このところEnterprise2.0というキーワードが飛び交っている。急速に発展しているWeb関連の最新技術を、企業内システムの世界にも適用して、業務に革新を起させようというこのコンセプトは、時流に乗ってかなり浸透してきた。

 Enterprise2.0の定義は今のところまちまちである。ITproでは、以下の4つをEnterprise2.0の特徴として捉えているようだ(関連記事)。

1)従来見えにくかった情報の可視化
2)基幹系と情報系の統合
3)Web2.0的思想と技術を取り入れる
4)使いやすく参加しやすい仕組み

 一般にEnterprise2.0というとブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、あるいはエンタープライズサーチなどを代表的なアプリケーションだと認識している人が多いが、ITproの定義を見ればわかるようにEnterprise2.0はもっと広範囲で深遠なものである。

注目集まるスタートページ

 例えば最近、Web2.0関連技術として注目されているアプリケーションに、「スタートページ(StartPages)」というサービス/技術がある。これはネット上の各サービスや別のページに散らばったユーザの必要なコンテンツをまとめて、一つの画面から利用できるようにするサービスである。GoogleのパーソナルホームページやMicrosoftのWindowsLiveを想像してもらうと分かりやすいかもしれない。

 ブログの普及も相まって、インターネット上の情報量は爆発的に増えている。スタートページは、この情報洪水の渦を乗り切るために考え出されたものだ。スタートペーは様々な情報サイトから提供されるRSSのFeeds情報をあつめて一つの画面に集約して表示する。ニュースや天気予報といったポータルサイトが提供するコンテンツに加え、メールやスケジュールといったPIM(個人情報管理)的情報も同じ画面に並べて表示することができる。

 米アマゾン・ドット・コムをはじめとした先進企業の成功を範として、WebサービスのAPIを公開するサイトが増えている。こうしたWebサービスを活用すれば、書籍検索や地図検索などもまとめてスタートページからアクセスすることがことが可能になる。

 現時点でこの分野の勝ち組になると目されているのは、フランスのNetvibesというベンチャーである。ほかにもProtopage、Pageflakes、Webwagといったプレイヤーが日々、覇権を争っている。

 最近、このスタートページ(StartPages)をイントラネット内で適用しようという動きが、先進的な企業で広まり始めた。イントラネットに散らばる各部門のホームページやイントラブログの更新情報とともに、ECM(Enterprise Contents Management System)上に発信される本社からの通達や連絡も併せて掲載。これをグループウエア上の未読メールや今日のスケジュールと並べて表示するのだ。日々の伝票処理や交通費計算についても、Webサービスの仕組みを使ってスタートページのwidgetで、入力処理や決裁処理をしようというコンセプトである。

EIPの進化系と考えることも可能

 勘の良い読者は、ここまで読んで「これって今まで企業情報ポータル(EIP)と呼ばれていたソリューションと同じじゃない?」のお考えかもしれない。確かに基本的には同じである。

 しかしいくつか異なる点もある。以下この企業内スタートページ(BusinessStartPages)が、従来のEIPと異なる点を、ITproが定義するEnterprise2.0の特徴と照らし合わせて考えていきたい。

 まず一番目の「従来見えにくかった情報の可視化」についてである。従来のEIPが主に社内の情報、それもグループウエア上にある情報を中心に扱っていたのに対して、BSPでは社外のニュースや競合企業の動きなどまでもRSSを使って集約し表示することができる。

 次の「基幹系と情報系の統合」についてだが、BSPではWebサービス化した基幹業務を統合する。そもそもシステムを基幹系情報系と分類したのは情報システム部門の勝手な都合であり、ユーザーは業務を遂行する上ではこうした分類に捉われず自分の必要な処理を実行したい。BSPは個別のユーザニーズに即して、基幹系のコンテンツも情報系のコンテンツも提供する。これに対して、EIPで扱えた業務処理は、グループウエア上に実装したワークフローくらいだった。

 三番目の「Web2.0的思想と技術を取り入れる」についてはどうか。EIPでは、基本的に掲載するコンテンツは社内に別途構築したシステムで管理する必要があった。しかし現在では、すでに乗り換え案内など業務に役立つ便利なサービスがネット上にあふれている。BSPでは、Webサービス技術を使い外部のサービスをマッシュアップして利用することが可能だ。

 最後に「使いやすく参加しやすい仕組み」という点に関してである。一般にBSPはAjaxといった非同期通信技術等を駆使して構築される。これによって、画面遷移を伴なわないコンテンツの切り替えやマウスによる直感的な操作を実装することができる。主にHTMLで記述されていたEIPよりも格段に直感的な操作が可能で、使って見たくなるシステムとなる。

 いかがだろうか。EIPから企業内スタートページ(BusinessStartPages)へ。イントラネットの世界にも、インターネットに若干遅れてWeb2.0の波が訪れつつある。

吉川 日出行氏 みずほ情報総研コンサルティング部シニアマネージャー 技術士(情報工学部門)
情報共有や情報活用を主テーマに企業内情報システムに関するコンサルティングを展開中。ITmediaオルタナティブブロガーTOP30としてもブログ執筆中。