日立ソフトウェアエンジニアリング
セキュリティサービス本部
本部長
中村 輝雄

いよいよ適用期へと移行した仮想化技術。この仮想化技術が,コスト削減圧力,構築の難易度向上,人材育成など,悩みの尽きないシステム開発現場の「救世主」になりそうだ。1回目は開発者を取り巻く経営環境と,コスト削減効果の実際について解説する。(ITpro)



 システム構築をスムーズに進めるためには,充実した開発環境は必須――。こんなことは開発者なら,誰しもが分かっていることです。だからといって,開発チームにふさわしい開発環境が提供されているとは言い難いのが現状です。

 お客様(ユーザー企業)のシステムを実現するのに特殊なハードやソフトが必要であれば,開発環境を用意するコストをお客様にご負担して頂くことが可能かもしれません。ただ,一般的なハードやソフトを使うのであれば,お客様にご負担して頂くのは難しいと思います。ほかのプロジェクトにも利用できるわけですから。

 こうした開発環境の費用負担は,大きな問題を抱えています。お客様であれ会社であれ,開発が終了すれば,その費用を負担できないのです。それは,経営者の立場から言えば,次の四つのポイントにまとめることができます。筆者は,それを「経営者の4M」と名付けています。

「4M」その1:また買うのか?

 経営陣,特にユーザー企業の経営陣は,必ずしもITの先端に詳しいわけではありません。当たり前のことですが,経営陣に「最新の開発環境があるからこそ,いいシステムが作れるのだ」という開発現場の気持ちを汲み取ってくれと言っても,それは難しいはずです。

 「この前買ったばかりではないか」,「この前買った開発環境で十分ではないのか」,「どうして以前使った開発環境が流用できないのか」。経営陣は開発現場から新しい開発環境を構築したいという申請を受けると,こういった疑問が浮かび上がるのが通例です。特に財布をまかされている経理担当役員からすれば当たり前のことでしょう。

 開発者サイドの方ばかり持つわけではありませんが,そうした経営陣の「ツッコミ」は,開発現場の意識の低下を招きます。「どうせ申請したって,またいろいろ文句を言われるのだろう」とネガティブな気持ちになります。そうして,本来,新しい開発環境を購入した方がはるかに効率的に進められる案件が出てきても,その申請について二の足を踏むことになります。

「4M」その2:無償にならないのか?

 実は,経営陣の投資判断を鈍らせているのは,利用するソフトのライセンス料金の複雑さにあります。経営者にとっての理解は,「一式のコンピュータ・システムにデータベースは一つのはず」です。

 しかしデータベース・ソフトのライセンス体系を見ると,CPUの数に応じて追加ライセンス料が発生します。クラスタ構成にすると専用ミドルウエアの使用料金もかかったりします。さらに,本番環境でライセンス料を払うのに加えて,開発環境用のライセンスまで必要であるという点も,“スポンサー”である経営陣にとっては頭の痛い話です。

 ITに詳しくない経営陣でも,ライセンス料金が必要ないオープンソース・ソフトウエアの存在はご存じです。ですから「オープンソースは使えないのか」と現場に指示する方もいらっしゃいます。ただ現場サイドからすれば,ミッション・クリティカルなシステムではベンダーの手厚い保証が確保されたデータベース・ソフトを使いたいのです。このような経営陣と開発現場との格闘が,開発現場を預かるリーダーにとって,悩みの種になっています。

「4M」その3:もったいないなあ

 経営陣も,まさか開発を失敗させるわけにはいかないということくらい重々承知しています。ですから,カネを払うべきものについてはきちんと払うべきと考えています。ただ,経営陣の心の隅に残るのは「買った後の不安」です。

 その不安とは,例えばこういったものです。「開発現場の意見を聞き入れてカネを出したのはいいが,新しい開発環境は,ほかの案件でも使えるのか」。「ハードの拡張やミドルウエアのバージョンアップでまた開発環境にカネが必要になるのではないか」といったものです。

 当然,毎年開発環境についても保守契約も払う必要があります。レンタルという選択肢もありますが,ハードはレンタルできてもミドルウエアはレンタルできません。

「4M」その4:儲かるのか?

 経営陣は,数字ですべてを評価される厳しい立場にいます。経営陣の考え方の基本は,「必要なものなら買ってもいいが,業績の数字に影響を与えられると困る」ということです。

 一般的に,開発環境はサーバーやミドルウエアのように資産計上する必要がある,高価なものが含まれます。経営陣にとってはこの資産計上が頭を悩ませる問題です。

 その年度の業績がある程度見通せたタイミングであれば,開発環境を買って資産計上しても,その年度の業績には影響しないと判断できるので,安心です。ただ,来年度,再来年度の減価償却費が膨らみます。いわゆる本番環境は実ビジネスで回収すればいいのですが,開発環境の減価償却費は全社の一般費で負担します。ですから経営上はそれを低く抑えたいと考えるのが自然です。つまり,開発でしか使わない開発環境のコストはできるだけ抑える方針になるわけです。

 資産計上の問題は,企業規模が小さいSIベンダーではますます深刻になります。大手SIベンダーは開発環境を複数の部署で流用すればかなり資産としてのリスクを軽減できます。しかし,中小のSI会社では,ある特定のお客様やプロジェクト以外では当面適用できるプロジェクトがない場合,資産計上の問題で開発環境を自前で持つことはできません。後述しますが,これはエンジニアの育成に大きな影響を与えます。

仮想化技術で開発・テストサーバーを集約

 当社日立ソフトは1年ほど前,開発環境の費用をどう削減できるかを検討。そして2006年6月からPCサーバー向け仮想化ソフト「VMware」を使って,開発用サーバーの集約を進めてきました。まずは,その背景を含めご紹介します。

 日立ソフトは2007年2月現在,5200人の社員がいます。社内のエンジニアと外部の協力会社のエンジニアを合わせると約1万1000人になります。この人数で日々のプロジェクトをこなしています。開発用サーバーの台数は1600。UNIXサーバーや特殊用途のサーバー,さらにプロジェクト管理用のサーバーなどを除くと,約1000台のPCサーバーにVMwareが適用できるわけですが,当面は約200台のサーバーを集約の対象にしています。

 これらの開発サーバーを集約するために,まず日立ソフトのデータセンターにPCサーバーを10台(本稿ではこれを集約サーバーと呼びます)を設置し,VMwareのデータセンター向けスイート製品である「VMware Infrastructure 3」を導入しました。ストレージには日立製作所の「SANRISE」を使用。集約サーバー10台との接続インタフェースにはSANを採用しています。これらの構成で,全体のパフォーマンスを監視しながら,当面200サーバーの集約を計画しています。

 この仮想化技術を適用した開発環境を当社では「開発サーバホスティングサービス」と呼んでいます。2006年12月の時点で,すでに累計50以上のプロジェクトが利用してきました。

■変更履歴
小見出しの「「4M」その2:無償にならないのか?」以下にある文章(2段落分)が誤解を招きやすい表現だったため,一部削除したうえで修正を加えました。 [2007/03/26 11:50]