■登場人物から,ちょっとごあいさつ

ホラムズ:堀田 高章(ほった たかあき)
かれこれ30年,様々な技術の浮き沈みを見てきたフリー・プログラマだ。今日は,知り合いのプロジェクト・マネージャから相談があると言われ,行きつけの喫茶店で待ち合わせているのだが…。

ケイスケ:渋谷 敬助(しぶや けいすけ)
ソフトハウスで開発プロジェクトに所属するWebデザイナーです。専門学校を出たばかりで,まだ若くて経験は少ないですけど,やる気と理想は誰にも負けないつもりです!


前回までのあらすじ
 ケイスケの語る激白の数々。様々な出来事を通じて,Webデザイナーのケイスケは技術者たちに虐げられてきたというのだ。しかし,静かに彼の証言を聞いていたホラムズの目が輝いた。ここからがホラムズの推理の本領発揮となるか?

証言を解析せよ!

ホラムズ:ここからは,証言内容の検討だ。まず,「サーバー締め出し事件」について取り上げよう。サーバーの設定ミスが原因なのに,無実のMacintoshのせいにされたという事件だったね?

ケイスケ:はい,そうです。Windowsを使わないのが悪いと言われました。

ホラムズ:では,確認していこう。ケイスケ君にそれを言ったのは具体的にどのような人物かね?

ケイスケ:僕はメガネ君って心の中で呼んでますけど,神経質そうな技術者の人です。けっこうキャリアは長くて,プロジェクトでも一目置かれる優秀な人らしいです。

ホラムズ:優秀ということは,そのメガネ君の仕事はプロジェクトのサーバー管理だけではないね?

ケイスケ:ええ,コーディングもバリバリやってます。サーバー管理は,チームで余裕のあるベテランの技術者が複数でやってるみたいですね。

ホラムズ:なるほど。ということは,そのメガネ君の立場からすれば,サーバー管理とは本来の仕事に割り込む面倒な作業ということになるね。可能なら,できるだけ手間は使いたくないわけだ。

ケイスケ:それはそうですが,サーバーの設定を間違えるのは論外ですよ。最低限の仕事をやってないわけですから。

ホラムズ:君はそう考えているが,メガネ君のほうはどう認識しているのだろう。

ケイスケ:どうって?

ホラムズ:そのプロジェクトで使用するパソコンは,すべてWindowsパソコンに統一すると決められているわけだろう? 彼の仕事は,すべてWindowsパソコンからサーバーを利用可能にすることであって,Macintoshは仕事の範囲外と思っている…ということはあり得ないだろうか?

ケイスケ:待ってくださいよ。ここで問題なのは,Macじゃなくて,サーバーの設定ミスですよ!

ホラムズ:サーバーというのは,使えなければ苦情がすぐに来るものだ。逆に,設定が少しぐらい間違っていても,実用上問題なく使うことができれば正常とされることも多いよ。

ケイスケ:でも,僕は使えなかったんです。

ホラムズ:しかし,メガネ君から見れば,最初にすべてのパソコンをWindowsにするとした決定に従わないケイスケ君が悪者に見えるかもしれないね。

ケイスケ:そんなぁ。じゃあ,僕が悪いっていうんですか?

ホラムズ:誰が悪いという議論の前に,この話にはおかしな歪みがあることに気づかないかね?

ケイスケ:え,歪み…ですか?

ホラムズ:技術者とデザイナーの間を引き裂く,誰かが残したトリックの痕跡と言っても良いね。

ケイスケ:ええっ,なんですか,それは!

ホラムズ:いいかね。WindowsパソコンはWindowsサーバーに接続可能として作られている。同様に,MacintoshはWindowsサーバーに接続可能として作られている。それなのに,どうして片方が接続できて,もう片方は接続できないという事態が起こるのだろう。

ケイスケ:あっ…。

ホラムズ:この事件の根本的な原因は,この歪みにあると言えないだろうか? 歪みを放置したために,ケイスケ君とメガネ君の言葉は実はすれ違っているとは言えないだろうか?

ケイスケ:その歪みの正体って…。

ホラムズ:その前に,もう一つの事例についても検証してみよう。技術者は毎日のようにプログラムを修正しているのに,フォームの改良を入れようとしたら拒否された話だったね。

ケイスケ:はい。その「フォーム修正拒否事件」です。

ホラムズ:ここで,プログラムの修正もフォームも修正も,本質的に何ら変わるものではないとしよう。どちらも,システムそのものの修正だ。どちらも平等だ。

ケイスケ:そう,そうです。同じことなのに,扱いが違うというのは差別ですよ。

ホラムズ:しかし技術者には,受け入れられる修正と受け入れられない修正があるということを知っているかね?

ケイスケ:デザイナーからの修正要求は受け入れられないという意味ですか?

ホラムズ:いや,誰からの要求かに関係なく,受け入れられない修正というものが存在するのだ。

ケイスケ:それはいったい何ですか?

ホラムズ:正常に動作しているシステムに対する修正だ。

ケイスケ:意味がわかりませんけど…。

ホラムズ:プログラムを1文字であろうと書き換えることは,非常に大きなリスクが伴う。それゆえに,誰からの要求であろうと,どのような変更であろうと,システムの修正要求はすべてハイリスクなのだよ。

ケイスケ:でも,技術者は毎日のよにプログラムを書き換えていますよ。

ホラムズ:おそらくそれは,まだ実現されていない機能の作成と,バグ取りのための修正だろう。それらは,実行しないことには仕事が完了しないので,たとえハイリスクでも実行しなければならない。しかし,すでに要件を満たして動作しているプログラムをちょっと改良するような行為は本能的に避けようとするだろう。

ケイスケ:えっと。それじゃ,フォームをよりきれいに見せる修正は…。

ホラムズ:すでに要件を満たしたフォームがあるのに,それを差し替えるというのは,本能的に避けようとする行為だろうね。プログラム側に修正の影響が出そうだし。

ケイスケ:それじゃ,修正はみな同じと思い込んだ僕の無知が原因だったということですか? 悪いのは僕ですか? でも,そんなことは学校でも習いませんでしたよ。

ホラムズ:落ち着きたまえ。これは君を責める話ではない。ここには君を誤解に導くトリックが仕組まれていた可能性がある。筋の通らない歪みと言ってもいいね。

ケイスケ:ここにも歪み?

ホラムズ:たった1文字の書き換えも避けるというのは極端すぎると思わないかね? なぜたった1文字がハイリスクなのだろう。明らかに常識に反していると思わないかね? 1文字と言わずフォームの一つぐらい修正を通せると思うのが普通ではないかね?

ケイスケ:そう。その通りです。ねえホラムズさん,そろそろ教えてくださいよ。真犯人“歪み”の正体はいったい何者なんですか?

ホラムズ:では,真犯人を隠れ場所から引きずり出すことにしよう。

第4話につづく…

次回予告

・ホラムズは真犯人をもう突き止めたのか?
・そのような出来事を引き起こせる「誰か」が本当に存在するのだろうか?
・それとも,それは人間ではないのだろうか?

推理せよ!ホラムズ。真相を突き止めよ!

この作品はフィクションであり,登場する人物,パソコン,ソフトウエア,事件などはすべて架空のものです。作中で発生したとされるトラブルも,すべて架空のものです。

川俣 晶(かわまた あきら)
1964年4月生まれの東京出身。東京農工大化学工学科を卒業後,マイクロソフトでMicrosoft Windows 2.1~3.0の日本語化に従事。現在は現在はピーデー代表取締役。日本XMLユーザーグループ代表。Microsoft Most Valuable Professional(MVP)。