時代の変化に柔軟に対応し、新たな価値を生み出そうとする企業は、社外の情報を含め、これまで埋もれていた情報を活用できるシステムを求める。その構築にあたっては「Web2.0」と総称されるインターネット技術が不可欠だ。米デルとカシオ計算機の取り組みから、企業システムとWeb2.0が融合する構図を探る。
日経コンピュータ2006年4月3日号の記事を原則としてそのまま掲載しています。執筆時の情報に基づいており現在は状況が若干変わっていますが、SaaSやEnterprise2.0の動向に興味のある方に有益な情報であることは変わりません。最新状況は本サイトで更新していく予定です。 |
オペレーション・ルームに、アナウンスが響く。「レッド・アラートです。お客様IDは○○…」。スクリーンに大写しになっていた日本列島の衛星写真画像が拡大し、町並みが見えてきた。
スクリーン内には赤い丸印が点滅している。担当者がカーソルを合わせると、社名や顧客ID、住所、製品名などが表示された。「住所は東京都港区○○です。急行してください」、「了解。30分で到着予定です」。マイクの向こうから、保守サービス担当者が答えた。
ここは神奈川県川崎市にある、デル日本法人の企業向け保守サービス監視施設「エンタープライズ コマンド センター(ECC)」だ。デル製サーバーやストレージの障害発生状況の監視、保守技術者や部品の手配、保守サービスの実施状況監視などを担う。「製品導入後の保守サービスは、顧客満足度を左右する極めて大きな要素。ECCは顧客と直に接する最前線だ」(眞砂良明カスタマーサービス本部エンタープライズ コマンド センター所長)。
システム開発費を5分の1に
米デルは2005年11月、ECCの監視システムを全面刷新した。米国、アイルランド、中国、マレーシア、そして日本と、世界5カ所にあるECCから、同じ監視システムを利用できる。この監視システムの開発にあたって、デルは米グーグルの力を借りた。障害の発生状況や保守サービス拠点を地図に表示する機能に、グーグルが提供する衛星画像の検索サービス「Google Earth」を利用したのである。
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図●Google Earthを使った監視システム [画像のクリックで拡大表示] |
ECCの監視システムのプログラムから、グーグルが公開している「WebサービスAPI」を使って、グーグルが持つGoogle Earthサーバーにアクセスし、衛星画像データを監視システムに取り込む。監視システムの画面に衛星画像を表示する時、社名、住所、製品の型番、保守履歴といった顧客情報や、デルの保守サービス拠点の情報を、衛星画像上に重ね合わせて表示する。この場合、デルが持つ顧客データベースなどから抽出した情報を、Google EarthのAPIを使って衛星画像上の吹き出しに挿入するだけでよい。Web上のサービスを組み合わせる「マッシュアップ」と呼ぶ方法である。
デルがGoogle Earthを利用した理由は、世界統一の衛星画像データを使って、低コストかつ短期間で監視システムを構築するためだ。以前の監視システムを稼働させた時は、デルの各国現地法人が、各国で地図サービス業者から個別に地図データを購入し、ECCの監視システムに組み込んでいた。当然、国ごとにデータの詳しさが違うし、表示できる範囲も限られていた。「地図データ購入に多額の費用がかかる上に、各国のECCが別々に地図データを管理していたため、運用コストの面でもムダがあった」(眞砂所長)。
Google Earthを使った監視システムの開発・運用コストは、「大まかに言って前システムの5分の1程度」(眞砂所長)。デルはGoogle Earthの商業利用ライセンスを購入しており、利用料金はクライアント1台当たり年400米ドル。「基幹業務に使っていることを考えると、タダ同然。本当にいい時代になった」(眞砂所長)。
今後は、衛星写真に加え、地名や住所を表示できる地図データを、監視システムに組み込む考えだ。利用する地図サービスは選定中だが、グーグルが提供している「Google Maps」を選ぶ可能性が高い。「選択の基準は、高品質な地図サービスであり、全世界で同一の地図データを利用できること。となれば、自ずと選択肢は限られる」(眞砂所長)。
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