2007年1月30日,「Windows Vista」がいよいよ姿を見せた。Windows XPの登場から約5年。パソコン用のOSとして圧倒的なシェアを持つWindowsの最新版ということで,多くの読者が注目しているだろう。

 この春以降に登場するパソコンのOSは,基本的にWindows Vistaになる。Windows XPが登場したときの状況と照らし合わせても,今後1~2年のうちに家庭で使われるパソコンの主流はVistaになるだろう。家庭よりは遅れるものの,やはり企業でもネットワークに次々とVistaパソコンが参加してくることは確実だ。

 読者の中には,Vistaの騒ぎを冷めた目で見ている人もいるだろう。「私はサーバーを管理しているLinuxユーザーだから関係ない」という人もいるかもしれない。でも,それは間違いだ。これから通信相手としてVista対応のクライアントがたくさんつながるようになってくる。そうすると,ほかのOSも必然的にネットワーク関連の設定変更が迫られる可能性があるのだ。

TCP/IPやWindowsネットが変わる

 例えばVistaでは,TCP通信時の「受信ウインドウ・サイズ」が最大16Mバイトまで利用できるように拡張されている。従来は,標準で定めている64Kバイトを基本的な上限としていたのでその差は大きい。通信相手の大半がVistaになったら,サーバー側もそれに合わせてTCP/IPの設定を変えないと「あのサーバーだけスループットが遅い」ということになりかねない。

 また,VistaにはIPv4の後継バージョンであるIPv6が標準で組み込まれている。これも大きな変化だ。すでに数年前から標準で動くようにしているOSはあったが,やはりWindowsで標準機能として動くインパクトは桁違いだ。これを機に,IPv6導入の機運が一気に高まる可能性もあるだろう。

 そのほか,Windowsネットやセキュリティでも新しい機能や改善点が目白押しだ(図1)。すぐに導入するかどうかはさておき,こうしたVistaのネットワーク機能の特徴を早めに押さえておいて損はない。

図1●Windows Vista導入に備えてVistaのネットワークまわりの知識を押さえておこう
図1●Windows Vista導入に備えてVistaのネットワークまわりの知識を押さえておこう
約5年ぶりの新Windowsで,ネットワーク関連だけでも実に多くの新機能や改良点がある。いざ導入というときに慌てないよう,今のうちに基本的な知識を習得しておこう。

 Vistaというと,デスクトップ表示の3D化やサイド・バーといった画面まわりがとかく注目されがち。一般の報道もそちらがメインだ。しかし,本特集ではあえて日経NETWORK読者向けに,「Vistaでネットワークはどう変わるのか」という一点に着目する。

 具体的には,(1)LAN,TCP/IP,(2)Windowsネット,(3)セキュリティ──という三つの分野にフォーカスした。この三つについて順に,新機能や改善点,利用に当たって気をつけるべき点などを見ていこう。

次世代のIPv6が標準で動く
ネット構成図も自動で生成

 まずはネットワークの土台を支えるLAN接続とTCP/IPから見ていこう。従来のWindows XPと比べて,Vistaではいったい何が変わるのだろうか。

インストール時点でIPv6が標準動作

 今や世界中のパソコンはIP(internet protocol)を使って通信している。Vistaでは,その基幹プロトコルであるIPが大きく変わる。現在主流のIPv4だけでなく,IPv6が標準でインストールされて最初から動くのだ(図1-1)。

図1-1●VistaではIPv6が標準で動いている
図1-1●VistaではIPv6が標準で動いている
Windows XPでもIPv6は利用できたが,コマンドを使って追加インストールしなければならず敷居が高かった。一方,VistaではIPv4と同じプログラムとしてIPv6が組み込まれている。IPv4とIPv6は完全に対等で,IPv4を使わずにIPv6だけでネットワークを構築することも可能だ。
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 Windows XPでもIPv6は使えたが,あくまでオプション扱い。利用するには別途コマンド・プロンプトからインストールする必要がある。さらに,設定なども含めて操作はすべてコマンド・ベース。とても一般ユーザーが気軽に使えるものとは言い難かった。

 これに対しVistaでは,IPv6がIPv4と完全に対等な存在として扱われている。同様のGUIで設定が可能になり,プロトコル・スタックのレベルでも「tcpip.sys」という一つのプログラムに統合されている。

 pingをはじめとするネットワーク・コマンドも,IPv4/IPv6両用に作り直されている。例えば,通信状況を調べるnetstatコマンドを実行すると,IPv4とIPv6の通信状況がまとめて表示される。従来のコマンドを見慣れた目からはかなり新鮮だ。Vistaは,IPv6に“完全”対応していると言っていいだろう。

不要なら当面は止めてしまう手も

 圧倒的なシェアを持つWindowsで,IPv6が標準になったインパクトは計り知れない。いつの間にか「多くのユーザーがIPv6インターネットにアクセスしている」という状況になったとしても不思議ではない。

 ただし,今のところはVistaユーザーにとってIPv6はほとんど無用だろう。それどころか迷惑になる可能性すらある。Vista起動直後のパケットをキャプチャしてみると,実にたくさんのIPv6パケットを発していることがわかる。このため,既存のIPv4ネットワークにVistaを参加させるだけなら,思い切ってVistaのIPv6を止めてしまうという選択肢もありえる

3種類の方法でLAN内の情報を収集

 IPv6と並んで多くのユーザーが目新しさを感じるのが「ネットワーク・マップ」機能だろう(図1-2)。Vistaでは,自分が参加しているLANの中を探索して,稼働中のネットワーク機器の構成図を自動的に描いてくれるのだ

図1-2●LAN内の機器を自動探索して構成図を描く「ネットワーク・マップ」機能が加わった
図1-2●LAN内の機器を自動探索して構成図を描く「ネットワーク・マップ」機能が加わった
Vistaが標準で備えるLLTD(link layer topology discovery),家電機器やプリンタなどでも使われる標準プロトコルのUPnP(universal plug and play)とWSD(web services on devices)に対応した機器がLAN内にあると,自動で見つけ出してネットワーク構成図を描いてくれる。
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 従来のWindowsでも,LAN内にあるパソコンを一覧表示できた。だが,ここで表示されるのは,あくまでWindowsネットワークのパソコンだけ。Vistaのネットワーク・マップでは,パソコンやルーター/スイッチといったネットワーク機器はもちろん,ゲーム機や家電まで含めたさまざまな機器を一緒に表示する。

 このネットワーク・マップ機能を実現するために,VistaではLLTD,UPnP(SSDP),WSDというプロトコルを使う。LLTDはMACフレームを送信してネットワーク上の機器を探すプロトコルである。UPnPとWSDはIPパケットを送信して機器を探すプロトコルで,合わせて「PnP-X」と呼ぶ。Vistaでは,これら三つのプロトコルを使ってLAN内から必要な情報をかき集めてマップを作成しているのだ。

 使ってみると,このネットワーク・マップは実に便利。機器の名前だけでなく,MACアドレスやIPアドレス,機器の種類を接続状態と一緒に表示してくれる。自分が接続しているネットワークがどういう構成で,機器の設定はどうなっているのか,簡単に把握できる。

 さらに,ここからクリックするだけで,それぞれの機器にアクセスできる。従来のように相手のIPアドレスを事前に調べておく必要はない。