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日経マーケット・アクセス

SIMロックや販売奨励金の廃止は日本の端末メーカーにトドメを刺す?

2007/03/13
中村 健=日経マーケット・アクセス編集委員

 国内の携帯電話サービスのビジネス・モデルで,SIMロックや販売奨励金に対する議論が活発になってきているが,その中で筆者は気になっていることがある。SIMロック解除や販売奨励金廃止の目的の一つとして,世界市場でシェア低下の著しい日本の携帯電話機メーカーの競争力を付けることが挙げられている。しかし,SIMロック解除や販売奨励金廃止は,やり方によっては逆に日本の携帯電話機メーカーに止めを刺すことになるのではないかと筆者は危惧している。

 筆者は,IT・エレクトロニクス関係の市場調査データを提供する『日経マーケット・アクセス』というWeb媒体で,半導体や液晶パネルといった電子部品の生産動向から,その応用製品の生産動向を見てきた。電子部品の売り先は世界市場で,日本市場はほんの一部にすぎない。

2000年まではシェア20%を誇った日本の携帯電話機メーカー

 時計の針を2000年にまで戻すと,このころは通信バブルのピークで世界の携帯電話機の生産台数も2000年までは対前年比50%増以上という驚異的な成長を続け,2000年には4億台を超えた。そしてこのころまでは日本の携帯電話機メーカーのシェアを合計すると,世界で20%以上あった。

 ところが通信バブル崩壊で,2001年の世界の携帯電話機の生産台数は大幅に減少。携帯電話機向けの部品在庫は数千万台分とも1億台分とも言われた。2002年も回復の足は遅く,世界中の大半のアナリストや市場調査会社が携帯電話機の先行きを不安視した。日本の携帯電話機メーカーは,海外市場で大きな赤字を出し,以後海外事業を大幅に縮小していくことになる。そしてこのときから日本の携帯電話機メーカーの急速なシェア低下が始まる。

 逆に通信バブル崩壊後,積極的に世界市場を開拓していったのが,サムスン電子,LG電子に代表される韓国メーカーである。2000年当時,携帯電話機メーカーの国別シェア*1を比較すると,韓国は日本の半分もなかった。しかし,通信バブル崩壊後,韓国メーカーは欧米市場でシェアを拡大し,2003年には日本のシェアを上回り,その後もシェアを伸ばしていった。2006年はややシェアを拡大できなかったが,それでもサムスン電子1社のシェアだけで全日本メーカーの合計シェアの約2倍もある。

技術で先行しただけでは海外では勝てない

 携帯電話機をハードウエア面で見ると,日本が世界に先行してきたのは確かである。しかし,その先行した部分を常に生かしてこなかった。カラー液晶搭載,カメラ搭載などの端末は日本が先行して世界で普及したが,日本製の端末は売れなかった。

 そして極めつけは第3世代携帯電話サービスのW-CDMA(UMTS)である。NTTドコモがいち早く日本で普及させたが,日本の端末メーカーは海外でシェアを伸ばせなかった。

 2006年末の段階で日本メーカーのW-CDMA端末の生産台数(日本市場向けも含む)を合計しても世界におけるシェアは30%程度しかない。携帯電話機トップのNokia社は1社で既にほぼ同じシェアを取っている。2007年にはさらにその差は拡大するだろう。ほんの数年前までは,W-CDMAは世界標準規格なので世界市場で戦えると言っていた日本の端末メーカーだったが,W-CDMAでも白旗を上げようとしている。次の3.5世代以降で世界市場を狙うという端末メーカーもあるが,大部分の部品メーカーはその言葉を信用していない。

 ある日本の大手端末メーカーの幹部は,海外の大手携帯電話機メーカーに対してシェアが圧倒的に少ないことに対して,「日本製の端末は海外製に比べ価格が3倍も4倍もする。金額で見るとシェアはもっと大きい」と強弁した。

 こう見てくると日本のビジネス・モデルが悪いというよりは,たびたび訪れるビジネス・チャンスに対して積極的な手を打てず,国内市場で何とか済まそうとしてきた日本の端末メーカーの姿が浮かび上がってくる。

 一方で,国内市場は成熟期に入っている。番号ポータビリティー制度導入で通信事業者間の競争は激化して,通信事業者は機種数を売り物とするようになってきた。1機種当たりの生産台数は減少するのは必然で,端末メーカーの収益性は悪くなる。「(商戦期ごとに,新製品を投入するのは)パスしたいと考えたことがある」(ある大手国内端末メーカーの幹部)。それでも大部分の国内の携帯電話機メーカーは商戦期に合わせて新しい端末を揃って投入している。大手部品メーカーは「海外で勝負できないから,日本でのビジネスを大切にせざるを得ない」とあきらめ顔だ。

日本メーカーの強さが生かせる方向の議論を求む

 こうした状況で,SIMロック解除とか販売奨励金の廃止で日本の携帯電話機メーカーの競争力が本当に強化されるだろうか。もちろん,国内の端末メーカーの国際競争力が付く可能性がゼロとは言わないが,この処方箋は日本の端末メーカーの死を招くような劇薬であると覚悟していた方がよいと筆者は思う。SIMロック解除や販売奨励金廃止で,海外メーカーはさらに日本市場に参入しやすくなり,海外へ進出できない日本メーカーは生産台数をますます減らしてしまうのではないだろうか。その結果,日本メーカー同士の淘汰が起こる可能性すらある。仮に日本メーカー同士が提携しても,シェアで海外メーカーとは既に圧倒的に差が付いている。例えば,NECと松下電器産業(携帯電話機事業はパナソニック モバイルコミュニケーションズ)は,技術提携を進めているが,2006年の両社のシェアを併せてもわずか1.5%しかない。

 国際競争力という点で言えば,総務省は喜ばないだろうが,日本メーカー同士より,海外の大手端末メーカーと提携していくことの方が意味がありそうだ。ソニーとスウェーデンのEricsson社の携帯電話機事業部門が合併してできた英Sony Ericsson Mobile Communications社はその成功例と言える。合併当初は,双方の事業がうまく融合できず,合併前のシェアをなかなか回復できなかったが,2005年ころから急速にシェアを上げてきた。ソニーのデジタル家電の強みとEricsson社の通信技術の強みが相乗効果を出している。

 国内は携帯電話ビジネスが成熟期に近づき,色々な問題が顕在化しているが,これまでのビジネス・モデルで高性能・高コストの端末をすばやく普及させ,世界に先駆けて新しいサービスを提供してきたのも事実である。日本の携帯電話ビジネスの国際競争力をどのように上げていくかは,これまでの強みを生かせる形で議論が進んで欲しいと考えている。


 日経マーケット・アクセスではここで説明したような携帯電話機を始めとした電子機器の市場動向について,半導体や液晶パネルなどの電子デバイスの立場から見たセミナー「デバイスから見た世界の電子機器市場――成長分野の芽を探る」を2007年3月16日に開催する(詳細情報)。部品から見ることで初めて分ることは数多い。ご興味のある方は参加してほしい。


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