岩城:これまで、4回にわたって、企業サイトのプロデュースについてお話ししてきました。企業サイトは社内の方が企画・制作に関わっている場合が多く、特に思い入れを持って作っている大事なサイトですから、できるだけ多くの人たちに訪問していただきたいと思うのが人情でしょう。そして、その誘導に役立つのが、インターネット広告です。そこで、今回のパートナーはADKインタラクティブの太駄さんです。

 太駄さん、こんにちは。太駄さんは広告会社でオンライン戦略を立案する立場にいらっしゃるわけですが、インターネット広告の現状について少し教えていただけますか。

太駄
太駄氏

太駄:電通「日本の広告費」によると、インターネット広告費は1996年にはわずか16億円でしたが、2005年には2,808億円にまで成長しました。2006年の統計はまだ発表されていませんが、野村総研は3,554億円と推計しています。

 2004年にラジオ広告費を抜いて、2007年には雑誌広告を抜くでしょう。インターネット広告はアメリカでも好調で、2006年には前年を30%上回って164億ドルになったと推測されています。

岩城:他媒体が伸び悩んでいる中で、インターネット広告が急成長を遂げている理由はなんだと思いますか?

太駄:消費者にとってインターネットが欠かせないメディアになったからです。消費者に欠かせないということは、広告キャンペーンにも欠かせないということです。また、マスメディアよりも広告のターゲットを細かくセグメントできることや、広告への反応を把握しやすいことも評価されています。検索連動型広告やアフィリエイトは、小規模な予算でも効率的に活用できる広告手法として人気があります。

岩城:今までの広告にない多様な特徴がインターネット広告をここまで成長させたわけですね。しかし、さすがのインターネット広告もここに来て少し伸びが鈍ってきていますが、その理由は何だと思われますか?

太駄:インターネット広告は急速かつ複雑に進化しているので、出稿計画の立案が難しくなっていると思います。まず、ブランディングからダイレクトレスポンスまで多様な目的に対応できるインターネットを、他メディアを含むメディア戦略においていかに位置付けるか。その位置付けにおいて十分なパフォーマンスを発揮させるために、各種広告メニューをいかに組み合わせるか。

 これらについて確立されたプランニング手法や評価手法はありません。インターネット広告によるブランディングを提案しても、結局はクリック単価の割安なメニューのみを選択されてしまうことがあります。広告会社やメディアは、出稿計画の良し悪しを判断してもらうための材料を十分には提示できていないと思います。

岩城:そういえば、(社)日本広告主協会のWeb広告研究会が広告主に向けて実施した調査でも、インターネット広告が使いにくい理由は、評価基準とメディアミックスの手法の未発達でした。

 いずれも、インターネット広告そのものの問題というよりは、広告主から見たときの使い勝手の良さ、広告のユーザビリティのようなものがハードルを高くしているのかな、と思う事がありますが、その点についてはどう思われますか?

太駄:おっしゃるとおりです。マスメディアへの広告出稿に慣れている広告主の多くは、は、リーチ(広告到達率)とフリークエンシー(広告到達頻度)で出稿計画を管理しています。したがって、インターネット広告の出稿計画についてもリーチとフリークエンシーを教えてほしいと依頼されることがあります。

 しかし、インターネット広告はクリック数を予測できても、リーチやフリークエンシーを算出することは困難です。マスメディアとインターネットで広告管理指標が異なることは、メディアミックスを促進するうえで障害になることがあります。

岩城:そうですね。既存広告に対するのと同じようなスタンスでインターネット広告を扱うと無理が出てくるということですね。この点については広告会社、ネット媒体にもう少し広告主が使いやすくなるような環境整備をお願いしたいと思います。

 一方で、インターネットを含むメディアミックスの手法の未発達については、従来のマス媒体と異なり、企業サイトという広告主の「自社媒体」との関係を考慮に入れなければならない点に広告会社が難しさを感じるのではないかと思います。これについて広告会社のお立場からはどのように考えますか。

太駄:はい。ネットレイティングスによると、月間100万人以上が訪問するサイトを抱えている広告主が増加しているそうです。広告主自身がメディアを手に入れたといえるでしょう。そうなると、広告主サイトへ誘導するメディア施策より、誘導した先でのコミュニケーション・コンテンツの企画が大切になってきます。広告会社は、メディアの売買でビジネスをしてきたわけですが、それだけでは相手にされなくなるでしょうね。

岩城:TVを例に取れば、番組は番組、広告は広告というビジネススキームの中で広告会社は広告枠を売買してきたわけですが、インターネット広告のように広告と企業サイトがシームレスに繋がる時代を迎えて今までのビジネスモデルに変化が起きるのでしょうね。

 これまでは、インターネット広告の環境面について論じてきましたが、ここからはインターネット広告そのものについてのお話を伺いたいと思います。

 これまで、インターネット広告は、クリックなどの既存の広告には無い機能を売り物にしてきましたが、最近はマス化によって、既存広告と遜色がないリーチを得られる商品もあります。

 つまり、インターネット広告はすでに特別なものではなく、従来の広告と同じ土俵で論じる事ができるものになったと思うのですが、その点はいかがですか?

太駄:おっしゃるとおり、何百万人にも到達する広告商品は少なくありません。マスメディアと同じ土俵で論じるべきでしょうし、その傾向にあると思います。広告主の組織や予算も、インターネットを差別しない方向にシフトしつつあります。広告会社は、この変化を危機ととらえるのかチャンスととらえるのか。問題はそこですね(笑)。

岩城:そのように既存メディアと肩を並べる一方で、大きな特徴であるターゲティング機能なども洗練されてきて、インターネット広告ならではの特徴も増大してきました。検索連動型広告などもインターネット広告ならではの広告だと思いますが、そのようなインターネット広告の新しい拡がりについてはどのようにお考えですか?

太駄:特に注目しているのは行動ターゲティングです。過去のオンラインの行動履歴に応じて適切な広告を配信する手法です。アマゾンでは購買履歴や閲覧履歴に応じて商品を推奨してきますが、あの技術を広告に応用したようなものです。

岩城:行動ターゲティング広告は確かに注目される広告だと思います。しかし、広告主が効果という側面から見た場合に今ひとつ分かりにくいところがあります。その点についてもう少し詳しくお話願えますか。

太駄:行動ターゲティング広告は、広告主、媒体社、消費者にとって利点のある広告手法です。広告主にとっての利点は、顧客になる見込みのない消費者に広告を露出してしまう無駄を回避できることです。

 例えば自動車メーカーなら、過去x日以内にy回以上自動車関連コンテンツを閲覧したか、自動車関連の検索を行なった消費者にのみ広告を配信することができます。また、媒体社にとっての利点とは、売れ残りがちな広告在庫(トップページや人気カテゴリーでない広告枠)も値引きすることなく、むしろ付加価値を付けて高く売れることです。消費者にとっての利点とは、関心のない広告に接触しなくてすむことです。

 行動ターゲティング広告以外にも、新しい技術や表現は次々と生まれています。それらについていくのは大変ですが、テレビや新聞にはない興奮があります。

岩城:インターネット広告はこれからもっと面白くなるわけですね! インターネット広告は企業サイトの思うところにユーザーを誘導できる強力な武器ですから、企業サイトの戦略的な活用に際しては、常に念頭に置いておきたいものだと思います。

 さらに新しい技術や表現が生まれているとの事ですが、それらについては別な機会にお願いしたいと思います。

太駄さん、ありがとうございました。

太駄 健司 (おおたけんじ)
1998年、株式会社旭通信社(現在のアサツーディ・ケイ)に入社。マーケティング部門、インターネットメディア部門(メディアレップへ出向)、クロスメディア部門を経て、2006年7月よりADKインタラクティブ。オンライン戦略立案を担当。