成功する』『新・行財政構造改革工程表』ほか編著書多数。